岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(79)離職」(2月9日)

 風邪から回復して会社に出た月曜日の出来事なんです。結構、目をかけて期待して、ある部門を預けていたマネージャーが朝一番に私の事務所に立ち寄り、ちょと話をしたい!と言うのです。こういう時の独特の雰囲気を何回も経験しているんで、これは会社を辞めたいという話だろう!とピンときた訳ですが、案の定、彼の曰く、自宅から10分ほどで通えるところに良い職場を見つけた。採用条件もポストも満足出来る。このチャンスを逃したくないので、2週間と云う短期の退職通知で迷惑をかけるが、退職したいと云う訳です。彼が通勤に片道1時間以上かかることは知っていますが、それは入社した時からで、それを承知でこの会社に就職したんじゃないの?と言いたいんですけど、辞めると決めた人を引き留めるほどナンセンスな話もないので、了解。総務部門とのペーパーワークをするように伝えました。彼は採用してから1年8ケ月で、現在の仕事が不満とか、人間関係に問題が生じている訳では無く、より良い条件のポストが見つかったというだけの退職理由です。労働人口の流動は企業の新陳代謝に効果があると同時に労働者の自己啓発にもつながると云う考えに総論は賛成なんですけど、各論では迷惑この上ないと云う訳で、被害を受けた本人として今回はアメリカの離職について書いてみます。

 高景気に支えられて全米の失業率は史上最低の4.0%以下の水準。ハイテック企業が集中する、ここシリコンバレーでは失業率は1.7%以下と云う訳で、人材不足の時代です。特にパソコンやネットワーク、インターネット通信に関わる全ての技術者(経験を持つ)は極端に不足、実際に企業間での人材の取り合いの問題も起こっています。面白い話題としては、町にたむろするホームレスという浮浪者の人達を宿舎を
提供することによって一カ所に集め、そこでコンピューター教育をして、一定期間でコンピューター技能者として仕上げて職場復帰させる目的のボランテイアプログラムが実際に始まり、民間企業もその成果に期待している等と云う話もあります。

 そんな背景から有能な人材を給与の他に特別ボーナスやストックオプションと云ったインセンテイブをつけて魅力的な状況を作り出して人集めをする訳ですが、一度、就職しても、それを上回る条件が他社から出ればまた移ってしまうと云うジレンマで、プロフェショナルとしてのモラルは何処に行ってしまった?と言いたくなるような状況です。反面、専門性を持たない人達はそのしわよせを受けて、給与がほとんど上がらないまま、一つの職場に残らざるを得ないという社会であることから、向上心のある人達は夜間や休日に専門学校等に通い、世間で認められる技術や能力を身に付ける努力をしたり、年齢に関わらず、新しい技術や難しい仕事に対してチャレンジすると云う向上心を持った前向きな考えになる為、日本のサラリーマンなど遙かに及びも付かない形のバイタリテイーを感じます。

 以前にも書きましたがシリコンバレーの企業は社員を教育して使うと云う考えに乏しく、即戦力となる専門性を持つ経験者を大変優遇するところです。ですから、現在の能力を認めてもらって就職し、その職務経験を元に更に自分の求める職場を見つけて就職するという繰り返しによって、よりポストの高い高収入のポジションを得る努力を続けることになります。無論、何処の会社の中でも現在の社員から昇格させるシステムもあるのですが、それを待つより、自分の欲しいポジションを外に求めた方がよりチャンスが多いと云うことだと思います。無論、好条件のポストには多くの応募者が集中しますから、それなりに競争も激しい訳です。

 ポストを見つけて採用が決まった場合、新しい採用先は早期に着任するように求めますから、結局、離職日の2週間前に会社に対して退職通知を出して最初の一週間で引継を行い、本人の休暇があれば、その次の週は骨休めということで、休んでしまう人達が多いように感じます。これは本人達の性格によると思うのですが、最後の日まで普通どうりの仕事をする人もいたり、遅刻などしたことが無い人間が、退職通知後は
もうボスから文句を言われることも無いという訳で、平然と遅刻してくる人間等々、色々の人間模様を見ることになります。特に会社として退職金などのシステムも無い為、最終日に最後の給料を精算してもらって、会社の入室バッジ、クレジットカード、携帯電話等々を返却、夕方3時ごろ私物をまとめて、同僚からはグッドラック!と握手をされ、退社すると云うのが普通のパターンのように思います。日本で云う退職による後ろめたさのようなものはあまり感じなく、極めて事務的な感じで最後の日が終わるというのが実感です。

 さてシリコンバレーで一人の人間が一つの会社で就労する平均期間は現在2−3年になってしまいました。一つの会社に5年ー10年勤める例は非常に少ない例です。ある名の売れた地元の大手半導体企業の従業員の年間離職率は25%以上だそうです。つまり1年間の社員の4分の1が辞めてしまって新しい人に入れ替わる訳で、4年間には当初の社員全員が入れ替わってしまう勘定になります。それでも企業として
成長を続けていると云う状況は日本人的な経営感覚では理解に苦しんでしまいますがシリコンバレーのハイテック企業の離職率の状況はほとんど似たりよったりです。

 無論、個人的にもアメリカ国内で離職の経験はあるのですが、現在のこのアメリカの離職の頻度にはなかなか考えがついていけないというのが実状です。

岩間@サンノゼ