こちら編集室「小正月の夜」(2月18日)

  夜、風呂上がりの後、鏡を見ながら前髪を数センチ、切り落とした。伸び過ぎた前髪が目に入ってチカチカしていた。床屋さんに行けばいいのだがどうも苦手で、髪はいつも伸び放題にしておき、時々、自分の手で切って、それでも手に負えなくなると床屋さんに向かう。

  落ち着きのない性格なのか、床屋さんのあの椅子に1時間以上もジッと座っているのが苦痛なのである。知人の多くは「床屋ほど気持ちのいいものはないのに」と不思議そうな顔をするが、こちらは黙って座っているのが苦手なのである。確かに頭を洗ってもらったり、顔を剃ってもらったり、さらにはマッサージをやってもらったり、耳を掃除してもらった時はこの上もなく気持ちがいい。けれど散髪してもらうため、椅子に座ったままジッとしているのは苦手だ。

  だから前髪が伸びて目に入るようになると自分の手でジョキジョキとはさみで切る。切っているうちどうもバランスに欠けるのが気になるが、まあ数日もすれば髪も伸びて分からなくなる。たまには妻が床屋代わりになって髪を切ってくれる時もあるが、妻の場合、床屋さんほど手間をかけるわけでないから、時間も早くて済む。

  とにかく伸びた前髪を鏡を見ながらジョキジョキと切った。「髪は女の命」というらしいが、男にとっては何だろうとぼんやり鏡を見つめながらジョキジョキと切った。切った後、少し切り過ぎたかと後悔したが、「覆水盆に帰らず」と諦めた。それにしても切り落とした髪を見て、随分、白くなったものだなと自分の年齢を実感し、寂しい思いもした。  10日以上、わが家で過ごした妻の母が「また来るからナ」と言って帰った。家にいる幼いひ孫2人が寂しがっているとの電話で帰宅となった。母が帰ったその晩はわが家にもポッカリと穴が空いたようで寂しいものだった。お酒を飲みながら、妻と二人で無言でテレビを観て長い夜を過ごした。小犬のパピヨンことパピーも縫いぐるみを相手に静かに過ごした。

  妻の母と特別な会話があるわけではないが、妻と母の二人の会話を聞いているのが楽しい。土、日になると二人は朝から晩まで実家の隣近所のことなどを話している。よくも話題が尽きないものだと思うほど会話が続く。「誰それさんのバアちゃん元気だか」「どこそこの家の孫は生まれたか」。妻は幼い頃に遊びに行った家を思い出しては、その後の消息を母に尋ねている。母は妻の故郷の情報の運び屋となってその一つひとつに嬉しそうに答えている。そして二人で良く笑っている。家の中に笑い声が響くのはいいものだ。聞いているこちらの方も明るくなる。

  母が帰る日、妻は実家へのお土産にとスーパーに寄ってケーキを買い求めた。母もひ孫たちにと絵本を買った。夕方、その母を車で送り届けた。「母さん。また来てよ」。「ああ。またおじゃまするからナ」。優しくて温かい声が車の中を潤ました。

  大曲市の「川を渡るぼん天」があったのは11日だった。取材で雄物川河川敷を歩いて小さな春を見つけた。ネコヤナギの芽がふっくらと膨らんでいたからだ。「ああ。やはり春が近づいている」と思った。しかし、冬は意地悪なもので心理的な圧迫感を与えるほどその後、降り続けている。先々週の日曜日、2時間もかかって寄せた裏の雪がまたうずたかく積もって窓からの眺めを奪っている。その雪の山を目にすると雪寄せはもううんざりだが、「こうもしてはいられない」と焦りも募る。

  春は近づいているが、雪寄せ作業からはまだまだ解放されないようだ。今年はやはり豪雪の部類に入るのかもしれない。お隣のお年寄り宅ではもう屋根の雪下ろしを既に3回やった。出費も大変だろうと思う。本当に気の毒だと思う。

  かまくらの中で過ごす子どもたちしかし、雪国は辛いだけではない。14日夜、横手市へと走った。小正月行事の「かまくら」は15、16の両日だが、その前夜祭として横手市の郊外で「かまくら撮影会」が開かれた。茅葺き屋根の民家を背景に2つのかまくらがつくられ、その中で過ごす子どもたちの様子を映せる。

  ケンニチの表紙にその写真を飾りたいと思って走った。茅葺きの大きな民家。ライトアップされたかまくら。夜の底に輝く雪の白さはメルヘンそのものだった。シャッターを押しながら「いいな。いいな」と興奮していた。こうした風景をあまり雪を知らない遠くの読者に届けたいと思った。雪寄せは辛いが、写真を撮っている間は結構、幸せな気分だった。かまくらの中から呼びかける子どもたちの「入ってたんせ」「甘酒飲んでたんせ」のソプラノがほのぼのとさせた。小正月の夜をホッとした気分で過ごせた。

  その会場で横手市の職員だったろうか。会場整理をされている男の人がいた。多くのカメラマンたちが気分よく写真撮影を楽しめるようにと撮影場所の確保に当たっていた。秋田県南日々新聞の名刺を渡し、「この素敵な風景を読者に見せてやりたいんです。きっと海外の読者が喜んでくれると思います」と話した。

  その翌日、「読者の広場」に横手市の「モトヤ写真舘」の本谷清悦さんからの書き込みがあった。

  「横手のかまくら撮影会においでいただきありがとうございました。良い写真、撮れましたでしょうか。紙面上にて皆様にご紹介のほどよろしくお願いいたします」と。

  お会いしたこともなく、また会場では声を交わすこともなく帰宅したが、あの場に自分がいたのを本谷さんという方はどなたかから聞いて、横手の「かまくら」の写真がケンニチの表紙を飾ることになるのを知ったのだろう。嬉しい書き込みだった。

  ケンニチは今、平日で3600件平均のヒット数を記録している。1月16日に200万の大台に乗ったが、それからほぼ1カ月で210万近くになろうとしている。様々な読者が目を通しているのを実感するこの頃だ。それだけに怖い。