雨となった。春の雨である。春の雨は雪解けを進める。どこもかしこも雪・雪・雪だらかだった3月?。道路沿いには除雪車に寄せられた雪の山が自分の背丈を超えるほどあって、雪国に生まれ育った身でありながらも「この雪、本当に消えるだろうか」と恐れをなした時もあった。その雪もどんどん消えて、今、残っているのは泥で真っ黒に汚れた雪の滓(かす)だけである。その雪の滓も時間の問題だろう。
雪解けが進むのは楽しいものだ。横手川の堤防の雪も姿を消し、小犬のパピーを連れてやっと歩けるようになった。朝は妻との散歩で堤防は歩かないが、夕方の散歩はいつも堤防だ。堤防からは東山の全貌が見え、西山に沈む赤い夕陽も見える。広い空。雲の流れ。東山の山肌は毎日のように変わる。そして西山に沈む夕陽。堤防を歩くとそうした自然の変化を目で楽しめる。だから春の雪解けが楽しみだった。
31日の知事選告示と同時に知事選の取材に力を入れるつもりだった。寺田典城候補を追い、羽後町長だった佐藤正一郎候補を追った。そして共産党の佐々木良一候補の選挙運動も取材した。しかし、谷口賢一郎候補だけはつかまらなかった。やっと大仙市から横手市など県南入りすると分かったのは7日からだったが、時間的に取材の時間が取れたのは9日だった。
日程では美郷町を回って、昼ごろには横手市に入るという。午前中は消防フェアの取材をし、それから横手市へ向かった。昼食をとり、選挙カーから流れてくるスピーカーの音を求めて市内を走った。横手高校の校長もやった人であり、きっとその高校前も通るだろうと当て込んで、そこへも何度か走った。しかし、待っても待っても谷口さんの声は聞こえない。横手図書館なら街中心部にあり、そこで時間をつぶしていたら多分、気付くかもしれないと図書館で本に目を通しながらブラブラした。
しかし、午後2時を過ぎても谷口さんとは会えない。立候補した4人のうち、選挙戦のルポ記事を一人だけ抜かすようなことがあっては選挙報道の公平さに欠ける。3人まで選挙カーを追っての取材はしたが、谷藤さんはもう無理だと諦め、知事選の企画は中止することにした。
翌日からは大仙市長選も始まる。そうなっては知事選に時間を割ける余裕はない。考えを大仙市長選の告示前日のための準備に切り替え、帰りかけた。国道13号を大仙市に向かって走っていたら、美郷町金沢西根で谷口さんの選挙カーとパタッと出会った。もう知事選に触れるのは無理だと思ったが、その戦い振りだけは見てみようと同行した。なるほど、組織もない手作りの選挙運動をやっているという谷口さんの選挙は一風、変わっていた。
新聞に発表されたコースや時間は谷口さんにとって関係ないのだ。遊説先で一人でも手を振ってくれたりすれば車を止め、あいさつのため歩く。住宅地に入るとまた車から下りて歩く。そしてマイクを握って叫び、出会いがあればその人と立ち話をして名前と顔をアピールする。とにかく出会いがあればおしゃべりするのが谷口さんの流儀なのだ。ウグイス嬢も「うちの候補者は予定があってないような運動なんです。予定より1時間も2時間も遅れるのは当たり前なんですから」と笑い、谷口さんと一緒に歩き、マイクを手に叫んでいた。
谷口さんは途中、お酒のビン回収をしている夫妻と会った。数100本も集めた1升ビン、ビールビンをトラックに積む作業をしていた。谷口さんは選挙運動を止め、盛んにその夫妻の作業を手伝い始めた。ウグイス嬢も見兼ねて酒ビンを入れた箱を運び始めた。谷口さんはそこで10分以上も時間を費やして手伝った。夫妻は恐縮して「知事選の候補者がここでそんな時間をつぶしていていいんですか。私たちのことは構わないで頑張って下さい」と遠慮したが「なーに。気にしないで。好きでやってるのだから」と谷口さんはあっさりしたものだった。
その谷口さんに「随分、変わった選挙運動なんですね」と声をかけたら「選挙カーに乗って目まぐるしく走ってみたってしょうがないでしょう。知事を目指すものなら県民の声をジックリ聴くべきだ。だから私はどこも歩いて声をかけ、話を聴いているんです」と答えた。なるほど……なるほど。谷口さんの話を聞いていて嬉しくなった。この人は根っから明るく優しいのだ。
今度の知事選。新聞各紙は現職の寺田氏が優位と書き、佐藤氏がそれを追い、谷口、佐々木氏が厳しい状況と報道された。その情勢はきっと変わらないだろう。寺田氏にはいろいろ批判があった。批判はあったが、県民は寺田知事にもう一度、チャンスを与えたいという気持ちが強いのだろう。寺田さんは各地の遊説で秋田空港ターミナルビル問題を謝罪し、これからの4年間は「生涯で一番いい行政をやってみたい」と誓った。どこでも「やあ。母さん。何してるの?」と気さくに声をかけるその陽気な明るさは憎めない。
羽後町長を辞して出馬し、寺田さんを追う勢いの佐藤さん。寺田県政への厳しい批判の舌鋒は迫力があった。一方で若いころ、東京で「嫁来いトラクターデモ」をやったというユニークさには十分、期待するものがあった。共産党の佐々木さんは党員らしい律儀さと真面目さで福祉や教育を訴え、地元産業発展のための政策を論争を挑んだ。その政策は県民の財産として残るような価値観があった。そして時間を気にせずに県民と立ち話をし、「知事になったらその声を県政に生かす」と夢を追った谷口さん。愛称・タニケンさんの選挙運動も良かった。
さていよいよ投票日の17日を迎える。きっと長い一日となるだろう。これが終わったらどこかでホッと息を抜きたい。