こちら編集室「忘れな草」(6月6日)

 ミヤコワスレが咲きだした。自宅裏の小さな庭に紫色のミヤコワスレがしだれ桜や花もも、ユキヤナギ、ナナカマドなどの樹木の下でひっそりと咲いている。なぜか今年の花は昨年よりも背丈が伸びれない。小粒な感じさえする。そのせいか、土日と二日間続いた雨の中で見るととてもさびしそうにも思えた。

 玄関には鉢植えの「忘れな草」が空色の小さな花を咲かせて楽しませてくれている。妻は職場から帰るとその草花に水をやって愛でるのがこのごろは何よりも楽しみのようで、せっせと鉢植えの花に向かっている。「今年は『忘れな草』が大成功よね。この花、石垣の上にも咲かせたい」と種が飛んで石垣の土の部分に根を下ろすのを期待し、小さな鉢を石垣の上に置いている。石垣の上は一面のフキノトウが占領しているが、そのフキノトウの中から「忘れな草」が顔を出せるようにしたいというのが願望のようだ。

 草花に水をやり、それが終わってからはモミジの木を中心に一面に広がった苔にもとホースを手に散水している。「節水」が口癖の妻だが、草花への水は惜しまない。それでいて朝、自分が顔を洗おうとお湯を洗面器に流していると「どうしてそんなに大量の湯を使うの。日本海のように湯を入れないと顔を洗えないの」と大げさな事を言う。洗面器にたまったお湯を「日本海のような量」という表現にはさすがに吹き出してしまった。

 その妻が先日の日曜日の散歩には「今日は私がコースを案内する。忘れな草がいっぱい咲いている所を見つけたんだ」と張り切った。まだ寝ぼけた頭で「ヘェー。藤木生まれでもないのにいつそんな場所を見つけたの?」と不思議に思ったが、「とにかく今日は私が案内するからね」と小犬のパピーと柴犬のアキを連れた朝の散歩が始まった。

 歩きだしたコースは小学校からさらに東へと向かうのは同じだったが、いつもなら途中の十字路で左折して自宅を目指すのをその日は右の方へと逆のコースを妻は選んだ。そこから1キロほど歩いただろうか。「ここよ」と妻は道端を指さした。そこには確かに「忘れな草」が一面に群生していた。淡い空色の花が一面に広がっていた。「ネッ。こんなふうに忘れな草が群れるのもいいじゃない」と妻は腰を下ろして忘れな草の咲いた道端の斜面を見つめた。「家の石垣の上もこんなふうになるといいね」と期待も込めた。「良く見つけたね」とほめたら「エヘヘ。先日、車で通った時に見つけたんだ。運転しながら見つけたんだから、余裕が生まれた証拠」と笑った。

 確かにこのごろは車の運転にも馴れてきたようだ。先日も会議があった太田町から夜に帰ってきた。自宅まで約30キロの距離である。最初は「遅くなって真っ暗になったら奥羽山荘に泊まるから」と言っていた妻だったが、午後8時過ぎに「これから帰る」と電話があった。「こんな時間に大丈夫か」と不安だったが、とにかく無事の帰宅を祈った。電話があってから50分ほどしての帰宅だった。

 忘れな草の群生途中で対向車とすれ違う時に左側を歩いている二人連れに気づくのが遅れ、かなりビックリしたようで「ああ。怖かった。対向車のライトで、目の前を歩いている人の姿が見えなかったんだもの」と自宅に入るなり、夜の車の運転の怖さを報告した。「夜の散歩なんてやられると迷惑だよね」と言いながらも「でも歩くななんて言えるものじゃないし、やっぱり歩道のない道は怖い」とまだ心臓が動悸が打つようで顔色を変えたままだった。その翌朝も出張があって車が必要だったが、「もう今日は運転しない。電車で行く」とこちらの車に乗り込んだ。

 車の運転を怖がっているうちはいい。怖いと思っているうちは運転に神経が集中する。もうしばらくは運転するのは止めるかと思っていたら、先週の土曜日の六郷町での買い物には「私が運転する」と言いだした。夜と違って昼の運転なら安心感もあり、自信もついたのだろう。六郷町での買い物はケンニチのスポンサーでもある「大同衣料」さんの工場直売セールが目的だった。少しでも売り上げに協力したい。そんなことを相談しながら、スーツを買うことにしていた。

