詩人で童話作家でもある宮沢賢治のことはあまり詳らかではないが、さすがにその代表的な詩「雨ニモマケズ」ぐらいは心の中に生きている。「人間」その詩のように生きるべきだとは口にさえ出せる資格はないが、数ある詩の中でも“最高傑作”であることは間違いあるまい。先日、産経新聞のコラムでその詩をパロディー化し、「雨ニモアテズ」と題したものがあると言うのを知った。このごろは新聞のコラムさえあまり読む暇はないが、産経のコラムは好きな読み物の一つである。自然描写の見事さ、そして社会風刺のうまさなどでファンの一人であった。コラムによると賢治のふるさと盛岡の小児科医・三浦義孝氏が、この夏の小児科学会で披露したのだという。作者不詳だそうだから、そのまま紹介しても叱られまい。
雨ニモアテズ 風ニモアテズ 雪ニモ 夏ノ暑サニモアテズ
ブヨブヨの体ニ タクサン着コミ 意欲モナク 体力モナク
イツモブツブツ 不満ヲイッテイル
毎日 塾ニ追ワレ テレビニ 吸イツイテ遊バズ
朝カラアクビヲシ 集会ガアレバ貧血ヲ起コシ
アラユルコトヲ 自分ノタメダケ考エテカエリミズ
作業ハグズグズ 注意散漫スグニアキ ソシテスグ忘レ
リッパナ家ノ 自分ノ部屋ニ閉ジコモッテイテ
東ニ病人アレバ 医者ガ悪イトイイ
西ニツカレタ母アレバ 養老院ニ行ケトイイ
南ニ死ニソウナ 人アレバ 寿命ダトイイ
北ニケンカヤソショウガアレバ ナガメテカカワラズ
ヒデリノトキハ 冷房ヲツケ
ミンナニ 勉強勉強トイワレ
叱ラレモセズ コワイモノモシラズ
コンナ現代ッ子ニダレガシタ
読んでいて思わず「うまいなー」と手を叩いてしまったが、読後感は雨にあたった濡れ落ち葉をかき集めるようなやりきれなさでいっぱいだった。見事に現代を風刺しているからである。「雨にもあてず 風にもあてず 雪にも 夏の暑さにもあてず」。作者は現代っ子はこうした恵まれた生活環境で大切に育てられ、肥満児を生み出し、意欲も体力もない子供にしてしまっているとでも言いたかったのだろう。
学校の授業が終われば塾に追い出され、暇と時間があればテレビゲームに夢中になり、寝不足と運動不足も重なって「朝からあくびをし、学校での集会があれば貧血を起こして倒れる子供たち」。そして「あらゆることを自分のためだけ考えて省みず、注意散漫すぐにあき」と学級崩壊と言う言葉も生れた教育現場の乱れを見事に風刺した。
おまけに「りっぱな家の自分の部屋に閉じこもっていて」と閉じ籠もりがちな少年や登校拒否と言う問題をあぶり出し、「東に病人がいれば医者が悪いと言い 西に疲れた母があれば養老院に行けと言い 南に死にそうな人があれば寿命だと言い」と不平と不満に満ち、そして我が身しか省みない身勝手さがあふれている現代社会を描いた。確かに「日照りの時は冷房をつけ」たら自分だけは困らないだろう。それにしてもこんなパロディーさえも生れる世の中になってしまった。殺伐とした世の中になってしまった。先生が生徒にナイフで刺され、主婦が「殺してみたかった」という高校生に殺され、母親が息子の高校生に殺される。そして少年によるバスジャック事件。
いや少年だけではない。先日は遺跡の発掘調査では「神の手を持つ男」とまで言われた考古学者が石器を自分で埋めて「最古の石器を発掘した」とねつ造したことが分かり、大騒ぎになったばかりだ。毎日新聞がその石器を遺跡に埋めようとしている現場をビデオで撮影し、動かぬ証拠を突きつけて学者のウソを認めさせた。その学者が発掘した石器には重大な疑問が多いとの情報に基づき、取材班を結成し夜明け前から現場に張り込みを続けてねつ造現場の動かぬ証拠を撮影したと言う。毎日新聞は5日の朝刊で報道し、他社は翌日の朝刊で取り上げるしかなかった。スクープ合戦で明け暮れる新聞社の歴史の中でもまさに歴史に残るスクープだろう。
同業者としてこのようなスクープを目にすると嬉しいし、胸が躍る。新聞はまだまだ健全で健在だと言うことを思い知った。それにしても「雨ニモウタレズ」には参った。学会で詩を紹介した盛岡の小児科医・三浦義孝氏は医師としてどんな思いだったろう。参加した先生たちも思わずニヤリとはしたろうが、「こんな世にだれがした」との思いが募ったことだろう。もうすぐ21世紀だ。やはりここは人間性を取り戻そう。そして宮沢賢治の本物の「雨モマケズ」を読もう。
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋(いか)ラズ
イツモシヅカニワラツテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジヨウニ入レズニ
ヨクミキヽシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病氣ノコドモアレバ
行ツテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ツテソノ稻ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ツテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクワヤソシヨウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボウトヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハ
ナリタイ