小正月の15日夜、取材に行った美郷町の「竹うち」会場でオリオン座を見た。南の空の真上に3つの星が並んでいて、それを中心に星の列を目で追って線で結んだら右手に石斧を握り、左手に毛皮の盾を持った夜空の巨人の姿が浮かんだ。まさに冬の夜空に勇躍する猟師である。「ああ。オリオンが輝いている」。竹うち合戦が始まるまでの30分ほどの時間を特設舞台に上がって空を見上げた。冬の夜空は澄みきって、星たちが瞬きながらワインパーティを楽しんでいるように思えた。
あれからもう10日。秋田の空から青空は消え、曇りか雪の日々が相変わらず続いている。暦では冷たさも和らぎ、草木が芽ぐみ始める「雨水(うすい)」も過ぎたというのに雪の日々である。冬の夜空に輝くオリオン座をもう一度、見たいと思う。
大曲図書館から1冊の絵本を借りてきた。アメリカ・ニューヨーク州ハドソンを舞台にした100年以上も昔の物語である。「満月をまって」(あすなろ書房)と題した絵本でメアリー・リン・レイ作、バーバラ・クーニーの絵で構成されている。
児童室の絵本をたまに手にすることがある。幼児用に描かれた絵本だが、目を通すと小説とはまた違った感動に出会えることがある。今回もたまたま「満月をまって」という題名の魅力とその表紙の絵の美しさに魅せられて借りることにした。
表紙には満月と森、そしてその森の中の一軒家が描かれ、長い棒にかごをいっぱい吊るして背中に背負い、出かける男とそれを見送る妻と幼い子が描かれている。星たちもきらめいている。
物語はハドソンという町から離れた山の中でかごを作って生計を立てている親と子を語ったものだ。木を切り倒し、丸太にし、さらにリボンのように薄くはぎ取って、そのリボンを編んでかごを作る父親。来る日も来る日も木を切り、丸太にし、その丸太からリボンのような細い材料を削りとってかごを編む。
丈夫で美しいかごをたくさん作って、満月の日が来るとお父さんは肩に担いだ長い棒にかごを吊り下げてハドソンに売りに出かける。馬も馬車もないから歩いて向かう。満月の日を選ぶのは、帰りが遅くなってもお月さまが道を照らしてくれるからだ。
満月の夜、かごを背負ったお父さんが家を出て森の中を歩く。それを見送る母と子。夜空にポッカリと浮かんだお月さまとキラキラと輝く星。素敵な絵だ。とても寂しい光景だが、美しい。このような絵を子どもたちはどんな気持ちで受け止めるだろうか。
8歳になる主人公の男の子は、いつかはお父さんとハドソンに行きたいと願う。冬が来て雪が降り、春が来て山に緑の光りが戻り、男の子は9歳の誕生日を迎えた。そして満月の日、やっとお父さんは「いっしょに来てもいいだろう」と男の子に着いて来ることを許す。
鳥たちが迎え、鹿が迎える森の中を親子はかごを吊り下げた棒を背負って歩く。素朴な絵からは尊敬するお父さんと一緒にハドソンに向かえる幼児の喜びが伝わってくる。そしてかご作りの技術を覚えたいと熱心に作業を見つめ、成長した子ども。お父さんの喜びも絵からは伝わって来る。
ハドソンに着くと金物店でかごを売り、そのお金でお母さんに頼まれたパウダーやレモン、タマネギ、缶詰のトマトなどを買い求める。様々な店や建物が並び、興奮して「色の洪水から目が離せなかった」という主人公の僕。缶詰のラベル、きれいに並べられてある果物や野菜、金色に輝くチーズ、ピンクのソーダ水、白いたまご。大きな川、大きな船も描かれ、お父さんはかごを売ったお金でバナナをいっぱい買い求めて棒に吊り下げる。嬉しそうにバナナを手にする僕。
しかし、帰宅の途に着いた親子にハドソンの男たちから言葉の暴力がふり注ぐ。「おんぼろかご、くそったれかご、山ん中のくされっかご!、山ザルが知ってるのは、それだけだ」。
知らん振りをしろと父はいう。しかし、幼児はひどく傷ついた。もうかごを作るお父さんもかごも自慢できるものでなかった。山ザルがつくるものなのだ。男の子はかごをしまってある納屋に入って高く積み上げたかごを蹴飛ばした。ハドソンの人たちから「おんぼろかご、くそったれかご」とさげすまれたかごが倒れた。しかし、かごは壊れなかった。お父さんの作るかごは、丈夫にできているんだと男の子は思う。
お父さんと同じかご作り職人仲間のビッグ・ジョーが納屋に入ってきた。蹴飛ばされ、ばらまかれたかごを拾っては元のように積み上げながらジョーは言う。「風から学んだ言葉を、音にしてうたいあげる人がいる。詩をつくる人もいる。風は、おれたちには、かごを作ること教えてくれたんだ(絵本の中の文字はほとんど平仮名です)」と語る。
オークの葉が一枚、風にのって納屋に飛び込む。「風はみている」「だれを信用できるか、ちゃんと知ってるんだ」とジョー。その言葉に男の子はハドソンの人たちのことはもうどうでもよくなる。風が選んでくれたお父さんのようになりたいと思う。男の子は「いつまで経っても使えるかごを作ろう」と思う。風が男の子の名前を呼んだ。
あとがきによるとハドソンからそれほど遠くない山間にかごを作って暮らしている人たちが実際にいたという。その人たちは芸術品のようなかごを作ると周囲の町に売りに出かけたが、町の人たちはかご作りの人たちが住んでいる山奥の深い森は薄気味悪く、不気味な伝説さえ広がっていたという。しかし、その人たちが作ったかごは世界中のどこを探してもないというほど、素晴らしいものだという。そして博物館、個人の納屋、アメリカの民芸品のコレクションとして今も数多く残っているという。風に選ばれたお父さん、そのお父さんのようになろうと決心した男の子が夜、風に誘われて半月の輝く森の中に立つ姿が良かった。いい絵本と出会えた。だが、幼児には理解してもらうのが難しい本ではないかとも思った。
2月25日朝。午前5時に目覚め、小犬のパピーを連れて散歩をしていたら西の夜空にポッカリと満月が浮かんでいた。絵本の「満月をまって」と同じような大きく美しい月だった。偶然とはいえ、不思議な思いでまだ明けやらぬ道を歩いた。