岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(136)妙な空港」(01・10・18)

 連続テロ事件、アフガンのタリバン軍への攻撃開始、炭そ菌入り郵便物の配送など、社会的に大きな出来事が続いていますが、報道されるようにガスマスクを購入する人が急増しているような話も無く、護身用の銃器の購入者が特別に増えているような感じもしません。サンノゼで暮らす限りにおいては一般の人の生活はほとんど平常に近いように思います。

 むしろ、社会問題はハイテック企業の集中するシリコンバレーが位置するサンタクララ郡の失業率が1年ほど前は1.5%程度で実質失業者はいないと云われたものが、先月の同じ地域の失業率は一気に5.7%を超えてしまい、カリフォルニア州全体の失業率や全米の失業率よりも高いと云う異常な数字(?)になったことで、知り合いや近所の人でも、レイオフを受けて仕事探しをしていると云う話を聞くようになりました。

 日本の不況はじわじわ型であるのに対し、今回のアメリカのIT不況はまさしくつる“つるべ落とし”の喩えの通りの状況で、IT景気で沸いていたシリコンバレーがアメリカ国内で最も大きな影響が出たようで、住民の関心はもっぱらそちらにあるように思います。

 サンノゼ近隣のある市では統計上は4軒に1軒の割合で、その家庭の年間所得が1億円を超えたと云う、何か訳の分からぬブームは消滅してしまいました。

 さて今日は妙な空港の話をさせてください。

 サンノゼから南南東に500Km、逆に南のロスアンジェルスからは北の方向に150kmほど離れたところにモハベ(Mojave)と云う人口1000人ほどの小さな町があります。無論カリフォルニアで暮らしている方でもこの町の名前を知る人はあまりいないように思います。地形的には巨大な砂礫の平地が広がるモハベ砂漠の西の端にあり、鉄道の中継基地として存在する町です。

 ここから北に伸びる鉄道は山岳地帯を通過する為、そこを走る貨物列車を牽引する大型ジーゼル機関車をここで増結して鉄道としては非常に急な山登りをする為の準備をする基地です。

 こちらの貨物列車は通常100両以上の長い貨車を引くために平地でも大型ジーゼル機関車も3〜4両ぐらい必要になる訳ですが、この山越えの為には6両ぐらいの大型ジーゼル機関車を貨車の前後に連結して引く(押す?)、迫力ある様が見られることや、山中に2箇所ほどループ式のトンネルがある為、長い貨物列車では先頭の車両は既にトンネルを通過しているのに円を描いた後部の車両はこれからトンネルに入る云う、蛇がとぐろを巻いたような列車光景が見られることからアメリカの鉄道マニアには良く知られた場所です。

 この町は巨大なモハベ砂漠の西に位置しているのですが、モハベ砂漠の名前を記憶している日本の方がおられるかもしれません。まだ白黒テレビ時代、アメリカから人工衛星を中継して日本へTVの生放送を送った時のアメリカ側のアンテナ基地局がこのモハベ砂漠にありました。最初の放送は日本時間の早朝でしたが、テレビに映し出された映像がこの基地局周辺のモハベ砂漠の光景でした。

 そして番組の最初にアナウンサーが伝えたニュースが同日にケネデイー大統領がテキサス州ダラスで暗殺されたことでした。実は当時の私は無線に凝った少年だったので、衛星によって中継されたその鮮明なテレビ画像に驚いたものでした。当時は今のような静止衛星でなかったので連続して送信可能な時間も1時間弱であったような気がします。

 もう一つこのモハベ砂漠で知られることは昔スペースシャトルの着陸に利用したエドワード空軍基地が砂漠内にあることです。安定した天候と平地の砂漠の中なので長い滑走路建設には困らないことから多分ここが選ばれたように思うのですが?最近はスペースシャトルの着陸精度が上がったのか、始めの打ち上げ場所に近いフロリダ州内の基地に着陸するのが普通になりましたが、初期には、エドワード空軍基地に着陸したスペースシャトルをジャンボジェット機の屋根に取り付けてフロリダまで運んでいました。

 さてモハベの町ですが、実はこの町を通過する時に妙なことに気がつきます。町の中心の通りの直ぐ横に飛行場が見えるのですが、時によって変わりますが、ジャンボジェットを含んだ大型民間航空機の機体が40機から50機、多い時には60〜70機の機体が見えることです。機体の塗装を見れば、どこの航空会社の機体か?が分かるのですが、アメリカの航空会社の機体だけで無く、ヨーロッパの航空会社の機体も時々見つけることが出来ます。

 人口1000人足らずの町で、しかも周辺に大都市もない。小型機を使って周辺都市を結ぶコミューター機の発着はあるかもしれないが、大手の航空会社が飛行機を沢山発着させるような国際空港が在る訳はない!と思うのですが、現実に驚くほどの数の航空機が停まっているんです。

 外から見える空港敷地内には管制塔や小さな空港ビル、それに整備工場のような建物はあるのですが、乗客が乗り降りに利用するゲートのような構造物は無く、機体とビルを結ぶ可動型のエプロンも見当たりません。

 しかも、ほとんどの機体は建物近くに駐機してなく、やや離れた場所に整然と並んでいます。よく見ると機体のジェットエンジン部の空気取り入れ口は巨大なプラスチックのような蓋がされて、コクピットの窓の部分にも囲いがなされています。ここに駐機している機体は航空会社の所有する機体なのですが、運行便数の関係などで中長期的に利用することのない機体を都市空港内で駐機させた場合、航空会社は高い駐機料を支払う必要がある為、このモハベのような駐機料が非常に安く、スペースは十分にあって長期保管が可能な空港に機体を移動して保管するそうです。

 また別の航空会社への売却目的で駐機保管する場合もあるそうです。このモハベ空港が中長期の機体の保管に選ばれる理由の一つには乾燥して雨が少ない為、自然環境下での機体の傷みが少ないのだそうです。

 つまりはモハベ空港は民間航空機利用者を乗降させる為の飛行場では無く、航空会社で余った機体を保管する為に利用するだけの空港です。今回起こったアメリカ国内での連続航空機テロ事件以降、極端な航空機利用者の減少問題がおき、現在、通常の30%近い便数の削減がなされています。そんなことから、この状況が長く続くと、このモハベ空港のような飛行場は駐機数が増えて、ビジネスが繁盛すると云うことになるかと思います。

それでは

岩間@サンノゼ