朝の散歩は続いている。その散歩も今月に入ってから土、日曜日は少し遠出してみることにした。藤木地区の住民となってもう30年以上にもなる妻だが、職場との往復だけで過ごしたため、自宅周辺にどんな道路があって、どんな集落があるのかはほとんど知らない。それを散歩を通して知ってもらうことにした。行く先々には幼いころかぶと虫を採りにいった森もあれば、お祭りの舞台を観たくて訪ねた神社もある。また学校からの帰りに誘われて上がり込んだ友の家もある。
先週の土曜日は飯田沼の釣り公園で午前5時から「つり大会」が開かれるとあって、取材も兼ねてそちらの方へと足を伸ばした。雄物川堤防を歩いたのだが、往復すると8キロの道のりだ。柴犬のアキは寒かったせいか、眠ったままだった。無理させまいと小犬のパピーだけを連れての遠出となった。
歩くことで随分と新しい発見につながる喜びも知った。道路端や堤防に咲いている花を見つけ、その花の名を知ることもできたし、関心を寄せることもなかった雑草にさえ心ひかれ、「これを子供のころは塩漬けにして食べたもんだよね」と幼いころの思い出を見つけることもある。草の学名はイタドリだが、子供のころはドンガラと呼んでいた。「あんなのを喜んで食べたものだから不思議だね」と歩きながら二人で笑った。
まだ堤防がなかったころの雄物川は大保集落の「川港跡」に食い込むように迂回し、滔々と流れていた。初夏になると鹿島流しがそこで行われ、中学生たちが鹿島舟を担いで川に入り、ヨシで編んだ舟が壊れるほど激しく揉み合いながら流したものだった。夏休みに入るとその川で泳いだものだが、いかに川底が深かったか、そしてその背さえ届かない川で泳いだ勇気などを自慢しながら堤防の上を歩いた。飯田沼までのほぼ中間地点にある川目地区にある堤防沿いのグランドは小学生のころの遠足の場だった。「サクラが咲き出すと、リュックを背負ってここまで歩いたんだよ」と小学校の思い出も語った。
飯田沼の釣り公園に着いたら空腹を感じるほどだった。子どもつり大会を主催した市の職員たちがちょうど朝食中だった。「ご飯は食べましたか」と声を掛けられ、「おにぎりで良かったらどうぞ」と妻共々、そこで朝食のご馳走にありつけた。空腹だっただけに助かった。パピーは大勢の人がいるのが嬉しいのか、盛んにしっぽを振って喜んだ。パピーの天性の明るさにそばに寄ってくる人たちも心和んだ。
この日はもう一件、予定があった。ニュースでも紹介したが「大型クレーン車のオペレーターは女性=大曲市四ツ屋の伊藤興業(5月9日)」の記事で書いた伊藤興業社長・伊藤信男さんの兄・照男さんが経営する「伊藤住宅」が角館町で開いている「住宅祭」への参加だった。社長の伊藤さんとは自宅を新築した際に請け負ってもらったのが縁で、親類以上の親しさでお付き合いをさせてもらっている。
先週、弟の信男さんの会社の取材を終えて伊藤住宅に寄ったら女子従業員が「ちょうど良かった。明日から2日間、角館町でこれがあるの。奥さまを誘ってぜひ顔を出して」と折り込みチラシを目の前に広げ「来て欲しい」と熱心に勧める。それは伊藤住宅が角館町の105号線沿いの田んぼを造成した86区画の宅地分譲説明会のフェアだった。同時に4棟の建て売り住宅の完成販売会でもあった。土地を買えるような余分な資金なんてあるはずもないし、それに建て売り住宅だって買えるものじゃない。
「顔を出しても社長の邪魔するだけだから」と遠慮したが、その従業員の方は「そうじゃなくて。社長はあの通りの人でしょう。一人でも多くの人が集まってくれるだけで喜ぶから」と言い、その熱心な勧めに応じることにした。この不景気な時代に角館町に広大な土地を取得し、「ニュータウン菅沢」として宅地分譲しているという評判は聞いていた。同業他社からは随分、無謀な買い物をしたものだと揶揄されたらしいが、正月にお酒の席で一緒になった時は「おれの見通しに間違いはない。もう7割方は売れたよ」と豪快に笑い飛ばしていた。そしてこの日はその残った宅地と4棟の建て売り住宅の販売フェアだった。
会場には特設舞台も用意され、黒い半纏を着た伊藤社長がいつもの福々しい笑顔でお客さんたちに囲まれていた。こちらの車を見つけるとその笑顔のまま駆け寄って「やあ、やあ伊藤さん。良く来てくれた」と大歓迎だった。舞台ではデジタルカメラや掃除機、折りたたみ自転車などが当たるビンゴゲームの開催中だった。伊藤さんはそのゲームを自分たちのために一時中断させ、「まず奥さん、伊藤さん。これを楽しんで」とカードを手渡した。どうしたらお客さんが喜んでくれるか。社長の伊藤さんのそうした細やかな気配りにはいつも感心するばかりだ。その温かい人柄が伊藤住宅の年間「住宅着工数」を県南で第一位、全県でも第六位へと大きく伸ばしたのだろう。
ゲームが終わるとお客さんたちを引き連れて、4棟の建て売り住宅の説明会へと案内した。分譲する土地の値段は約70坪で660万円。住宅は二階建て約42坪で1145万円。それに消費税などを加えて1900万円台の家2件と土地約55坪、住宅約25坪で1350万円の家2件だった。
伊藤住宅の建てる住宅の魅力は何といっても台所や収納壁、浴室などの設備が充実した点だ。いずれも住宅メーカーから大量に仕入れ、値引き価格をそのままお客さんに提供するのが伊藤さんの自慢だ。今回も洗濯物干し場として設けた小部屋には電動の洗濯棹がセットされていた。ボタン一つの操作で棹が上下するその便利さに妻も「家でも欲しいね」と感心する。
今回の建て売り住宅は1500万円の融資を受け、35年ローンを組んでも月々の返済は3万5000円ほどで、ボーナス時の返済は14万円ほど。伊藤さんの売り言葉は「アパートを借りても家賃が5万円。それに比べ月々の支払い3万5000円で、自分の家と土地が手に入る。どっちが得か」だった。多くの見物客がその住宅の内部を羨望の眼差しで見つめ、伊藤さんの福々しい笑顔に酔っていた。こちらも伊藤さんの笑顔からあふれるエネルギーに当てられ、何とも言えぬ幸せを感じながら帰宅した。兄は住宅会社の社長としてお客さんたちにマイホームの夢を売り、兄から独立した弟の信男さんはリース会社の経営者として兄の仕事をも手伝う。兄弟で実業家として活躍する二人のエネルギーにすっかり魅せられ、元気をもらった半日だった。そうした伊藤兄弟の少しでもPRになればとここに記した。