別に帳尻を合わせてもらわなくてもいいのだが、12月から1月にかけて雪不足でスキー場を泣かせた今年の冬が、その帳尻を合わせようとするかのように連日の雪となった。先週の金曜日から5日間、休みなく家の周りの雪寄せ作業に追われた。朝夕、スノーダンプを手に1時間以上もの雪寄せ作業をやるのは運動不足の解消にはなるだろうが、さすがに体のあちこちが痛くなる。もう雪はうんざりだと空を見上げた。
その雪寄せ作業の日々に小犬のパピヨンことパピーの具合が悪くなった。6日夜の金曜日から食べた物をドロドロの状態にして吐くようになった。翌朝、動物病院で診察を受けた。前から膀胱炎に罹っており、それが原因で吐くこともあるとのお医者さんの診断で、その日は膀胱炎の薬の入った点滴をやってもらった。しかし、日曜日も食事を与えると間もなくその全てを吐いた。そしてパピーはドッグフードを敬遠し始めた。
いつもの元気も失い、遊び道具の縫いぐるみ人形に頭を乗せ、グッタリとしている。食べたものを吐くから、元気をなくすのも当然だ。先月は柴犬のアキを失い、今度はパピーでは余りに悲し過ぎる。精神的にも参る。妻も「パピーを死なせるようなことは絶対、したくない」と顔を曇らせる。「先生は膀胱炎でも吐くと言うけど、パピーは胃がんになったのではないのだろうか」。妻は悪い方へ悪い方へと予測し、心配する。
パピーは縫いぐるみ人形に頭を乗せ、休んでいても愛嬌は振り向けたいとサービス精神は忘れない。少しでもこちらが動く気配を示すとクリクリした目を輝かせ、自分の後を追って来る。台所へとか、自分の座っている籐椅子へとかだ。妻もテーブルから離れ、台所へと向かうとその後を追っていく。とにかく自分か妻のどちらかの側に居たがる。愛されていたいと行動で示す。
日曜日。雪が降りやまず、裏には屋根から落ちた雪が山のように積もった。雪で窓がふさがれた。このままでは屋根と雪の山がつながってしまうとスノーダンプで裏の雪運びをした。表へ出た自分を心配してパピーは縫いぐるみから離れ、居間のドアの前にジッと座って待っていたという。その姿がいじらしいと妻は言う。亡くなったアキもそうだった。日曜日。家にいるはずの自分が出かけるといつ戻るのかと犬舎の前でジッと待っていた。犬は飼い主を待つことを習性としている。その姿、その行動がいじらしい。
とにかくパピーを何とかしなければならない。9日の月曜日、アキの主治医であり、パピーの主治医でもある大曲市船場町の「大曲動物病院」に再び連れて行った。この日は午前9時半から西仙北町のぬく森温泉「ユメリア」で臨時の大曲仙北合併協議会という大事な会議の取材があり、パピーの診察への付き添いは妻に任せた。
その妻からお昼ごろに携帯電話に電話があった。「パピーの件だけど、レントゲン写真を撮ったら胃は何でもないけど大腸にガスがたまっているんだって。そのガスが圧迫して食べ物を吐き出しているのではないかと先生は言うの。とにかく夕方まで入院させることにしたから」との報告だった。
電話を受けてパピーに会いたいと強く思ったが、とにかく合併協議会の記事をまとめるのが先だと会社に戻った。協議会の結果、合併後の大仙市では在任特例の適用で146人もの議員が誕生することになった。全国版に載るような大ニュースである。いち早く報道したいと急いだ。
そして夕方5時に妻を迎えに行って大曲動物病院に走った。パピーは診察室の病室の中でまだ点滴を受けていたが、自分たちの姿も見せなかったし、声も出さなかったのに気配だけで気づいたようで「ワン、ワン」と叫んだ。まるで「早くこの病室から出してよ」と言っているような声だった。病室に入って「パピー。元気か」と声をかけ、抱き上げると嬉しそうにその小さな身体を両腕に預けた。先生は妻が帰った後もレントゲン写真を時間を置いて撮影し、バリウムの流れを観察したと言う。その結果、「胃と腸には問題はないが、膀胱に石がたまっています。膀胱結石となっています」と最終的な診断結果を報告した。
なるほどレントゲン写真を見るとクッキリとゴマ粒ほどの小さな影が見える。星のようにギザギザした型の石が数個、膀胱の中にたまっている。「この石が移動して尿管に詰まるとあっと言う間に死んでしまいます。手術して除去するしかありません」ともいう。 もちろん手術をお願いした。先生は「犬の種類によって違いますが、パピヨンの場合、なぜか膀胱結石になりやすいんです」と話す。11日は休みであり、先生も用事があって上京するため最初は休み明けの12日の手術を提案されたが、その間にもしものことがあればと不安だった。「なら今夜中にやりましょう」と月曜日の夜、パピーの手術をすることを引き受けた。
パピーを病院に預けて帰った晩、幸い自宅には妻の実家から母が遊びに来ていていくぶん寂しさから救われた。母も「パピーが入院したのか」と心配し、「でも手術して治る病気なら良かった」と励ました。その晩のお酒は飲んでいても頭のどこかにパピーが存在していて中々、酔えなかった。妻とは「明日の朝一番に様子を見に行ってくるよ」と話したが、「だめよ。病院に行って直ぐに連れて帰るのならいいけど、顔を出すだけだったらパピーはきっと騒ぎだすと思うの。騒いだら手術の傷が痛むし、夕方まで待つべきよ」と言う。確かにその通りだ。冷静にさせるべきだと判断し、迎えに行くのは仕事を終えてからにした。
夕方、妻を職場に迎えに行って病院に駆けつけた。病室にいるパピーはいくぶん元気がなかった。他の犬の治療をしていた先生は「もう大丈夫です。手術の傷は落ち着いたし、後は遊んでも散歩に連れて行っても心配ありません」という。病室から出してパピーを抱き上げると軽さを感じた。4日間も食事を摂ってない。体重を計ったら4キロあったパピーの重さが3.6キロと400グラムも落ちていた。点滴で高カロリーの栄養を付けたとは言え、吐いてばかりで体重が落ちるのも当然だろう。それでも抱かれると安心したかのように身を任せた。
人間と違って保険が効かない動物の医療。手術代、それに点滴や薬代などで例えは悪いがちょっとおしゃれな腕時計ぐらいは買えた出費となった。しかし、お金では買えないパピーの生命だ。妻は「定期を解約したから大丈夫」と言いながら医療費を厭(いと)うことなく払った。家に帰ったパピーはまだ手術後の後遺症もあってかいくぶん元気がない。それでも相変わらず妻の後、自分の後を追って着いて回る。そしてお気に入りの縫いぐるみを枕に休んでいる。元気になってくれよ。パピー。アキを失った後だけにパピーが元気を取り戻してくれるのを祈っている。