こちら編集室「県の頑張り」(8月1日)

 カナカナカナと森の歌い手、ヒグラシが目の前のアキニレの木から突然、鳴き出した。透き通ったしみ入るような鳴き声だった。少し離れた杉林からもヒグラシの合唱が聞こえてきた。間もなく日が落ちる時間帯だった。森の歌い手たちは闇を迎える前に精いっぱい歌って、短い命を謳歌しているようだった。久しぶりの晴れ間。西空が次第に茜色に染まり、夏の太陽が真っ赤に燃えていた。小犬のパピーを連れてしばしヒグラシの合唱に耳を傾けた。夏の夕暮れ時が好きだ。どこかものさびしい夕暮れ時の静かな時間の流れは悲しみ色に染まるが、心落ち着く。

 パピーは木の下に黙ってたたずむ自分を不思議そうな目で見上げた。「どうしたの。なぜ歩かないの?」。そんな目をしていた。「僕は歩きたいよ。あの橋を渡ってあの神社の後ろを歩いて、それから、それからね。おしっこもして」。男の子の習性でパピーは立っているものを見つけるとおしっこが出なくても足を挙げ、おしっこを引っかける仕草をする。

 「パピー。このヒグラシの美しい鳴き声を聞いてごらん」。アキニレの木の下でパピーに語りかけた。パピーは分かったような分からないような顔でこちらを見上げ、諦めたようにその場に「お座り」をした。カナカナカナ・・・。ヒグラシの鳴き声が再び響いた。夏の夕暮れ時を悲しんでいるような鳴き声だった。

 このところ秋田県関連の取材が続いている。その取材を通じて感じたのは県は確実に変わってきたということだ。親切になったのだ。とても身近で親しめ、頼れる存在になったとも言える。

 その一つは県の「開業・開店起業化支援事業」である。大曲市ではこの支援を受けて2人の方が開業にこぎ着けた。一人は元中学校の英語教師・小松功さんで、得意の英語能力を活かしたいとインターネットを使っての英語教室を2月に開いた。70歳の男性が県の支援を受けて英語塾を開く。老後に夢を与える事業だと感動した。そしてもう一人の方は陶芸工房を開店した。伊藤洋子さんである。南外村の楢岡焼で修行したが、退職後、工房を開きたくても資金がなく、困っていたところへ県の支援事業があると知って応募。書類審査がパスして自宅を工房に改築すると同時に窯も買い求めた。

 25日に大曲市で開かれた「寺田知事を囲む会」ではその伊藤さんも顔を出し、寺田知事に工房を開くことができた感謝の気持ちを込めて「お礼をしたい」と自らの作品をプレゼントした。伊藤さんは「県のおかげで自分の工房を持てたし、開店できた」と喜ぶ。本紙もこれまで何度か伊藤さんを取り上げ、紹介した。(著名人・消息コーナーに二人を掲載)

 トワ・エ・モワと知事のトークショー26日には田沢湖町の町民会館で「水と緑のコンサート」が開かれた。トワ・エ・モワ(芥川澄夫&白鳥英美子)さんを招いて「水と緑」にまつわる歌を中心としたコンサートを開いたもので、これも県の主催だった。事前にメールで取材依頼があった。「地域の催し物案内」でそのコンサートがあることを告知した。

 コンサートは「秋田県ふるさとの森と川と海の保全及び創造に関する条例」(愛称・水と緑の条例)が4月1日から施行されたのを機に、その趣旨を県民にPRし、かけがえのないふるさとの原風景を考える契機にしたいと県農林水産部森林環境対策室が企画したものだった。

 妻に「トワ・エ・モワが田沢湖町に来るよ」と誘ったら「えー。私も行きたい」と喜んだ。環境対策室に電話したら「取材の場合はその席は用意してますが、一般の方はハガキを送りますのでそれを入場券として下さい」とのことだった。ハガキを手に当日になって妻は張り切った。演奏会は午後2時からだが「いい席を取るには早く行かないと」とモタモタする自分をけしかけ、昼食も取らず田沢湖町へと走った。妻の言った通りで、開演1時間前に着いても多くの観客が並んで待っていた。

