こちら編集室「雪を迎える季節」(12月3日)

  夜明け前。北西の空に浮かんでいた月は満月だった。真っ暗な空に浮かんだ丸い大きな月は言葉を詩にしたくなるような美しさだった。冬の朝。空気を大きく吸うと冷たさで喉がピリッと緊張するが気持ちいい。小犬のパピーを連れて妻が外に出てくるのを待った。きっとまた散歩前の着こなしを鏡の前で念入りにチェックし、見入っているのだろう。夜明け前。懐中電灯で足元を照らさないと不安なほど道路はまだ暗く、人と出会うこともないのに自分のファッションを鏡に写して安心しないと表に出て来ない。女とは不思議な動物だと思いながら外で待った。

  小犬のパピーはその間、お尻をチョコンと道路に置いてまるで〃置き人形〃のように座って待つ。歩き出すとピョンピョンとせわしないが、朝は2人で歩くのだという習慣が身についたのか、行儀よくお座りして待つようになった。その姿が可愛い。

  亡くなった柴犬のアキもそうだったが、妻と一緒に歩く時は楽しかったようで、妻も一緒に散歩に出かけるような気配を感じるとしっぽを振って喜び、玄関前に座ったままジッと待っていたものだった。いつのまにかパピヨンもそうなった。

  犬と生活をしているとつくづく感心するのはその観察力のすごさだ。飼い主の行動を常に観察し、学習する。妻が台所で仕事をしているとその足元で妻の行動を見つめ、何をしているのかと納得するまで観察する。そして居間に戻ってきて、縫いぐるみをいじって遊ぶ。こちらが立ち上がって妻のいる台所に入るとその後を追ってまた観察に来る。声こそ出さないが「ネエ。何をしているの」とその丸い大きな目は興味津々に問いかけている。  このごろ忙しくて出勤前のひと時も土日の休日も遊んでやれないでいる。パピーが一番喜ぶのは小さなラグビーボールを口にくわえ、追いかけてもらう時だ。赤茶色のラグビーボールを口にくわえ、「ホラ。僕を追ってきてよ」と催促する。その催促は同じ「ワンワンワン」でもリズム感で分かる。「追ってきてよ」と言っているのだ。

裸木(南外村の不動の滝で写す)    時間があれば「そうか。パピー。追ってもらいたいのか」とこちらも遊びモードとなってパピーを追う。身振り手振りと同時に「さあ。いくぞ!パピー」と気合をかけるとパピーは嬉しそうに走り出し、テーブルの回りをこまねずみのように走る。そしてジャンプしては長椅子の上にあがり、「どうだ」とばかりにこちらを横目でにらむ。「パピー。そこか。ようしいくぞ」と再び追いかけると得意そうに長椅子からジャンプし、走る。

  足元をくぐろうとするパピーを捕らえようと腰を下ろし、両手で構えてもスルリと身を交わして逃げる。そのすばしっこさには負ける。アキもそうだったが、犬はそのスピードを誇りたいのだろう。追われて逃げる。あるいは逃げる相手を追って、捕らえる。どこかに狩猟の本性が秘めているのだろう。とにかく走りたいのだ。小さな体ですばしっこく逃げるパピー。それを追いかける。単純なゲームだ。時には口にくわえたラグビーボールを奪って、隣の和室に放り投げると今度はそのボールを追ってパピーは走る。

  5分も夢中で走らせると喉が乾くのか、自らケージの中に飛び込んで水を飲む。その何気ない様子が可愛い。こうして遊びは5分そこらで終わるのだが、最近は忙しさで出勤前も土日もそうした遊びに付き合えないでいた。パピーはボールを口にくわえてそばに近づき、足元に置いては「ワンワン」と催促する。せめて先週の土日は付き合おうと思っていたが、土曜日は美郷町長選の取材で朝から走り回っていた。そして帰宅してからは旧仙南村長の松田知己さん、旧千畑町長の藤嶋長右エ門さんのどちらが勝っても使えるよう予定原稿を書いた。

  開票日当日、結果が分かってから原稿を書くのでは遅くなるからだ。当初の予定では開票結果が出るのは午後9時半ごろと役場の選管では発表していた。それから勝利者を取材し、さらにその原稿を書くのでは深夜になってしまう。このため、どちらが勝っても使えるように前もって書いておくのが予定稿だ。

  土曜日、その取材で藤嶋さん、松田さんの選挙カーを追った。だが取材で得た感触はどうしても松田さんの勝利だった。原稿のイメージは松田さんの勝利で固まり、帰宅してからは取りあえず松田さんが勝った場合の記事を書いた。しかし、万が一のこともある。藤嶋さんの勝った場合も想定してもう1本の原稿も書いた。だが、おかしなもので取材で得た感触は松田さんの勝利であり、松田さんの原稿はスラスラ書けても、藤嶋さんの場合となると材料がなく困難を極めた。

  結局、日曜日朝に再び原稿を推敲し、松田さん、藤嶋さんのどちらが勝っても使える原稿をまとめあげた。それから妻に言われていた庭掃除となった。前日、激しい木枯らしが吹き荒れ、玄関前と裏庭は各地から飛んできた枯れ葉で散々だった。その後始末もしなければと妻に言われていた。結局、パピーの遊び相手にもなれず日曜日の午前中は庭掃除となった。そしてこの春から楽しませてくれた鉢植えの花を寄せ、雪を迎える準備を済ませた。「さあ。これでいつ雪が来てもいいね。あなた。新聞の見出しで良く使うでしょう。『雪。いつでも来い』と。わが家もその状態になったわ」と妻はご機嫌だった。

  こうして雪を迎える準備も終え、11月は終わり、もう師走だ。時の流れが加速をつけている。そんな気がする。月は満月から半月へと姿が変わっていた。来週、金曜日はアメリカの岩間郁夫さんが来曲する。岩間さんは今、中国でのビジネス出張を続けている。その仕事を終えて秋田へ向かいたいと言ってくれた。今年3月以来、6度目の秋田入りである。温泉「ゆぽぽ」に泊まりを予約した。とにかく歓迎したい。