こちら編集室「選挙取材その2」(4月22日)

  春の眠りは深い。いつもなら午前5時には目覚めていたが、季節が冬から春へと舞台を移したせいか目覚めが遅くなった。小犬のパピーの鳴き声で朝を迎えたのに気付く。カーテンを開けると、とうに太陽が昇っていて燦々(さんさん)とした朝になっている。時計は6時近い。目覚めた妻も「もうこんな時間!」とあわてる。「春眠暁を覚えず」。田んぼの雪はすっかり消え、地面からはフキノトウ、ツクシが顔を出している。

  大仙市長選が終わった翌日の18日夕、妻に電話した。「今夜は湯豆腐にしてもらえないか」と。夕食のことで「鍋物にしよう」とか「焼き魚にしてくれ」など余り注文を付けることはないが、市長選が終わったらなぜか湯豆腐が食べたくてしょうがなかった。

  電話を受けた妻は「あら。心が通じたのかな。私も今夜は湯豆腐にしようかと思って、さっき豆腐を買っておいたの」と明るい声で答えた。「そうか。それは良かった」。なぜか湯豆腐でビール、酒を飲めると思ったら嬉しくて「なら、すぐ帰る」と帰宅を急いだ。

  本当に久しぶりの開放感を味わった。2月から知事選、大仙市長選、それに合併問題で揺れる角館町の出直し町長選などで土日はほとんど休めず、取材の日々が重なっていた。机の上には角館町長選、知事選、大仙市長選の資料がたまり、その大量の紙を整理しながら取材し、原稿を書いていた。

  さらに選挙以外の取材もあった。さすがに休みのない日々が重なると精神的にもイライラし、自分でも短気になっていくのが分かった。ちょっとしたことで怒ったり、感情が高ぶった。とにかく「17日の投開票を終えたら何とかなる」と疲れ気味な自分を自分で励ましていた。その投票日となった17日、妻は中仙町の知り合いの所に行きたいという。自分の車を持ちながらも、一人で運転し、遠出するのは怖いと旧大曲市内から出る時はほとんどこちらの運転を頼りにする。

  何とか連れて行きたい。しかし、大仙市長選もある。「分かった。連れていく。でも午前中は原稿を仕上げたい」とパソコンに向かった。いわば選挙戦でどっちが勝っても使える予定原稿を仕上げることにした。

  知事選は各紙の予想から現職・寺田典城氏の勝利がほぼ確定的なので1本で済む。しかし、大仙市長選は三つどもえの戦いだ。土曜日、栗林候補、高野候補、そして伊藤候補の選挙カーを追った。同時に告示日からの3人の戦いを振り返って情勢を分析、票読みもした。その結果、栗林候補と高野候補が拮抗し、伊藤候補はやや出遅れていると見えた。

  栗林候補が勝った場合、そして高野候補が勝った場合の原稿に取りかかった。栗林候補の場合は書ける材料が豊富にあって案外、楽に進んだ。しかし、高野候補の場合、勝ちを想定しての記事を書くのは難しかった。旧市内での有権者の反応が栗林氏に比べて鈍かったからだ。このため勝因がつかめず、ストーリーが先に進まなかった。艱難辛苦とはこのことだろう。パソコンから離れ、水を飲んだり、妻に頼んでコーヒーを入れてもらい気分転換を図った。そして「高野さんの戦いのいい場面だけを思い出そう」とイメージし、どうにか書き終えた。

  しかし、選挙戦には予想外の事もある。不利と思えた伊藤さんだってどんなドラマを生んでくるか分からない。伊藤さんが勝った場合の記事も書いた。午前9時に始まり、3人分の原稿が仕上がったのは午後1時近かった。書き終えて初めて空腹に気が付いた。書いている間、妻から何度か話しかけられた。その都度、「お願いだ。原稿を書き終えるまでは話しかけないでくれないか」とかなり神経質にもなった。

  とにかく結果が出る前に使える原稿を書いておかないと大仙市長選の記事の仕上げは徹夜になってしまう。いずれにしても各紙とも18日の朝刊には載せるだろう。自分のインターネット新聞は早さが売り物だ。新聞各紙が朝刊に載せる前に結果を流したい。辛かったがとにかく3本の予定原稿を仕上げ、後は開票結果の数字だけを入れれば済むようにした。そして記事の最後には勝利者の生の声を放り込む。そうした段取りを整えた。

  昼食をとり「じゃあ。中仙へ行こう」と出かけた。「ウン」。それまで音を出さないよう遠慮し、詰まらなそうな顔をしていた妻はホッとしたような笑顔をこぼし、出かける準備をした。快晴だった。青空が嬉しかった。車を走らせるのが楽しかった。中仙地区在住の妻の友人宅への用事を済ませ、その帰りには新しくオープンした大型店に寄った。目的があったわけではなく、大勢の買い物客が出入りする雑踏の中に紛れ込んで見たかった。日曜日というレジャー感覚を楽しんでみたかった。妻と店内をブラブラし、ありとあらゆる商品を大量に並べた大型店のパワーに気を飲まれながらも、日曜日の自由さをいくぶん味わった。

  帰宅してからは入浴、そして夕食を取り、午後8時過ぎからの開票に合わせ開票場の体育館に移動した。記者席は大勢のマスコミ関係者でいっぱいだった。河北、毎日、読売など知り合いの記者と情報交換しながら、開票作業を見守った。「栗林が勝てる」。当初の栗林優勢情報は次第にあいまいなものとなって、かなりの接戦へと流れが変化した。パソコンを開いて、原稿を手直しした。何度も読み返し、どっちが勝っても使えるようさらに内容を整えた。

  午後11時近くになって開票場にいた栗林候補の運動員から「僅差だが勝てた」との情報が入った。急いで栗林事務所に走った。混雑する事務所の人ごみをかき分けてやっとバンザイに間に合った。満面の笑顔でバンザイする栗林さんの写真を撮り、勝利の喜びの談話を録音し、応援した人たちへお祝いの言葉をかけ、帰宅を急いだ。そして栗林さんの勝利の喜びの声を原稿に追加し、バンザイの写真も入れて、午前1時ごろ、知事選と同時にインターネット新聞へ記事を流した。

  しかし、夜が明けると栗林市長の初登庁という仕事や記者会見もあって、その晩は酒を飲むのもそこそこで止め、午前2時ごろには眠った。ドッと疲れが出てそのまま眠りの世界に落ちた。そして18日朝、栗林市長の初登庁、就任式、記者会見と続き、再び原稿に追われた。やっとひと息ついたら「今夜は湯豆腐にしよう」とささやかな夢が浮かんだ。妻に電話した。「あら。心が通じたのかしら」と妻の明るい声にホッとした。とにかくハードな日々を乗り越えた。そして今、開放感を味わっている。

  ここまでは昨日21日までに仕上げたものだ。だが、22日朝、とんでもないニュースが飛び込んだ。元助役の高野さんが選挙違反で逮捕されたのである。「エー」。前からさまざまなウワサは聞いていたが、まさか買収という手段まで使っているとは想像もできなかった。とにかく急いでそのニュースを編集した。同時に高野さんの顔写真をパソコンから取り出し、買収を受けた側の市議の写真も何とか手に入れた。

  その高野さんの写真をインターネット新聞に入れ込む時、ふと涙ぐんだ。高野さんとは知らない間ではない。親しかったわけではないが、市職員としてまた助役として仕事上の付き合いはあった。その高野さんが今度の市長選で買収容疑で逮捕された。何でそんな悲しい違反に走ったのか。家族を思うとかわいそうでならなかった。涙はそのためのものだった。残念でならない。