 トワ・エ・モワさんのコンサートはどこか懐かしく、優しさで包み込むような歌声の響きだった。妻はトワ・エ・モアのパンフレットを手に「帰りにCDを売ってたら、買っていこうよ」と演奏の合間に話した。「ウン。でもこれ県の主催だから、そうした販売はないと思うよ」と答えたが、やはり会場でCDを販売するコーナーはなかった。

 コンサートが終了してからはトワ・エ・モワと寺田典城知事との「秋田の自然」をテーマにしたトークもあった。四国出身という芥川さんの「秋田は緑が濃く、自然が文学的ですね」と感心した言葉が良かった。そして白鳥さんの「秋田は四季が豊かで感性が違う。温かいパワーを感じる」の言葉も嬉しかった。同時に寺田知事の「20世紀は自然を食い荒らした。21世紀はその自然に償いする世紀としたい」との言葉にも感動した。同時に県民のためにこうしたコンサートを開くというサービスにも感謝した。

 そして28日には県市町村課のコミュニティ活動推進事業の一つとして大曲市に高校生たちが運営する「夏休みチャレンジ・ショップin大曲」が開店した。県が空き店舗を借り受け、それを高校生たちに貸して「何でもいい。好きな商売にチャレンジしてみて」と貸し出したのだ。利益はもちろん高校生のもの。高校生たちの〃やる気〃を引き出すユニークな企画を生んだ県職員の柔軟な発想が嬉しいし、とても親しめる行政になったと思った。今日1日にはその2番目の店舗もオープンした。商売を楽しみたいと張り切る高校生たちのはつらつとした笑顔が嬉しかった。

 さらに28、29の両日は大曲保健所が「親子リサイクル探検隊」という催し物を実施した。ごみゼロ社会を推進するには次代を担う子供たちが親と共に学び、その意識を育てていくことが大事だと企画した。

 大曲市仙北郡の小学校4年生から6年生を対象に20組限定で参加する親子を募集したら、31組の応募があったという。結局、抽選で当初の予定より3組多い、23組を受け入れた。その探検隊を取材した。西仙北町北野目にあるガラスびんリサイクル工場を見学し、そこでガラスびんはどのようにしてリサイクルされているかの説明を受け、砂状に細かく粉砕したガラスの粉末を使ってグラスアートを描く楽しみを子供たちに与えた。

 さらには田沢湖町へと移動し、たざわこ芸術村で生ごみを捨てないで堆肥にしている現場を見学させた。生ごみを堆肥にして、田んぼや畑の肥料として使っているという芸術村の「循環型社会」づくりにも感心したが、そうした場所へ見学に連れていく県の取り組みにも「ごみゼロ社会」を目指す意気込みを感じた。最後は仙北町のふれあい文化センターでペットボトルを使ってロケットを飛ばすという実験も体験させた。

 取材中、子供たちに同行した保健所の職員に失礼とは思ったが「県も変わりましたね。本当に親切になった。昨年の『ふるさと美化運動』もそうだし、県民へのサービス精神が感じられます」と嬉しくなって声を掛けた。話しかけられた職員も笑顔で「ええ。これが寺田知事の一番の功績だと私は思います。我々も県民の目線で考えようと努力するようになったんです」と言った。

 寺田知事は2年前の選挙で「日本一、役に立つ県庁にしたい」と訴えた。その意気込みが県職員全体に伝わっているような気がする。5月26日の宮城県沖での地震では公用車の取扱いを巡って副知事が辞職に追い込まれるという不祥事があったが、県民に役立つサービス機関であろうとする職員たちの努力はそれをぬぐって、おつりが来るような気さえする。県関連事業の取材をしていて嬉しくなった。その感動を記したいと思った。

 柴犬のアキはこのごろまた歩くのが大変になった。人間で言えばもう80歳前後だろうか。寝そべってばかりの毎日だ。それでも朝、気力を奮い立たせて散歩に付き合おうとしている。途中でバタリと倒れても。すっかり老化したアキを見守り、夕方にはパピーを連れての散歩となっている。ヒグラシの声が悲しいほど美しいこのごろだ。