先々週、私の部門で、たまたま実務経験を問わないエントリーレベルの仕事をこなすスタッフを増員することになりました。職務遂行上、日本語が必須と云う訳ではありませんでしたが、募集案内を日系のインターネットフォーラムに載せたところ、一週間の間に約40名ほど日本人の方の応募があり驚きました。
日本から応募された方もいましたが、多くは日本人の留学生で、アメリカの大学をこの夏に卒業し、アメリカ国内で仕事を見つけたいと云う希望の方でした。つまり、卒業後もアメリカでの生活を続けたいと云う方々です。また履歴書を読んだり、本人との面接を通じて感じたことは、勉強や生活と云う意味で相当な努力をされて卒業の段階に至ったと思われる、しっかりした方(特に女性)が多いのには驚きました。
しかし、現実問題として大学を無事卒業出来ても、アメリカ国内で就職しようとすると、就労ビザの取得と云う壁に阻まれ、就職そのものも大変な苦労をしけなればいけないし、不本意にも就職先が見つからず日本に帰国を余儀なくされる方も沢山いるようです。
今日は、これからアメリカの大学への留学を考え、また将来アメリカで就職をしたいと思っている方たちへのアドバイス(?)いや、世間話をしてみたいと思います。
夏休みを利用した短期間の語学研修プログラムなどを除き、日本の高校を卒業してアメリカの大学からフルタイムの学生として入学許可を得る為の必須条件は、成績もさることながらTOEFLと呼ばれる英語力のテストを受ける必要があります。学生にとって英語力の問題で講義の内容が分からないと云うのでは、意味が無いので各大学で入学に必要な最低点の基準を定めています。
しかし、現実にはこの条件を満たして大学に入学出来ても、実際の講義の内容がキチッと分かると云う留学生は相当な英語の実力のある方で、日本で英会話学校にも通っていた程度の語学力では、正直なところ講義の内容がさっぱり分からないし、宿題のレポートが書けないと云う留学生は珍しくありません。そんな理由から多くの大学では留学生に対して入学後も、普通の学生とは別に英語の補習取得を義務づけてい
るところがほとんどです。特に専門科目の取得に入る前の一般教養科目は内容も多岐にわたる為、アメリカ生まれの同世代並の知識を身につけていない限り、この修得は実に困難です。学生が学期中に何科目かの単位を落とした場合、日本の大学と異なって学生を放校処分としてしまう為、留学生にとって、実はいきなり大学に入学することはそのリスクも高い訳です。
そんなことから、多くの日本人留学生の方は、アメリカ中のどこの町にも存在するコミュニテイーカレッジと呼ばれる各地域の学校区が運営する短期大学(日本の短大とは少し異なりますが)に、まず入学(ここは無試験)し、英語の勉強をやり直してTOEFLの為の勉強をしたり、大学と比べると比較的修得が簡単な一般教養の科目も、そこで選択して勉強し、必要な単位と英語力が揃った時点で、大学への編入を試みると云う方が多いようです。大学によって差がありますが、コミュニテイーカレッジで取得した単位をある程度認めてくれますから、コミュニテイーカレッジ修学は、その助走期間になるし、修得した単位が全て無駄になる訳ではありません。無論コミュニテイーカレッジからどこの大学でも入学出来ると云う訳で無く、本人のそこでの成績とコミュニテイーカレッジのレベルも当然ながら入学判定で考慮されます。
さて大学に入学してからですが、私の個人的な感じをお話しますと、英語力に相当な自信が無いと文化系の学科を卒業することは実際になかなか難しいと思います。文化系の学科は単に講義を聞くだけでなく、読む、書く、話す等、全ての分野での能力を必要とし、自分の考え等の自己表現が非常に重要視されるからで、レベルの高い大学になると英語がベースのアメリカ人学生ですら音をあげるケースも珍しくありません。
一方、理科系の学科は文化系に比べて勉強の範囲が狭くなることや数学や理科系の問題のように答えは一つと云うことで、英語力は文化系の学科ほど要求されません。無論、専門書が読める程度の英語能力がないと話になりませんけれど。海外からの留学生の多くが理科系を選択する理由の一つには卒業後の就職し易さと云う理由もありますが、文化系ほど英語の総合力が要求されないからだと云われています。
それでも、本人の努力と実力があれば大学は卒業することはできます。特にアメリカの大学は大抵の学生が4年間で卒業すると云うシステムではありませんから、5年かかる場合、6年かかる場合、これは様々です。
先にお話したようにアメリカの大学を卒業した留学生の多くはアメリカでの就職を希望します。実際、アメリカでの就職や永住したいという希望を実現する為にアメリカの大学を選ばれた方がほとんどのようです。しかし、ここからは学生時代と異なり、本人の努力だけでは解決出来ない大きな壁にぶつかります。つまり、就労ビザの取得と云う問題です。
