大曲市と言うこの街で暮らし、この街で仕事をするということに最近、強い不安と空しさ、悲しみを覚えるような事があった。その心の傷みに向かい、それを書き綴った。思いのたけをぶつけてみようとキーボードを叩いたらわずか数時間で原稿は書き上がった。読み直しても「傑作」だと思った。我ながら良く書き上げたと思った。しかし、何度も何度も目を通すうちに「私怨」を晴らしただけではないかとの空しさを覚え、書き直しては削り、書き直しては削り、最後は白紙にした。この1週間、空しい時間だけが流れた。本屋に入り、文庫本を数冊買った。夢中になれるものがほしかった。没頭するものがほしかった。それでも心の傷みは癒されなかった。
読者から表紙の写真のコメントに対して抗議のメールがあった。「故郷をけなさないでほしい」とあった。こちらだってこの街で生活し、生きている限りこの街を愛で、この街を大切にしたい気持ちに変わりはない。しかし、どう折り合いをつけたらいいのか、そのことで悩むことだってある。悲しむことだってある。それを知ってほしいと思った。
おかしなことだが「秋田県南日々新聞」はやはり新聞である。そう思って取材した話題を書き、ニュースとして発信している。“公器”であるとの自覚は持っている。しかし、一人で取り組んでいることの限界もあり、個人の感情をそのまま表現する息抜きもさせてもらいたい。その場が表紙写真のコメントであり、こちら編集室だ。この二つの紙面でケンニチは自分の感情の赴くままに文章を書くことが多い。それは息抜きであり、心の休息でもあり、読者に自分自身をさらけ出し、苦悩を語る場でもある。ケンニチの個性だと思っている。しかし、息抜きでもあるが書くと言う「力仕事」に時にはヘトヘトになる。今回もそうだった。月曜日。感情の赴くまま書き綴り、書き終えた。それから1週間、推敲を重ね、全面的に書き直した。書き直した結果、公開するのは止めようと思った。
そう思ったらいきなり体中から力を失いヘトヘトになった。同時に気分がとても楽にもなった。この1週間は自分との格闘だった。批判する事は簡単だ。だが、書かれた相手の心の傷みはどうする。結局、許すという折り合いを自分で見つければ解決することが分かった。1週間悩み、自分と格闘し、書くことに懊悩し、心の悲しみを見つめ、そしてもう止めようと思った。その瞬間、凍てついた心の中に温かい灯火が光った。
いつも金曜日までに書き終え、更新している「こちら編集室」をあきらめ、家を飛び出した。夜道を少し歩いた。冷蔵庫の中を歩くような冷たさだったが夜空には冬の星座がキラキラと輝いていた。その星座を見上げ、その星座の美しさに見とれた。心の格闘はもう終わったと思った。美しい星座がそれを祝福していた。こちら編集室、1日遅れたが、明日の朝、つぶやくように書き直そうと思った。そして今の時間を迎えている。
夕べ夜道を少し歩いてから本紙の大切なスポンサーとなって下さっている「秋田清酒株式会社」からお歳暮として届いた「出羽鶴 初しぼり」を飲んだ。冷やのまま一気に飲んだ。のどごしに流れる“初しぼり”の味が言いようもないほど美味かった。初しぼりの取材で南外村の出羽鶴酒造を訪れたのは11月17日だった。槽(ふね)と呼ばれる大きな枡の細い管から生れたばかりの酒がチョロチョロと流れ出し、それを口に含んだ時のあの時の何とも言えない幸福感がよみがえった。美味しい酒は心をいやす。そう思った。それにしても「秋田清酒」さんにはこちらこそお礼の“お歳暮”を送り届けなければならない立場なのにスポンサーさんの温かい配慮に頭が下がる思いだった。ケンニチはスポンサーから運営資金だけでなく心の応援さえも頂いている。
お酒を飲みながら東京の出版社から本紙宛てに送られてきた本に目を通した。本は大曲高校、東北大学を卒業し、国内でもいち早く(1987年)インターネットの調査研究に携わり、日本インターネット協会長を務めた後、現在は「インターネット戦略研究所代表取締役会長」など多くの要職をこなし、国際的に活躍している高橋徹氏の「インターネット革命の彼方へ IT国家戦略と情報化社会」だった。酔った頭で本をペラペラと開いたが、カタカナとローマ字交じりの文章に閉口し、酔いは一層、深まった。ごめんなさい。高橋さん。でも嬉しかった。このような方が数年前の出会いからずーっとこれまで、地方の片隅でインターネット新聞に取り組んでいるケンニチのことを覚えていて下さったのである。
買った本の中には月刊誌「KEN」もあった。市川雅由さんが発行する権力と闘う、闘争心むき出しの月刊誌である。余り買ったことはなかったが、新聞で「KEN、12月号で廃刊」とのことを知り、その最後を見届けようと思った。市川さんとは仕事でも付き合いがあり、「KEN」発行に踏み切るまでの不幸な経過も良く知っている。ただ余りにも個性的な性格からどうしても馴染めない人だった。新聞では取り上げようもない県内の社会問題に真っ向から挑戦し、時には県民の「駆け込み寺」としてもてはやされ、その一方では眉を顰(しか)められる存在でもあった。馴染めない人だったが、その強烈な個性と強さには敬服していた。その「KEN」が廃刊すると言うのを知って、一人で取り組んでいる「県南日々新聞」の弱さともダブった。これも心の弱まりかもしれない。
とにかく書くと言う「力仕事」に生き甲斐と喜びを再び味わいたいとキーボードに向かった。記者室を出たことや表紙写真のコメントを巡って、多くの読者には心配をかけてしまった。自宅にまでお見舞いの電話を下さった読者もいる。嬉しかった。「読者の広場」にも多くの読者が心配の書き込みをされている。ケンニチの個性は読者に心配を与えながら、取材し、書いているところにもある。
取材活動、ニュース更新の面でとても不便にはなったが頭を切り換えたら「モバイル」と言う方法があった。携帯電話から直接、書き終えた原稿を送る方法があるのだ。電話料が心配だが、ケンニチにはもうそれくらいの経費を補える力が備わった。誰にも拘束されず、公平な立場に立って自由にニュースを発信し、社会正義に尽くす。これからはその立場が一層強めることが出来る。そして自由に書くこともを楽しめよう。勤務先の会社からも「気にするな。会社で原稿を書き、君の『秋田県南日々新聞』の編集もやったらいい」と好意に満ちた言葉を頂いた。これからはパソコンを常に持ち運び、ケンニチらしいモバイルな新聞活動をしよう。そう思ったらとても気分も楽になった。読者の皆さま。今後の本紙への情報提供はメールはもちろん、電話での連絡は090−1066−2534の携帯か、0187−65−2611の自宅へとお願いしたい。
最後に高橋徹氏の「インターネット革命の彼方へ−IT国家戦略と情報化社会」はインターネットによって「主人公なき革命が進行している」との透徹した視線でIT社会への警告と良き指導書としてお勧めしたい。出版は「KKベストセラーズ」(東京都豊島区)で,問い合わせは03−5976−9121へ。定価は1500円。ホームページアドレスは下記へ。