岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(129)」(01・07・15)

 大阪から戻ってケンニチのこち編を見たら定年と云う言葉が出ていたので、内心ギクッ!とした次第です。今回の大阪滞在中に誕生日を迎えた訳ですが、ちょっと昔には定年と言われた55歳の年齢に次第に近づくに従って誕生日も昔のようにハッピーバースデー!なんて単純に喜んでられなく複雑な気持ちになります。

 私の父親も自動車会社で55歳で定年を迎え、当時、会社によって子会社のポストも用意されていたようですが、収入よりも長く勤めた会社を去ることに強い未練があったらしく、結局、元の会社の嘱託のポストを得て60歳まで働いていました。彼の場合は55歳以降は今までの職種とは全く違う、採用関係の仕事に就き、主に東北や北海道を中心に各地の職安を回り、冬の間の季節労働される方の面接採用などの仕事を担当していました。

 現在、日本の大手企業は定年を60歳に延長しているところが増えているのですが、実際には大手企業で60歳まで正味仕事を続けられる社員はそれほど多くなく、特に管理職と呼ばれる人達は私などが外から見ていても大変です。多くの会社では僅かな人数の役員候補者を除く、50歳を過ぎた管理職に対しては早期退職制度を取り入れて離職を促したり、管理職定年制等と云って53歳ぐらいで管理職ポストから外されてしまい給料は大幅に減らされてしまったり、またまだ若いうちに関連会社に出向させ、その数年後に転籍を迫って元の会社とは縁切りをさせてしまう等、生活できる給与は60歳まで何とか会社から得られるとしても、自分なりに仕事を通じて満足感を味わい、感謝されて定年を迎えると云う図式とは裏腹な形でサラリーマン生活の終焉を迎える人達を見ていると気の毒になります。その意味では55歳定年時代の方がサラリーマンにとって本当はハッピーであったかもしれません。

 アメリカにはどの会社にも定年制度と云うものがありません。年齢を従業員採用の条件にした広告を出したり、高齢を理由に従業員を退職させる規則などを作ったり、当人に退職を迫った場合は差別問題と判断され、雇用先は法的にかなり重い罰則を受けると同時に、民事訴訟によって懲罰的な賠償金を支払わなければいけない羽目に陥ります。多分、日本の会社の規則をアメリカの子会社にそのまま持ってくると、それ自体が違法行為になってしまいます。日系企業がアメリカに進出し始めた時代に随分この種の問題を引き起こしました。

 雇用に関する基本的な考えは当人の職務遂行能力によって決まります。つまり年齢に関係なく、担当する仕事を遂行する能力を証明できる限り、当人に退職を迫ることは出来ません。(会社業績悪化によるレイオフは別ですが)。工場現場や事務職などの時間給労働者の場合、例えば、仕事上必要と思われるXXkgの荷物を持ち上げることが出来なくなったとか、視力が劣って仕事である検査作業が難しくなった。経理担当者の計算作業が遅くなって業務に支障が生じる等の問題が本人に起こった場合、減給とか配置転換とか解雇の理由になります。

 技術者や管理職の場合は完全年俸制ですから、年俸に見合うノルマとか、目標設定に対する成果について、大体、年一回あるレビューと呼ぶ上司との一対一の直接面接が行われ、上司から昨年の成果の評価に基づく査定年俸と、新年度なすべき目標が伝えられ、本人もそれに合意のサインをします。上司が当人の成果は期待した以下と判断された場合には減給や解雇の対象になってしまいます。技術者や管理職者は逆に自分の仕事具合で、自分の潮時を判断する訳です。従って、日本流の最初に年齢ありきと云う考え方で無く、本人が自分の持つ能力、気力、体力を判断して、それに見合う職務に就き、相応の給与を得ると云うシステムなので、働いても仕方ないとか、働く必要がない等の理由で仕事を辞める時期も、自分の資産を加味して自分で判断することになります。

 それではアメリカ人は何歳ぐらいで退職(リタイヤーと云いますが)するか?と云うとシリコンバレーは以外と早い年齢でリタイヤーする人も多いように思います。60歳ぐらいまで働く人も無論いますが、ご存知のようにシリコンバレーと云う土地柄、ベンチャー企業の成功によって、大きな所得を得た人達の中には自分の時間を仕事以外に使いたいとか、子供と一緒に生活したい等の理由で、比較的若い年齢でリタイヤーする人がいます。身近な例ではアップルコンピューター社の設立者の一人、ステイーブオズニアック氏は35歳ぐらいでリタイヤーし、現在は大半の自分の時間をボランテイア活動などに費やしています。

 また一度4〜5年間リタイヤーして後、仕事に戻ると云う人もいます。リタイヤーに関しては法的な意味がある訳でなく、仮に若い年齢でリタイヤーしても年金が早く貰える訳でもありませんし、リタイヤーしたからと云って仕事に戻ってはいけない理由もありません。

 シリコンバレーでリヤイヤーした人の多くはどうするか?と云うと、無論、気候に恵まれたこの土地で暮らし続ける人も多いのですが、仕事をするのには最適なこの土地も物価高や環境の悪化等を考慮するとリタイヤーした人達には最適ではなさそうです。こちらの人は住宅購入は永住する為の取得と云うより、資産として考えている人も多く、住宅価格の著しく高価なシリコンバレーで住宅を10〜20年前に購入し、既にローンの返済を済ませていればその住宅売却によって大きな現金を入手することが出来、その資金を元に住宅コストの安い
土地や税率が安い州や町に移ってリタイヤー後の住宅を購入、残りの資金を老後の生活資金に当てる人も沢山います。

 アメリカの場合には連邦税は一律ですが、住むところによっては州税を払わなくても良いとか、消費税がゼロと云うところもあります。ですから、大変な田舎でも、そこがトータルな意味で本人達にとって暮らしやすければそれで良い訳です。見栄は関係ない国です。

 また、リタイヤーしてから、自由な時間を使って、夫婦でアメリカ一周を4〜5年かけて旅行しようとする人も沢山います。今まで暮らしていた住宅を売却して、大型バスサイズのキャンピングカー(モーターホームと云いますが)を購入して、それを夫婦で運転しながら、全米を旅して、気に入った場所で、2〜3週間オートキャンプとして滞在、また移動を続ける訳です。アメリカで生まれても全部のアメリカ国内を旅すると云う計画の実施は逆にリタイヤー後でないと出来ない旅行です。この旅行には滞在中の買い物などに移動にもう一台の車が必要なので、大きなキャンピングカーの後ろに乗用車一台を牽引して全国を旅行するのですから、見た目にもなかなか圧巻です。

 15年ほど前に私の両親が始めてアメリカを訪ねてきて旅行をした時、リタイヤーしたアメリカ人が行動的であったのに随分感心していました。ここ10年ほどの日本の様子を見ていますと、日本のリタイヤーされた方も随分行動的になってきたような感じがします。

 私も少しづつ将来の姿を考えなければいけないのか?いやいやまだまだ仕事は多いし現役だと思い続けるのか?どちらにも心が揺れるかもしれない年に近づいてきたのは事実です(笑)。

それでは

岩間@サンノゼ