「桃源郷 玉川−七彩の妙−」「花輪ばやし紀行」
玉川の自然の魅力、花輪の夏祭りの郷愁を伝える(5月6日・日)
風景や祭りをモチーフにした「写真集」を評価するのはやはり読者である。買い求めた写真集を手にした読者が、その中に収められている風景を見て、その現地を訪ねてみたいという強い誘惑に駆られるか、その祭りを生で観てみたいとの郷愁感にかられるかどうかに掛かって来るのではないだろうか。鹿角市の総合印刷デザイン「株式会社アップル」が発行している写真集「桃源郷 玉川−七彩の妙−」と「花輪ばやし紀行」を手にしてそう思った。
桃源郷「玉川」は富樫弘さんの写真をまとめたもの。そして秋田県の無形民俗文化財の指定を受け、日本一の祭りばやしとも言われている「花輪ばやし紀行」は木俣さん、遠藤さんというカメラマンにアップルの社員10人が徹夜で撮りまくったものをまとめたものだ。
桃源郷「玉川」は、国立公園八幡平のふところにある秘湯「玉川温泉」で全国的に知られている。撮影者の富樫さんは1992年、朝日新聞社主催の「日本の自然」写真コンテストで秋田県一賞を受賞、さらに富士フイルム「ネイチャー・コンテスト」で優秀賞を受賞、96年2月の「第9回十和田湖の四季写真コンテスト」では特選(秋田県知事賞)を受賞、98年の「第10回白旗史郎賞日本山岳写真コンテスト」でも入選するなど自然をモチーフにしたアマチュア写真家としての経歴は申し分ない。
富樫さんはおそらくその玉川温泉を中心とした八幡平の魅力の虜(とりこ)となったことだろう。虜と言うより八幡平が四季折々に見せる様々な表情に魅せられ、男が女に恋するようにカメラを持った富樫さんは八幡平が見せるすべての表情に恋したようにさえ見受けられる。自分も30〜40代のころ、写真に夢中になって八幡平の初夏から秋の美しさに魅せられ、カメラを手に何度か足を運んだ覚えがある。それだけに富樫さんの写真を観ているとその気持ちが手に伝わって来る。富樫さんは八幡平の山の表情、そこに棲息する木々や草花の一つひとつに恋し、流れる水にさえも慕情を抱き、晴れた日だけでなく霧に包まれた日も、そして山に厳しい冬が訪れた季節にも臆することなく訪れ、自然と語り合い、自然と向き合い、自然を慈しみながら、シャッターを切ってきた。そんな気持ちが伝わって来る。
一枚一枚の写真に優しさがこもっている。思い入れが詰まっている。例えば名カメラマンは非の打ち所もない美女を撮る時でもその欠点を見つけ、どんなアングルで撮ったらより美しく写るかを瞬時に計算すると言う。美しい八幡平はまさに美女の横臥だ。その美女の横臥を富樫さんはただ撮るのではなく、カメラのファインダーをのぞきながらどう切り取ったらより美しい笑顔になるかを分かっている。八幡平・玉川の美の道先案内人になりきろうとしている。
表紙をめくって巻頭を飾った「曽利滝上流」の秋の風景でもそうだ。水の音が観るものに伝わって来る。秋の静寂が心の琴線に響き、紅葉の美しさに魅せられる。冬の厳しさを一蹴する「夕暮れの樹氷」「夕映えの山」でもそうだ。雪解けのころのブナ林にも富樫さんの優しさはこもっている。新緑のブナ林、雲遊ぶ八幡平の大空にも。そして玉川温泉を訪れる一人ひとりのハイカーとも同調し、一体化する喜びを写真で語る。燃える秋に悲しみと別れの余韻を残す。写真集をひもとけばひもとくほど富樫さんの歩いた道、写真を撮った場所を訪ねて見たくなる。そうした心のこもった写真集であり、心を癒す風景が詰まっている。
一方の「花輪ばやし紀行」。祭りとはいつでも郷愁感を高めるものだ。特に夏の終わりを告げる日本の祭りには懐かしさと母のような温もりや哀愁を感じさせる。写真集をひもとくとこれはプロのカメラマンが腕によりを掛けて撮ったと言うより、失礼だが多分に素人っぽさが感じられる。あとがきに木俣さん、遠藤さんの名が撮影者の代表として記されているが、アップルの石木田一彦社長によると石木田さんも含めアップルの社員10人が徹夜で撮りまくった写真をみんなで選び、編集したもののようだ。しかし、祭りの写真にはあるいはプロとかアマとかの垣根はないかもしれない。むしろその祭りをいかに熟知しているかが重要な要素だろう。つまり幼いころからその祭りに接し、祭りを見て育ち、祭りこそ自分のアイデンティティーを育てた原点だと自負している人が撮った写真こそ本物を語る力があると言えよう。
金箔の木彫りで華麗に彩られた10台の巨大な屋台。大勢の囃(はや)し手たちを載せて町内をパレードする屋台の豪華絢爛さと熱気、屋台を引く若者たちのエネルギーは写真集をひもといていても充分に伝わって来る。駅前の広場でだろうか。屋台と屋台が交差して作り出される“光りの芸術”は見事だ。写真そのものの描写は技術的な面でやや精緻に欠けるが、祭りの熱気、賑わい、若者たちのエネルギーは観るものに伝わって来る。囃子の音もまるで耳に直接入って来るような錯覚に陥る。
花輪ばやしは8月19、20の両日にわたって奉納される「祭礼ばやし」で、町内ごとに競い合って古くから造られてきた伝統の屋台を繰り出し、老若男女が囃子を競い合う祭りと言う。煌々(こうこう)と光り輝く屋台。その屋台の中で繰り返される鉦(かね)、太鼓、笛の演奏。まさに北国の短い夏を華麗に彩り、情緒あふれるドラマを繰り広げる祭り絵巻と言えよう。屋台が繰り出される華麗な祭りの光景もいいが、花輪ばやしが始まる前の8月16日の神輿(みこし)渡御の神官たちの素朴な巡行の姿などの土臭さなどは秋田ならではの情緒だろう。懐かしさで胸が詰まる。
この写真集で何と言っても感動を与えるのは表紙を飾った踊り子の美しさだ。写真集の中の「ゆかた」で「花輪の町には美人が多い。俗に言う『秋田美人』である」と語っている。その代表的な美人として「花輪の町踊りこ」の中でカメラマンたちは表紙を飾った美しい人を見つけ、それを表紙に飾ったのだろう。写真集を観ていると「いつかはいつかは花輪の祭りを観に行きたい」との思いが強まるばかりだ。そうした意味からもこの写真集は楽しめる。
いずれも1冊税込みで1000円。申し込みは秋田県鹿角市八幡平字高見田50、株式会社アップルへ。〒018−5141。電話は0186−32−2005へ。インターネットでの申し込みは下記へ。なお本紙では50万ヒットを記念に50万人目の方にこの写真集をプレゼントすることにしてます。