 大同衣料さんの従業員、さらに同社の取引先である小売店、と言っても全国チェーンの大手である。そこから派遣された社員がお客さんを迎えていた。今回の買い物で感動したのは売り手のセールスマンの知識の豊富さとセンスだった。押しつけの売りではなく、どうしたら客に気に入ってもらえる品を選んでもらうか。そのアドバイスの巧さと誠意のこもった接客態度に感動した。

 最初は大同衣料さんの従業員がスーツ選びに付き合っていたが、どこかセンス、雰囲気が違うと思わせる男性がスーと笑顔で近づいてきた。そして大量に並べられたスーツの中から数着を選びだしたと思ったら「お客さんどうでしょう。この色でこの生地なら似合うと思いますよ」と紺系のスーツの試着を勧めた。それまで数着着てみたスーツとは違い、その男性が選びだしたスーツは着てみると一発で体にピッタリと来た。妻も「うん。いいじゃない」と目を細める。この日のセールの目玉は3万9000円で1着を買うと2着目は「ただ」だった。こちらはそのセールに合わせて「5万円」の予算を組んだが、男性が勧めたスーツは「この生地はミユキの最高品質。普段なら8万8000円ですが、今日はこの値段で・・・」と言う。値札を見たら5万8000円だった。

 予算オーバーだったが、妻は「やっぱりいいものを買おう」と気前が良くなった。一着を決めたら「これはサービスです」とグレー系のスーツを選びだしてきた。ちょっと地味かなとも思ったが、男性は「少し地味に見えますが、このスーツにはピンク系のワイシャツやブルーのワイシャツを合わせると上品なおしゃれを楽しめるんです」とワイシャツ、それにネクタイまで持ってきていかにそのスーツを着こなすかを教える。なるほどと思うしかない。

 まあ予算オーバーはしたが、これで大同さんへのお礼は出来たと思っていたら、その男性はさらにブレザーを手に「どうです。土日のちょっとしたよそ行きにノーネクタイで着られるこのブレザーは・・・」と勧める。そして「お客さんのために特別サービスさせてもらいます」と目の前に広げた。

 こちらは戸惑った。だが、妻は「そうね。ジャンパーよりもこうしたブレザーがあってもいいよね」と乗り気になった。「オイオイ。もう予算オーバーだよ」としり込みしても「あなたはどのくらいの予算で来たの」と聞く。「5万円」と答えると「なら不足分は私が出すから」と結局、7万円の買い物となった。妻をそうした気分にさせた男性の売りの巧さにシャッポを脱いだ。それでも納得し、気持ちのいい買い物だった。

 ところがそれだけでは済まない。「さっきのグレー系のスーツにはピンク系のワイシャツとかブルー系のワイシャツが似合うとあの人が言ったでしょう。ワイシャツもついでに用意したら。大同さんにはあなたも広告でお世話になってるし、ワイシャツ2着のオーダーで9000円というから作ってもらおう」とさらに追加となった。結局、8万円の買い物となった。

 買い物を終えてから大同衣料の佐々木繁治社長さんと話す機会があった。佐々木社長もその息子さんもこちらの買い物に心から、お礼を述べた。その笑顔にこちらの「気持ち」が伝わったと、嬉しかった。「それにしてもセールスの方の腕はすごいものですね。いつの間にか買ってしまう。そんな雰囲気にしてしまうんですから」と感動をそのまま伝えたら、佐々木社長も「私たちはただ縫うだけですが、ああいう人たちが働いて、売ってくれるから私たちも作れるんです」と目を細めた。確かに今ではどんないい商品でも作りっぱなしでは売れない時代だ。セールスでどう品物を多く裁くかに商売は掛かっている。予算オーバーの買い物だったが、プロのセールスマンには「どうしたら客に喜んで買ってもらい、店の売り上げを伸ばすか」の〃根性〃があった。嫌味のないセンスと品物に対する豊富な知識、選択眼があった。それに魅せられたいい買い物を楽しめた。

 六郷町からの帰り道、忘れな草が群生している道を走った。忘れな草は雨の中で優しい空色の花で迎えた。家に帰っても忘れな草が雨に打たれて咲いていた。雨に咲く「忘れな草」がよかった。

 お知らせ=アメリカの岩間さんが13日午後3時21分、大曲駅着の新幹線「こまち」で来曲します。気さくな方ですし、一杯飲みながら、お話をしたい方がありましたら、ご連絡下さい。