こちら編集室「アジサイ」(7月16日)

 雲量100%。先週末から梅雨特有の鉛色の空が広がったままだ。参院選の投票が行われた日曜日も、その灰色の空から小雨がぱらついた。今年の梅雨は雨が少ないなと思っていたが、後半になってからは雨か曇り空の日々となっている。季節はやはり最後は帳尻を合わせるようだ。一日中、雨の日もあった。新潟では大雨に見舞われ、堤防が決壊し、亡くなった人も出た。水没した家々。本当に気の毒だと思った。

 日曜日。小雨の中でアジサイを眺めた。みずみずしい青が目に染みた。眺めながら花も輪になって手を結び、微笑んでいると思った。ちょうど運動会の時、子供たちがグラウンドで丸い輪を作って踊るように花も輪になっているように見えた。

 裏庭のアジサイが花を咲かせたのは3年振りである。松の木やポプラなど庭木の手入れをしてくれた庭師の方が3年前に「アジサイも伸び過ぎているようなので」と剪定してから、花の咲かないアジサイとなっていた。雨の季節が来ても葉っぱだけが大きく広がるだけで、蕾さえならなかった。そのアジサイが今年は見事なほど咲いた。だから雨の中で嬉しそうに微笑んでいるのだろう。アジサイの微笑み。初めて観たような気がした。

 妻もアジサイを見つめながら「アキとここで写真を撮ったことがあったね」と笑顔を見せた。そうだった。柴犬のアキが元気だったころ、満開のアジサイを背景にアキを抱きながら記念写真を撮ったものだった。女の子だったアキは抱き上げると自然に体を任せ、ジッとしていた。

 「あなた。ちゃんと撮ってよ。アキもきれいに写るように」と注文を付け、妻は花をバックにポーズを取った。そのアキも今年の1月の寒い朝に16歳で命の灯を閉ざした。自分たち夫婦の間にいろんな思い出を残して、旅立ったアキだった。3年振りに花を咲かせたアジサイは日曜日の雨の朝、亡くなったアキの思い出もお土産に連れてきた。不思議だなと思った。

 とにかく今年は花が本当に良く咲く年だと思っている。春には10数年前、角館町のサクラ祭りで買い求めた「しだれ桜」が初めて満開となった。ハナモモの木、ユキヤナギ、ナナカマドも見事な花を咲かせた。シャクヤクも今年初めて咲いた。天上の花のような淡いピンク色の華麗な姿で咲いた。忘れな草、都忘れもしばしわが家の庭を飾った。

 今はプランターに植えた草花が咲き始めている。花の栽培では肥料のやり過ぎなどで過去に何度も失敗を繰り返し、「もう花は植えない」とまで言っていた妻だったが、最近では花に夢中である。キンギョソウ、ペチュニア、ラベンダー、サルビア、アメリカンブルー、マリーゴールドなど赤、白、橙、ブルーと様々な花の色が玄関前から車庫前の小さな広場を賑やかに飾っている。

 送られてきたタネを植えたものもあれば、苗を買って植えたものもある。土日はほとんどプランターへの花の苗の移植やタネ播きに時間を費やし、花とのおしゃべりを楽しんでいる。しかし、失敗もある。先日はヒマワリの茎を折ってしまった。成長してきたヒマワリを支えるため、人工の竹を買って支柱にしてひもで縛った。だが、ヒマワリは日々、成長を重ねる。ところが背丈を伸ばそうにも縛られてしまったため上に伸びれず、茎がいびつに曲がってしまった。それを見つけた自分が「これじゃ花がかわいそうだよ」とひもをほどいて、再び縛り直そうとしたのだが、妻が曲がった茎を真っ直ぐに伸ばそうとしてポッキリと折ってしまった。

 「キャッ」と悲鳴をあげたが後の祭である。夏の燃えるような陽射しに向かって日々、大きく芽を膨らませていたヒマワリは大輪になる前に折れてしまった。しかも3本の花のうち最も背丈を伸ばした花だった。妻の悲鳴、涙をこぼしそうな顔がかわいそうでたまらなかった。花と付き合うには無理なことは絶対せず、繊細な配慮が必要だということを妻も自分も失敗で学んだ。

 仕事を終えて家に入ると自分は小犬のパピーをケージから出してやり、そのまま散歩に向かう。妻は着替えて、草花への水やりが日課だ。パピーを連れての夕方の散歩は子供のころの遊び場だった神社を回り、そこから横手川の堤防へと向かい、川港親水公園でUターンのコースを取っている。狭いケージの中で9時間も過ごしたパピーは散歩に出ると解放感でたまらないのだろう。無我夢中で歩く。

 お尻を振り振り、前へ前へと四つ足を進めるパピーの後ろ姿は何とも言えない味わいがある。時には耳をそばたて大きな丸い目をクリクリと輝かせる。えも言われぬ不思議な動物だなとつくづく思う。公園まで足を進め、家に戻っても妻の花への水やりはまだ続いている。こちらも大きめのジョーローを手に水やりを手伝う。花の成長を楽しみ、咲いた花の微笑みを受け入れる夕方のひと時が何とも言えぬ楽しさだ。

 雲量100%。空は相変わらずの梅雨空だが、パピーの散歩を終え、夕食ができ上がって飲むビールのうまさは毎日、続いている。暑い盛りに飲むビールの味は格別だ。セミの声、そしてカッコウも再び鳴き出した。夏の日の夕方、花を通じてひと時の幸せを楽しんでいる。