こちら編集室「青い風」(5月27日)

  横手市から平鹿町を通って、増田町へと抜ける「雄平フルーツライン」を日曜日に初めて通った。フルーツラインと言うように途中から一面の果樹園となり、乳白色のリンゴの花と新緑の美しさはまさに桃源郷だった。高台から見下ろす水を張った田んぼ。そして残雪でまだ真っ白な鳥海山。感動を与える風景がいっぱいあった。横手市役所農政課によると増田町までの総延長は14.6キロ。開通したのは03年3月というからまだ歴史は浅い。

  この道があるのを知ったのはつい最近で、妻も「通ってみたい」と日曜日のドライブを楽しみにしていた。土、日の休日にわが家で出かける時は、まず小犬のパピーをどうするかで議題になる。春浅く、気温も低い時なら小犬を車の中に入れたまま食堂に入ったり、買い物でデパートに入っても心配ないのだが、次第に汗ばむようになったこの季節にエンジンの止めた車に置いておくのは動物虐待になり兼ねない。

  このためパピーを連れていくべきかどうかで二人ともいつも悩む。ところが、小犬のパピーは土、日をしっかりと判断し、自分たちが休みとなるとその行動を朝から注意深く観察し、「横手へ行ってみようか」と言うだけで「二人は出かけようとしている」と分かるようで、ソワソワし出す。

  そして妻が鏡台の前に座って、化粧を始めるともういけない。「僕も連れて行くんだよね」と必死でワンワンと騒ぎだす。その目線は散歩用のリードが下がっている台所のカウンターに向いたままだ。普段は「パピー。お出で」と呼んでも機嫌が悪いと「フン!」とばかりに知らん振りをする小犬だが、連れて行ってもらいたい時は「僕。お坐りでもお手でも何でもする。いい子でいるよ」と、そのまん丸な可愛い目は訴える。

  それを見ているとどうにも置いて行けない。せっかく横手まで行くのだから、美味しいソバでも食べたいと思うのだが、その間にエンジンの止めた車の中に入れて置いて暑さで日射病になっても困る。妻は悩んだ末、「私、おにぎりを作るからお昼はそのリンゴ園かどこかで食べよう」となった。

  妻が作ってくれるおにぎりはいつも梅干し入りだ。自分が塩漬けのサケを食べれないのを知っているため、梅干し一辺倒だ。それにゆで卵がセットとなる。お茶、コーヒー、バナナ、濡れた手拭きのタオル、シートなどを用意し、出かけた。おにぎりを手にしてのドライブはピクニック気分を楽しめる。子どものころの遠足を思い出す。

  小学生のころ、1〜2年生の遠足と言えば川目の雄物川河川敷にあったグラウンドだったし、3〜4年生になると姫神山の「薬師神社」だったと記憶している。遠足の前の晩は中々、眠れなかった。そして「明日は晴れますように」と祈りながら眠ったものだった。

  リュックサックに母が握ってくれたおにぎりやゆで卵、お菓子などを入れて学校に向かい、先生たちの「さあ。元気で歩こう」の掛け声に合わせ、学校を出発した。あの時の胸の昂りは今も覚えている。学校から薬師神社までの距離は10キロ近くはあったと思う。雄物川の堤防をテクテク歩き、流れる雲を目で追い、田植えの終わった青々とした田んぼを眺めての遠足だった。

  長い道中、同級生や先生たちとどんな会話を交わしたのかは記憶にないが、薬師神社に登って、リュックサックから取り出して食べた〃おにぎり〃の美味しさと水筒に入った水の美味しさ、そしてリンゴやバナナ、キャラメルのうまかったのだけは覚えている。

  山とは縁のない地に生まれただけに、薬師神社のうっそうとした杉林は何とも言えぬ神秘さで、ご飯を食べ終わった後の冒険は楽しくてたまらなかった。太いスギの木をみんなで見上げ、山の斜面を助け合って登った。観たこともない草花。赤腹をしたイモリ。大きなカエル。平野部では観られない動物を発見した時の驚きと喜びは何とも言えなかった。

  左右にリンゴ園の広がるフルーツラインをユックリ走った。追いつく車があればウインカーを付けて追い越しさせた。もう終わりに近いが、せっかくのリンゴの花である。それを目に焼き付けたい。急いで走る必要はない。妻も「今度は秋に来てみたい」と桃源郷のような風景に感動した。「真っ赤なリンゴが成った時の風景も素敵だと思うよ」「ウン。そうだナ。秋になったらまた来てみよう」と自分も賛同した。

  延々と続くリンゴ園。途中に「ゆっぷる」と呼ぶ温泉施設もあったが、小犬も連れており、その中で昼食をとるわけにも行かず、増田町へと出た。真人公園の案内看板があり、その公園でご飯にしようとハンドルを切ったが、途中から道が分からなくなった。県南をドライブして時々、思うのだが、公園や名所案内の看板はあっても、それをたどって走ると途中からの案内は消え、初めての者を迷わせてしまう。案内に最後まで責任を持たないと言うべきか、不親切なのか。今回も真人公園を目指したが結局、迷ってしまい、まんが美術館の表の庭でご飯となった。

  小犬のパピーに水を与え、妻と自分はおにぎりを口にした。梅干しだけの味付けだったが、表で食べるご飯はとても美味しい。車の中ではただ妻の膝の上に乗って表を眺めているだけなのだが、パピーはそれだけで満足なのだろう。昼食をとる自分たちの間に座って大きな目をクリクリと輝かせた。時折、吹く5月の「青い風」がさわやかだった。ポットから注いだお茶の味も格別だった。晴れた日の日曜日。平凡だが、幸せなひとときを過ごした。家族とはこうしたものだろう。