西木村出身の詩人・小田嶋忠宏さんの「詩集(5)二行詩『夜の図書館』」(03・12・28)

※ある酒場で、老サラリーマンが僕に一滴の琥珀の杯を差し出した。
 「きみは、新しい破滅のためにセレナーデを歌えるかい?」って。
 
 

 自分が愛するものから呼ぼうこの言葉のはじまりは
 いまは拒絶された家路のために一滴の琥珀のために
 

 窓辺のないこの邦国セレナーデはうまく歌えるかい?
 君の恋人が刹那主義に陥らないように君の声はまだ悲しいから
 

 一滴の琥珀の比喩が
 いま君を温めているものだと感じることは間違いだ落ちる底より劣るから
 

 この邦国の汚れた河と記事になった一級河川
 ぼくは自分が護っていたものを幾つも投げた架空の流れの底に
 

 君は信じるかい?
 たったひとつの過去の経験が言っている未来が現在を規定するのだと
 

 一滴の琥珀が脳裏の夜空を開く
 ひとつの歴史は老人という夜の図書館に二人で腰掛けるのさ
 

 深夜の街は今日も裸だ飢えるものの中に僕はいる
 夜の図書館は仕事に預からなかった日々を僕らを裸にする
 

 一滴の琥珀の幻覚でセレナーデを歌うために
 なんどなんどその歩幅を停めたこの夜を自分のものにするために
 

 日々剥がされていく夜空は大切だ
 晴れる空曇る空雨の空嵐の空あの何千億光年の光りの破滅を視るために
 

 君が視た幻をこの夜空に放ってくれ
 信じあえない僕だけのためにまだ都市が目覚めを知るまえに流れる星を
 

 このテラ(地球)の消滅僕らのいない未来
 何千億光年の光りに過去は照らされてきた未来だと知ればこそ少年の瞬き
 

 「あなたは幸せになれましたか?」*
 一滴の琥珀が小澤書店刊吉田一穂全集全三巻に零れる詩の極北に
 

 さあこの邦国の本は閉じよう忌わしい2003年の西暦からも
 夜の図書館に飲み残した琥珀の杯に消灯の余塵を残して待たれる人へ
 
 
 
 
 

*横浜市/居酒屋「ひろ」の主人曰く。