卒業した留学生に対しては、本人が希望すれば最長一年間を期限にプラクテイカルトレーニングと云うことで、大学で勉強したことを会社や団体の中で実務経験をつむ為の就労許可が出ます。プラクテイカルトレーニングは期限の延長を認められないので、学生時代に半実習の目的で給与を得て、このプラクテイカルトレーニング期間を利用してしまった場合、卒業後はその残り分の期間の許可しかもらえません。
アメリカ国内で就職を考えている卒業生は、まずこのプラクテイカルトレーニングの条件で受け入れてくれる就職先を見つけ、その企業に於いて役にたつ人材と認めてもらい、企業から労働局に対して、就労ビザの発行を求める嘆願書を提出、労働局の審査に於いて、能力、給与条件が適当であり、かつ同じ条件で、同じような能力を持つアメリカ人労働者を短期に見つけることが困難と判断された場合、移民局を通じて本人
に対して3年間プラス2年間の延長が可能な就労ビザ(Hビザと呼ばれる)が発給されます。しかし、採用企業側にとっては面倒な司法手続きの他に、同様な能力を持つアメリカ人の採用が難しいと云うような証明をせねばならず、しかも嘆願書を提出したら、必ず認められるとは限らないこと、就労ビザが給付される迄の期間がはっきりしないことや年間の就労ビザの発行数には制限があること等々、面倒なことが多く、よほどの必要性が無い限り、プラクテイカルトレーニング条件での採用者に対して、就労ビザ取得のバックアップの保証をすることには非常に消極的です。ただ現在のシリコンバレーのように企業は好況で拡大政策をとっているところではソフトウエア技術者などが極端に不足している為に、これらの技術者補充の為に、この面倒な就労ビザ申請のサポートをする企業もあります。
一般的に、この就労ビザのバックアップを前提として企業に採用してもらうには理科系学科の卒業生の方が有利であると思われます。文化系学科卒業者の場合はその専門性を証明することが、理科系ほど簡単ではないと云う問題があります。つまり、アメリカでの就職活動に於いては英語と日本語が自由に使えますと云うだけの能力だけでは専門性を持つと判断してもらえないことです。
先に話をしたように就労ビザ(Hビザ)の年間発給数は限られています。クリントン政権は企業側の強い要請を受け入れて、ここ数年間その発給数を特例として増やしていますが、この就労ビザはアメリカの大学を卒業した留学生の為だけで無く、海外からアメリカ国内で働きたいと希望する現役の技術者にも割り当てますから、最悪の場合、苦労してプラクテイカルトレーニング条件で就職先を見つけ、幸いにも、その企業がビザ申請のサポートをしてくれたとしても、発給枠の関係から、実際の発給は次年度と云う扱いになってしまい、その間に一年間のプラクテイカルトレーニングの期限も切れ、職場を失うと云うケースもよく起こることです。
次に、幸いにして就労ビザ(Hビザ)を取得した場合でも、このビザは3年プラス2年の延長を限度とし、計5年間、合法的に申請をおこなった企業で就労出来ると云うビザです。その期間中に離職して、その資格で他の企業で働くことが出来ません。従って、ようやく、この段階までたどり着いた人達の多くは、自ら自由に仕事を選択でき、その期間も制限されない永住権(グリーンカードと呼ばれる)取得を目指すことになります。
この永住権取得の話は長くなりますので、また別の機会にお話しようと思います。ただ安定した就労条件が得られるグリーンカードの取得には更に3−4年間の期間が必要になります。つまりアメリカの大学に入学出来てから8年から10年と云う期間を経て、自由な条件でアメリカ国内で働くことが出来るという資格を得ることが出来る訳です。
結論は留学生としてアメリカの大学を卒業し、将来アメリカで就職を考えているケンニチの読者がおられたとしたら、なんでも良いからアメリカの大学に入るのでは無く、就労ビザを取りやすい学部や学科など本人の適正と卒業後のことを十分に頭に入れた上で考えることをおすすめします。
専門書の翻訳が自由に出来るレベルの領域に達したら別ですが、単に日本語と英語が自由に使えますと云う能力は企業にとってさほど魅力的な能力として判断されません。言葉は所詮道具であって、その道具を使って何か専門的な仕事が出来ますと云う条件が整って始めて企業に自分の能力を売り込むことが出来る訳です。そんなことから単に英語が好きとか、英語がうまくなりたいからと云う目的で留学され、その延長で、アメリカで就職をしたいと考えておられたら、これは大きな間違いです。
以上の困難を乗り越えてアメリカで活躍されている日本人も沢山知っています。また逆に学業半ばで挫折してしまい事情もあるのでしょうが、日本にも帰らずに不法滞在同然の形で、ニューヨークやロスアンジェルス等の大きな都市で日本人同士でたむろして暮らしている日本人も沢山います。特に後者の方と思われる人達を時折見かけると、やはり大変残念な気がします。
では
岩間@サンノゼ