岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(128)会社役員の年収」(01・6・26)

 夏至を境にアメリカは夏の入り。既に、ほとんどの学校が夏休みに入っていることや、バケーションを取り始める人も増え、その効果(?)で、朝の通勤時間帯の車の量は随分減って、ハイウエー通勤は随分楽になりました。私は朝の通勤に毎日ほぼ1時間を費やしていますけれど、これがこのところ20分ほど節約出来るようになりましたから、うれしい話です。ただバケーションとなるとそれなりに予算が必要なんですが、日本のように多くても少なくても夏冬と年2回のボーナスがきちっともらえるようなことの無い国ですから、夏休み前だからと云って財布が厚みを増す訳でもなく、夏のバーケーション旅行はクレジットカードで済ませ、その後、半年かけてその分を返済するなんて人も沢山います。

 今月、こちらの地元新聞サンノゼマーキュリー紙に日本の長者番付ならぬにシリコンバレー企業役員の年間所得に関する話が特集記事で載りました。日本では役員の給与や賞与は、全員分をまとめていくらと云う数字しか公開されませんが、アメリカ企業の場合は株式公開会社に対しては企業内容の情報開示の義務付けがとても厳しいことから毎年の株主総会に提出されるプロスペクタスと云う資料には会社が役員に与えた給与やその他の恩典を個人名単位で、その金額も内容も開示しなければいけません。逆に公の税務機関からは、個人の収入や納税額に関わる数字はプライバシーを理由に公開されませんから、新聞社としては各企業のプロスペクタスを集めて役員給与、賞与の数字を比較しています。会社の年度の決算時期は必ずしも一致していませんが、まあ、2000年度の目安にはなります。

 一方、株式未公開企業や個人でも、とてつもない収入を得ている人もいると思いますので、そういう人の情報は一切分かりません。本当か?嘘か?分かりませんけれど、シリコンバレーの住人(全体の地域ではなく多分限定された地域の話だと思います)の10人に1人は年収が1Mドル(約1億2000万円)あったと云われるほどお金持ちの多いシリコンバレーです。

 アメリカ企業の場合の役員報酬は2つの種類に分けられます。1つは現金報酬で、これは給与やボーナスに該当するものです。2つ目はストックオプションと呼ばれるその会社の株を特価で購入出来る権利で、権利を得た時点の市場株価よりも安い値段で、会社から一定期間を条件に、会社の株を買い取れる権利のことです。

 買い取れる株の値段は株式市場での価格とかその人のポジションによって違いがあります。最もストックオプションの場合には権利を受けた時の買取値段よりも株価が下がってしまった場合には、当人は損をしてしまうので、右上がりの株価で無いと最終的に価値のないケースも生じます。役員は現金とストックオプションを組み合わせた形で報酬を受ける訳ですが、中には現金だけとかストックオプションだけを得ると云うような役員も存在します。

 最近の面白い例としてアップルコンピューターのステイーブジョブ会長は一昨年、現金報酬がゼロであったこともありました。でも彼は見返りに会社から小型ジェット機を貰いましたので、決してただ働きをした訳ではありません。2000年度も彼は年間給与としては$1(約120円)ですが、ボーナスは$90M(約108億円)を受け取りましたから、年間給与$1と云うのはマスコミへの話題提供だけのパフォーマンスのように感じます。

 シリコンバレーの売上トップ100社の企業で2000年度のナンバーワンの役員報酬を得た人物はオラクル社と云う日本でも名の知れたソフトウエア会社のレイモンドレーン社長で
合計額は$233.9M(約280億円)だそうです。2位はネットワークシステムメーカーとして有名なシスコシステムズ社ジョンチェンバース社長兼会長で合計額は$157.3M(約188億円)、3位はIT産業で不可欠な光ファイバーで有名なJDS社のダンペテイット上級副社長で合計額は$107.6M(約129億円)と云うことです。

 現金報酬が一番多い例としては先に話したアップルコンピューター社のステーブジョブ会長で$90M(約$108億円)を得ています。彼の場合はストックオプションはゼロです。逆に現金報酬が一番少ない役員はエクソダスコミュニケーション社のエレンハンコック会長で現金報酬は$781(約9万4千円)。しかし、彼の場合はストックオプションとして$12.6M(15.1億円)を得ています。

 トップ100の収入を得ている役員の平均年齢を計算すると50.3才でした。この数字だけを見るとインフレ気味でアメリカ人の平均所得も非常に高いように思われますが、現実にはそうでもありません。アメリカ国内の製造業の現場に従事する労働者の年間平均所得額は2000年度で$44680(約538万円)、それと比較して企業の会長職の年間平均所得は$1.40M(約1億6千8百万円)だそうで、労働者の所得の伸びと比べると会社経営者の所得の伸びがはるかに大きいのがアメリカ企業の特徴のようです。

 昨今は景気の後退から予算カットを理由に多くのシリコンバレー企業は従業員のレイオフを発表し、実行しています。目的は経費の節減です。しかし、その一方で、経費節減を理由に役員給与を下げると云う企業は非常に少なく、逆に大型レイオフを実施して会社の収支バランスが改善されたことは経営者の努力の成果と云うことで、役員給与は大盤振る舞いされて増えるケースも珍しくありません。

 企業の業績が悪い時には社員と経営者はその痛みを分けてと云う考えは会社非常時には通用せず、担当役員は適切な首切りを即時実行できることが、経営者としての能力と云う評価になります。無論景気の良い時はそのような首切り役人の顔は見せず、社員の努力で会社の業績は向上した。これは皆の努力の賜物などとスピーチをするのですから驚きです。

 確かに会社経営者の所得は日本などと比べてアメリカ企業の経営者は平均的にもずば抜けて良い訳ですが、会社経営者や役員は会社の業績に対する責任を負わされている訳で、その業績結果に対して株主および他の役員からの追求も厳しく、たとえ会社設立者で事業化に成功し、株公開までたどり着いた当人であったとしても、その後の業績が不振になると、株主総会もしくは役員会で担当役員や経営者が首になると云うことは珍しくありません。日本であればこんな場合でも何となく花道をつけての辞任と云う道を与えるのですが、アメリカでは経営者が事実上解雇される訳です。

 このあたりがアメリカの経営者の厳しいところで、結果が出なければ簡単に首をすげ替えられると云う危機に常に直面している訳です。その背景は本来株を公開している企業において会社は社長や役員のもので無く、働く社員のものでもない。会社は株主のものであると云う主義が徹底しているからだと思います。従って業績が悪ければその株主の利益を守る為に経営者でも社員でも犠牲にすると云う図式です。果たしてこの文化が日本で馴染めるか?わからないのですが、国際化の中でそうならざるを得ないような感じがします。

それじゃ

岩間@サンノゼ