寒い朝。目覚めても布団の温もりが恋しく、中々、起き出せない季節となった。モグラのように布団の中でもぞもぞし、「よし。起きるか!」と気合を入れないと体が飛び上がれない。それでも居間の温風ヒーターはタイマーでスイッチが入って活動しており、その温もりが寝室にまで流れてきて昔のような「ウー。寒い」と震えることはない。昔というのは7〜8歳のころのことだからもう50年近い大昔の思い出だ。
あのころの冬の朝と言えば言葉にならないほど寒かったような気がする。布団の下にはワラをタップリと入れた「蕊(しべ)布団」を敷き、母が入れてくれた湯たんぽを抱いて眠った。寝る時は藁のフカフカした弾力が楽しくて何度も何度もその上でトランポリンのように跳ねて遊び、父から「こらぁ!。藁ゴミが出るべ」と叱られたものだった。そして眠って一夜明け、目覚めた時、部屋の空気の冷たさに震え上がり、再び縮こまってモグラのように布団を被った。
「マア。いつまで寝てる。学校さ遅れるべ」。母は台所から叫び、自分は「あと3分。あと2分。何とか寝かせてけれ」と布団にくるまった。目覚めても部屋にはもちろん暖房などというものはなく、厚い丹前を着たままズボンやセーターを手に台所へと駆けつけ、「ウー。寒い!。寒い!」と燃え盛る薪ストーブを前にブルブル震えながら着替えたものだった。
すきま風が家の中をピューピューと走ったあのころの冬の寒さと比べたら住宅の耐寒度も、暖房器具の便利さも雲泥の差となった。昔は目覚めてからストーブに火を入れ、部屋が温まるまでただ震えて待った。今は午前5時のタイマーで、温風ヒーターにスイッチが入って部屋も温まっている。
こうした暖房器具の発達で昔に比べれば冬も随分、楽になったはずだと思いながらも、人間の体はどこまでも贅沢には馴れるもので、寒さには震える。午前5時。カーテンを開けても外はまだ真っ暗だ。月は真上にあって、星たちが輝いていた。「歩こうか」。妻との散歩で始まる朝はまだ続いている。
家庭医と言う言葉がある。なら取り引きしている電気屋は何と言ったらいいのだろう。我が家では冷蔵庫でも洗濯機でもテレビ、炊飯器、掃除機、温風ヒーターなどあらゆる家電製品は決まって一つ所の店から買い求めている。その店は親子で経営しているのだが、息子さんが「これからはインターネットの時代」とパソコン技術を習得し、ソフト面なら大概のものは相談に応じられるということで3台目のパソコンはそこから買い求めた。
その店で毎年秋には「家電セール」をやる。その都度、分厚いカタログと招待券が届けられ、妻と顔を出しては何らかの商品を買って来た。だが毎年、毎年となるとそろそろ欲しいものもなくなって、今年は「行くべきか。行かざるべきか」と迷った。
せめて顔だけでも出したら義理も立つかと店を訪れた。親子は大歓迎し、さすが商売のプロである。息子さんは妻に大型の液晶テレビを勧め、ご主人は自分に盛んにマッサージ機を勧めた。
約70万円するという液晶の大型テレビにもまたマッサージ機にも食指が動かず、今度こそ買い物もせずに帰ろうと思ったら、妻が「食器洗い機」に興味を示した。そういえば数年前から台所に立って水仕事をしていると「指の関節が痛くて、水洗いしたくない」とぼやくようになっていた。水ではなく湯が蛇口から出てくるのだが、その湯でさえも触れたくない時があるという。そんなこともあって「食器洗い機」に関心を寄せたのだろう。 親子はその便利さを盛んに宣伝し、その言葉につられ「買ったらどうなの」と自分も勧めた。「ウーン」と迷いながらも「あなた。少し援助してくれる」と資金援助を求めてきた。ケンニチのふところ具合はまだ家庭を潤すほど豊かではないが、この際だと思い「半額の4万円なら何とかするよ」と約束し、注文した。
その「食器洗い機」が1週間後には届いた。やはり親子で配達に来て、親子で水道工事などをやって取り付けた。その便利さ、効能はどんなものか半信半疑だったが、取付工事が終わった後、ご主人は台所に洗わずに並べてあった茶わんや皿、箸などを手に「茶わんや皿はこういう風に。箸やホークはここへ」と並べ方、そして使い方を教えた。最後に専用の洗剤を入れ、ふたを閉じスイッチを入れると機械はシャワシャワと水を放出する音、静かな回転音を出して洗い始めた。
どのような仕組みで食器が洗われるのかは内部が見えないため分からないが、洗い終わって乾燥された食器を観たらピカピカに輝いていた。手で洗ったのとどちらがきれいになるのかは比較したわけではないが、「とにかくきれいに洗ってくれるわ」と満足な仕上がりに妻も喜んだ。
以来、食べ終わった後の食器をどう知恵を絞って、機械の中の棚に合理的に並べるかと朝の食事後、妻と競い合っている。夕べ使った皿や茶わんに朝の食事に使った皿などを合わせると結構な枚数となっている。それをどう並べたらうまく入るのかを考え、配列を工夫するのがまた一つの楽しみとなった。茶わん、皿を入れる自分の指の動きを監督する妻は最後に「あなた。その大きな皿はこんな風にしないと入らないでしょう。もっと知恵を絞るの」と得意気に並べ直す。
小犬のパピーはそうした妻とのやり取りを足元でジッと見上げ、こっちも注目してよと「ワン。ワン」吠える。「オー。パピちゃんか。パピーも見たいの」と抱き上げては食器洗い機に入った茶わんや皿を見せ「ホラ。きれいに入ったでしょう」と語りかけ、ふたを閉じ、スイッチを入れる。食器洗い機が我が家の台所に小さな幸せを運んできた。
と、ここまで書いて家庭医でなく便利な電気屋さんを何と言うべきかと再び迷った。家庭電気屋か。どうもスッキリしない。便利屋さんと言ったら失礼か。神戸や京都、奈良を歩いてきた妻がデジタルカメラで撮った写真をテレビでも見られると知って、カメラとテレビとを専用コードで結んだ。
使用説明書通りにしたのだが、画像は出て来ない。「どうしよう。どうしてかな」と戸惑う。デジタルカメラの映像がテレビで見られるのさえ知らなかった自分が、それを解決できるはずがない。「小松電気に電話してみたら」と家庭医ならぬ我が家の電気の便利屋さんに頼むべきだと勧めた。
電話を握りながら「ウン。そうなのよ。カメラの電源を入れるとテレビからプーンと反応音はするけど映像は出ないの。ネー。お願いだから来てくれない」と妻は頼んでいた。それから30分ほどして息子さんが笑顔で「コンニチワ」とやってきた。そしてテレビではなく、ビデオとデジタルカメラとを結ぶという方法でテレビからも写真を見られるようにしてくれた。もちろんその足代も使い方の指導もみなサービスだった。こうした便利な電気屋さんを持つのもいいもんだ。
小松電気は大曲市朝日町にある。パソコンの使い方相談にもていねいに応じる。電話での問い合わせは63─0980へ。