岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(80)ストックオプション」(2月21日)

 こちらはプレジデントデーの祝日による3連休です。サンノゼは昨日、何とか雨が降らずに済んだものの、日曜日からはウインターストームと呼ばれる冬の嵐に襲われ、終日、強い風と断続的な雨と云う生憎の天気です。

 一昨日、私の家の2軒隣が売りに出ました。付近の家の相場を知る良いチャンスと思って、早速、チラシを受け取ってみるとギクッ!随分、値が上がっているとは聞いていましたが、何と6年前に購入した価格の2倍なんです。個人的には含み資産が増えた訳なんで嬉しいのですが、感覚的にはサンノゼを中心とするシリコンバレーは今バブルの真っ最中!と改めて感じました。

 しかし、これだけ高くなった住宅なんですが、飛ぶように売れるのです。特に若い世代の技術者の人達が、給与所得と比べるとずば抜けて高価な住宅を、さほどの躊躇(ちゅうちょ)無く購入しているのです。その理由の一つが企業の「ストックオプション」と云うシステムから出ています。

 又聞きの話だったので、どんな調査から得られた結果か?定かでありませんが、シリコンバレー住人の7世帯中の1世帯は昨年の所得が1Mドル(1億1千万円)以上であったと云うのです。私の周りで、そんな人を見かけないので、ひっよとすると私を含めて、私の知り合いは皆低所得者なのか?と疑いたくなってしまいますけれど。実はこれもストックオプションと云うシステムに依るところが大きいのです。

 日本でストックオプションと云う言葉をあまり聞くことはないかもしれませんが、このシステムがシリコンバレー企業、いわゆるベンチャー企業の活力を支えていると云われます。その企業の株を社員に超低価格で分け与える制度なのですが、日本の自社株保有制度などと大きな違いがあります。シリコンバレーは技術やアイデイアを核にベンチャー企業と呼ばれる会社を設立して、その事業を成功させて金持ちになると云う新しい形のアメリカンドリームが実現出来る土地として知られています。

 世界中のパソコンの頭脳部となるマイクロプロセッサー製品市場を独占するインテル社やAMD社。ウインドーズを提供するマイクロソフト社も今は巨大企業ですが、もともとはベンチャー企業の一つでした。これらベンチャー企業は短期に成長して、株式を公開させると云う企業使命から、立ち上げ時期から経験のある優秀な技術者やセールスマン、経営管理者が必要になります。まあどこもそうなんですが優れたアイデイアの実現には人材がキーになります。人集めには良い給料を支払うことが必須なのですがキーになるのは、ろくに収入も無いスタートしたばかりの企業には世間相場よりずば抜けた高い給与は支払うことは困難です。

 そこで会社は優秀な人材確保の為に、必要な人材のレベルに応じて、入社条件として給与プラスとしてスットクオプションを提供することになります。新たに設立した会社は株式会社ですが、その株は高くても1株10セント(11円)ぐらいのものです。会社創業者やベンチャーキャピタルと呼ばれる投資家などは1株=2セント(3円)ぐらいの換算率で出資することが普通です。会社は発行予定の株数の中にこのスットクオプション分を確保しておきます。

 たとえばですが、人材スカウト策として、うちの会社で働いてくれるなら年俸XX万ドルにプラス2万株のスットクオプションを提供するけれど?と云う訳です。これはあくまでもオプションですから、本人が採用された時点では会社側も本人にも特に金銭的なやりとりはありません。採用された人は条件にあった給与額を受け取って仕事をする訳ですが、将来のストックオプションの行使を当てにして、それなりに真剣に働く訳です。いわゆるインセンテイブ(本紙から=刺激的、奨励金といった意味です)になる訳です。もちろん、働きの成果によってはこのストックオプションは割り増しされることもあります。給料は世間並みだけれど、もしかして事業が成功すればストックオプションが手に入る!という訳です。

 普通、成功しているベンチャー企業は設立後、4−5年すると株を公開できるような条件や環境が出来上がります。むろん会社の業績とか将来性にもよりますが、これらの企業の株を公開すると、市中の株価として一株30ドル程度の値段がつきます。むろん、その後の業績が更に上がったり、投機的な買いが続いた場合は株価はもっともっと上がります。

 ストックオプションの場合はその企業が株を公開した時点で行使することは出来ませんが、規則によって公開後1年後ぐらいに行使できるようになっています。その後であれば、先にストックオプションをもらっていた社員は、その行使を求めることができます。つまり、会社から約束の2万株を約束の1株10セントの条件で買い取ることが出来ます。この場合、2万株で1株10セントの条件であったとすると、計2000ドルを企業側に支払い、この株を受け取ります。この株はもう個人の物ですから株式市場で売却すると株価が30ドルであった場合、売却額は60万ドル
となり、会社からの買い取り額2000ドルを差し引いても59万8000ドル(約6千600万円ぐらい)の現金を得たことになります。

 現実、ストックオプションとして提供される株数はポストによっては5万株、10万株となりますから、ストックオプションを行使して、その株を運良く高値で売却出来た時に得られる金額は途方もない金額になります。無論、一度にそんな大きな数の株を売却出来る訳ではありませんが。
いずれにしても、この株売却益となるお金は市中で購入した人が支払っている訳で、企業自体は当人に給与以上のお金を社員に支払っていませんから、高額であっても会社の懐は全く痛まない訳です。

 夢のような旨い話なのですが、現実にシリコンバレーでは1年に100社近い企業が株公開をしていますから、スットクオプションの恩恵を受けることが出来る人も多く、バブルと思われる株価高騰のこの時期ですから、株売却益は最高レベルになっているかと思います。

 しかし、その夢が実現しないケースもたくさんあります。ストックオプションを沢山もらったけれど、事業が旨く行かずに会社が倒産したり(シリコンバレーで設立された企業の25%以上が5年以内に消滅しているそうです)、解散してしまった場合です。まあ本人も給与だけは貰っていたので、損したと云うより宝くじの当たりを逃したような気持ちだそうですが。株公開が出来たけれど、その後、企業業績が落ち込んでストックオプション行使出来る時期にはただ同然の株価になってしまったとか。行使して株を持ったけれど、もっと値上がると思っていたら急落してしまったとか。まあ株は所詮株と云う訳です。

 無論、シリコンバレーでも、そんな浮き世の当たり外れのような暮らしを好まず、安定した大企業で働くことを好む人達も沢山います。ただ、シリコンバレーと云う土地はアメリカの中では別格にスットクオプションを享受出来るチャンスの多い地域であり、その成功者も多いだけに、普通のアメリカ社会とは少し違うように思います。

ではまた。

岩間@サンノゼ