岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(151)健康保険」(02・4・15)

 4月12日、日本出張から戻りました。僅か一週間ちょっと、サンノゼを留守をした間に、時計を一時間進める夏時間に変っていたのと、同時に気候もすっかり安定した夏型になっていました。今日も晴天下、心地よい風が吹く爽快な天気です。たまたま、日本滞在中に風邪をひき、仕事を半日休み、薬を飲んでホテルで寝込むと云う、冴えないトラブルを経験してしまい、あっ!健康保険?と頭に浮かんだことから、今回はアメリカの健康保険を話題にしたいと思います。

 財務上、大きな問題を抱え、将来は根本から変るかもしれない日本の健康保険制度かもしれませんが、全社員は企業が加入する団体健康保険でカバーされ、それに加入出来ない小事業や個人は政府管掌の国民健康保険に加入できて、医療費がカバーされる日本の健康保険制度は、事実上、国民の全てが、何らかの健康保険に加入出来ていると云う、患者の立場からは恵まれた制度であると思います。

 アメリカの場合は健康保険は生命保険や火災保険同様、民間の保険会社のビジネスとして運営されているもので、一般の人が加入出来る政府が管掌する健康保険制度や団体はありません。従って健康保険もひとつのビジネスとして存在している訳です。

 医療費そのものは日本以上に高い国ですから、保険会社が医療施設に支払う医療費の負担額は膨大な金額になることから、その健康保険料も大変高価で、企業にとって従業員とその家族分の健康保険料を全額支払うのは大きな負担です。

 健康保険料は収入で無く、年齢と配偶者とその家族数に関係していますから、平均的に医者にかかる頻度の少ない若い独身従業員等に対する保険料は比較的安いのですが、40代ぐらいの従業員の場合、本人とその家族を含めた保険料は毎月1000ドルほどになります。それでも、多くの企業は従業員とその家族の保険料を会社が負担する制度を維持していますが、昨今の保険料の値上がりに対応して、医療費の保険会社カバーを低めに設定した保険や、保険によるカバーの範囲を色々限定した種類保険等、所謂、保険料が安い内容の健康保険に切り替える企業が増えています。

 例えば医者にかかった場合、個人負担額が一回毎に10ドルから20ドルになったり、処方箋薬の提供を、最大30日に限定するとか、処方箋薬の個人負担額を5ドルから10ドル、20ドルにすると云ったような制限です。

 更に、もう一歩、医療費削減に踏み込み、医者の選択は患者本人によって決めるので無く、保険会社が患者の住所の近くにある医療施設ではあるけれど、保険会社と特別な契約を結んだ医療施設を利用することに限定すると云うもので、保険会社が患者の治療にあたる医者を決めると云う、種類の健康保険もあります。

 この保険の特徴は大きな手術や治療費が高い病気の場合、手術や治療方法は現場の担当の医者による判断だけでなく、保険会社の医療専門家との合意で決められると云うもので、保険料が安い為に、この種の健康保険に切替る企業が増えています。患者にとっては自分の希望する医師による、納得できる手術や治療方法が受けられないケースが生じる為に、アメリカ議会でも大きな話題になったり、クレームや裁判沙汰になることも多い健康保険システムなのですが、医療費を押さえ込むと云う観点からは非常に有効である為、残念ながら福利厚生費を押さえ込みたい企業にとっては都合の良い健康保険になっています。

 また、企業が従業員に対する健康保険料負担の低減を狙う顕著な例として、シリコンバレーにある世界有数の半導体企業の一社は従業員分の健康保険料は会社が負担するが、配偶者やその家族も同じ保険でカバーしたければ、その保険料の差額は従業員自身が負担しなければいけないと云うシステムを採用しています。そんなことから、就職先を選ぶ場合、入社を考える企業が、どのような健康保険に加入していて、配偶者やその家族に対して、どんな条件で保険がカバーされるのか?と云うことは、入社を決める上で考えるべき重要な問題の一つです。

 企業が健康保険に加入することは必ずしも企業の責任で無い為、保険料の負担を嫌がる小企業や個人業の場合、その経営者も従業員も健康保険に加入していない場合も珍しくありません。無論、個人でも保険会社の健康保険に加入することは可能なのですが、その高額な保険料を負担するのには、逆にそれなりの収入が必要と云う訳でいたちごっこのような話です。

 この状況に対して、国家として問題あると指摘され、大統領選挙時には国民皆健康保険制度のようなシステムを作ることが提案されるのですが、具体的な作業に現在、どの段階にあるのか?良く分かりませんから、大きく話が進んでいるようには感じられません。ニュース等で頻繁に聞く話として、未だにアメリカ国内では4000万人以上の人が何の健康保険にも加入していないそうです。

 患者の立場から見て、色々文句も増えてきた日本の健康保険制度ですが、アメリカと比較すると、随分恵まれた制度の一つだと思います。

それでは!

岩間@SJ