岩間郁夫さんの「アメリカ暮らし(164)旅行代理店が危ない」(02・9・1)

 アメリカは夏休みの終わりを締め括るレイバーデーの3連休(8月31日、9月1日、2日)に入りました。多くの学校は既に先週から始まっているのですが、この3連休が終わるまでは、学校に慣れる為の助走期間。休みが終わって本格的な授業が開始されます。既に、夏のバケーションで、皆、お金を使い果たした筈なのですが、夏を惜しんでか?結構、旅行をする人も多いのがこの3連休です。

 今日は、その存在が危うくなってきた旅行代理店の話をさせてください。こちらでは旅行代理店のことをトラベルエージネントと総称します。鉄道旅行が極端に少ないアメリカでは、中長距離の旅行は航空機の利用が最も一般的な手段です。その航空券は大きな町のダウンタウンにある航空会社直営の販売所や空港のカウンターで購入出来ますが、何と云っても、最寄の旅行代理店に電話を入れて購入するのが一般的です。日程やルート、利用したい航空会社、出発時間や到着時間等の希望を旅行代理店に伝えると、その情報に基づいて、希望に近い利用便を探してもらえる便利さはありますし同時に到着先で利用するレンタカーやホテルの予約などの一切を受けてくれ、そのスケジュールが決まるとアイテナリーと呼ばれる日程、利用航空便、出発や到着の予定時刻や座席番号の指定、レンタカーの受取場所やホテルの住所、電話番号に予約番号や料金をリストアップした表を、FAXで送ってくれ、顧客の了解を得て航空券の発券手続きをすると云う、きめ細かなサービスを提供してくれます。旅行代理店は、これらの予約や発券によって航空会社やホテルやレンタカー会社からコミッションとして支払われるお金が収入となる訳です。

 そんなことから会社も個人も航空券の購入やホテル、レンタカーの予約を必要とする場合、個別に航空会社やホテル、レンタカー会社に直接、電話を入れずに、旅行代理店に希望を伝えて、そこでアレンジしてもらうと云うのが一般的でした。

 旅行代理店側も顧客の満足度を高める為に、リピート顧客に対しては、個人単位のデーターベースを作り、好みの航空会社、座席番号(通路側とか窓側)、好みのホテルやその予算、レンターカー会社や好みの車種やサイズ等、旅行の度に、顧客が事細かな要求を出さずとも、概ね顧客の希望に添った予約を行なってくれる等、そのサービスを売り物にしてきました。

 日本では団体旅行や旅行会社企画のパック旅行が多いからか?旅行代理店業も大手企業が中心的な役割を果たしているようにも思えるのですが、アメリカの旅行代理店業は圧倒的に個人営業的なものが多いのが実情です。また大手の旅行代理店に看板を掲げていても、フランチャイズ形式で、実際は個人営業と云うのが実情です。

 逆に個人の努力が、ビジネスの成果に結びつくこともあり、名も無いスタートアップのベンチャー企業を顧客にしたのが、数年でそのベンチャー企業が成功したことによって、その一社から依頼される航空券の販売業務で、十分以上のビジネスになってしまったっと云うこともあります。しかし、競合も多い為に、ちょっとした失敗から、他の旅行代理店に切り替えられて
しまって、ビジネスが一夜にして消えてしまったと云うような話も珍しくありません。

 さて、アメリカ人には身近な旅行代理店なのですが、昨今の航空会社のコストダウン化の波とインターネット予約の流れと云う大きな業界の変革に出くわして、実は大変な苦戦をしているようです。

 実際は、この2年ほどの間にジワジワとその動きが進んでいました。先ほど話したように、航空会社は旅行代理店に顧客が航空券を購入する額に応じてコミッションを支払ってきたのですが、まず、発券額に対するコミッション制度から発券毎に対する固定額の手数料方式に切り替えてしまったのです。それまでは旅行代理店は顧客に高い航空券を売れば売るほど多くの手数料が入るシステムであった訳です。

 ただ、理屈はそうなのですが、一度高い航空券を掴まされた顧客は、事実を知ってしまうと2度と、その旅行代理店を利用しませんから、現実は旅行代理店も顧客の要望にそって、
出来る限り安い航空券を見つけることに奔走していたので、航空会社も旅行代理店が高額航空券売りを指向していない現実とコスト削減を狙って、コミッションを固定額化したのだろうと思います。

 しかし、昨年9月11日の連続航空機テロ事件の影響で、客先が遠のいた航空業界は、一層のコストダウン策の一つとして、旅行代理店へのコミッションをゼロにしてしまいました。
旅行代理店は航空券を売ってもコミッションが貰えないと云う訳です。旅行代理店もこれでは食えない!と云う訳で、航空会社からお金が貰えなければ手数料を顧客から貰おうとしたのですが、これが大変な不評を招き、顧客の旅行代理店離れが始まりました。

 背景は旅行代理店を使わなくても航空券が自由に手に入る、各航空会社のインターネット販売が充実してきたからです。更に旅行代理店の持つコンピューター端末では得られない
ような安値の航空券が航空会社によってインターネット上に提供される為、航空会社のビジネスの前線的な機能を担ってきた旅行代理店の首を締めるような動きに出ていることです。
一番の障害であった航空会社が航空券を顧客に届けると云う問題も航空会社がEーチケットと云うシステムを採用することで、顧客は航空券を持たずにチェックインカウンターで予約番号や氏名を告げるだけで、搭乗券と領収書が貰えるシステムです。支払いは既にインターネットでカード決済している為、チェックインカウンターでは普通の搭乗手続き時間とほとんど変わりません。

 旅行代理店として更に辛いのは航空業界だけで無く、ホテルやレンタカー業界にも同じようなやり方が広がっていることです。どちらもインターネットを使って予約をすると、特別な割引や、車の車種やホテルの部屋をアップグレードしてくれると云うようなサービスを付けたりして、「旅行代理店経由で申込むよりも、お得です」と云うような動きに出ています。航空券の発券、ホテル、それにレンタカー等の予約ビジネスを失うと、事実上、旅行代理店はお手上げです。アメリカの旅行代理店業。果たしてインターネット化の動きの中でどんな活路を見つけていくのでしょうか?

岩間@SJ
 

写真:1,2
サンノゼから南に2時間ほど車で走った所にあるピナクルスと云う国定公園です。海底から隆起した山が、カリフォルニアを南北に走るサンアンドレアス活断層の動きによって分断されて片方が移動し、今は、その半分ずつが100km以上も離れた所にあると云う珍しい場所です。