岩間郁夫さんのアメリカ暮らし(158)「長距離鉄道サービス、アムトラックの経営」(02・6・27)

 先週末(6月22日)、カリフォルニア州内の北部にある湖に知人達共々と出かけ、青空の下、緑に囲まれた綺麗な湖面でのボーテイングを楽しんできました。日中の気温は35度、もう真夏ですが、湖面にいると快適です。暑いと感じるようになるとボートから湖に飛び込み泳ぐことが出来ますし、ボート上で昼食のバーベキューを楽しみ、ワインを飲んで、のんびりと
時間を過ごすアメリカ型のホリデーを満喫してきました。

 アメリカでは早々と先のメモリアルデーの祝日から夏休みの旅行シーズンに入っています。こちらの人の長距離旅行の足として飛行機か自分の車を利用するのが普通なのですが、旅客を対象とした長距離列車のサービスも存続しています。アムトラック(AMTRACK)と云う国策の長距離列車サービスで、日本でも知られた名前だと思います。このアムトラックなのですが、今、経営危機に直面していて、もし、経営破たんが噂され、万一、倒産した場合、アメリカ国内で全米規模の長距離旅客列車サービスが消滅してしまう恐れが出ています。今日はそのアムトラックの話を少しさせてください。

 ご存知のように、アメリカでは既に1940年代から、長距離旅行の足としての鉄道は自動車と航空機との競争に巻き込まれた訳ですが、短い期間に鉄道利用者数は落ち込み、1960年代の初めには鉄道を長距離旅行の足として使う人はほとんどいなくなってしまったそうです。アメリカの鉄道はそのスタートから民営でしたから、乗客の減少は列車数の減少につながり、益々利用し難いものになり、鉄道会社から長距離旅客サービスは消滅してしまいました。連邦政府は長距離鉄道の復活策として多額の補助金を出し、新会社としてアムトラックを1970年に発足させ1971年の5月からサービスを開始しました。

 アムトラックは鉄道車両を有して運行サービスをする会社であり、これらの列車が実際に走る路線は既存の民間鉄道が貨物列車を運行させる為に使っているレールをそのまま利用する鉄道会社と云うことになります。

 その実際の路線ですが、アメリカ国内の主要都市間を結ぶと云う目的では十分なサービス網を持っているように感じられます。私の暮す西海岸を中心にお話すると北からシアトル、サンフランシスコ、それにロスアンジェルスがハブ的な拠点の駅の役割を持ち、それぞれ東に向かって路線を伸ばし、殆どは中西部のシカゴに一度集まって、それから更に東海岸の主要都市に路線を伸ばしています。また西海岸にも東海岸にも南北の町を縦貫する路線サービスもあり、ロスアンジェルスから北に上ってサンフランシスコ、ポートランド、シアトルに達するニックネーム、コーストスターライト(ロスアンジェルス、シアトル間を32時間で結ぶ)と呼ぶ、良く知られた路線やサンフランシウスコ(実際にはちょっと離れたエメリービルと云う町が拠点ですが)から東にコロラド州のデンバーを抜けてシカゴに達するニックネーム、カリフォルニアゼッファー(2泊3日の旅になりますが)はなかなか景色の良い場所を通過することで知られ、飛行機や車では楽しめない景色を満喫できると云うことで知られています。

 アムトラックの列車は、始めから長距離の旅を前提に作られていますから、寝台車や食堂車、ラウンジ等は日本の列車と比較すると、その余裕に大きな違いがあります。特に食堂車はインスタント食品を温めたようなものでは無く、本格的な料理が提供され一流レストランの感じの食事を味わえます。車内も豪華ですし、ラウンジなどはゆとりの空間を生み出すように工夫されています。またラウンジ内での音楽の演奏や車掌にあたるスタッフとの会話等は移動だけを目的とするビジネス旅行ではとても味わえない旅の面白さを演出してくれます。

 運賃も学生、高齢者、退役軍人や子供に対する割引の他に、家族旅行をする時の家族割引や、季節割引など、驚くほどきめ細かい割引サービスをしていますし、手荷物も飛行機同様に車内に大手荷物を持ち込まない場合には乗車時にカウンターで預け、下車時に受け取ることが出来る手荷物サービスも飛行機並です。

 かってアムトラックがそのキャンペーンに利用したデイスカバーアメリカと云う有名な標語は、日本のJR(当時はまだ国鉄?)も利用してデイスカバージャパンとして日本でも結構受けたように思いますし、外国人旅行者の鉄道利用の為に安価な定額で一定期間の間、自由に鉄道を利用出来るクーポン、レールパスはやはりJRが真似をしてJRレールパスとして発行をしています。

 私は、このアムトラック、民間企業として随分経営やサービス努力をしてきたように思うのですが、残念ながら鉄道の乗客数がほとんど増加しないと云う、決定的な状況下では、非常に苦しい立場なのでしょう。1971年5月にサービスを開始して以来、経営的に黒字を出したことが無く、連邦政府の毎年の補助金でかろうじて運行を継続させていると云うのが実情です。もう一つはこのアムトラックは大きな事故を年に何回か起こしています。事故の多くは列車の脱線によるものですが、どうも貨物列車に利用されるだけの路線である為、レールのメインテナンスが悪いことが一つの原因のようです。

 地域の観光に利用したような鉄道はアメリカ人にも大変に人気があります。しかし、旅客交通手段としての長距離鉄道はもはやノスタルジアの世界なのかもしれません。一方では近隣都市間の交通としての鉄道は大いに見直され、アメリカの大きな都市では路面電車に近いライトレールと云うシステムの建設が盛んです。今のところ、乗客率が高いと云う風には見えませんが、道路建設による交通の改善がほぼ限界に達した町では、環境問題を追い風に将来に託して、この建設を推し進めています。

それでは。

岩間@SJ