こちら編集室「衆院選の取材の合間に」(9月2日)

  「大曲の花火」も終わった。27日夜。その花火の取材も終え、桟敷席にいた妻を迎えに行って帰る途中、東山から大きな月が昇ってくるのを観た。赤い大きな半月だった。身動きも取れない人波からやっと抜け出し、大曲橋(金谷橋)を渡って妻の実家に帰る途中で観た月だったから、夜更けの10時をとうに過ぎていた。右上が半分ほど欠けた大きな月は、漆黒の闇に横たわる東山から静かに昇ってきた。まるで屏風に描いた絵のようで、その神秘的な美しさに感動させられた。夜も更けてようやく昇ってくることから「更待月(ふけまちづき)」とも呼ぶと後で知った。

  夜の訪れが早くなった。朝夕は涼しさを通り越して肌寒くなった。夕方、小犬のパピーを連れての散歩は、時には半袖のシャツだけでは心もとなくなった。リーン、リーン、リーン。草むらからはコオロギだろうか。秋の虫たちも鳴き出した。コロコロコロと鈴を振ったような鳴き声もする。

  柴犬のアキがまだ元気だったころ、アキを連れての夕方の散歩は思索の時間だった。夕空の雲の流れを眺め、夕焼けに染まる横手川、そして遥か向こうの東山を眺め、アキを先頭にユックリと歩いた。柴犬のアキはただひたすら真っ直ぐに黙々と歩いた。女の子だったから素直な性格だった。「アキ。待て!」と言うと腰を下ろし、そのまま動こうともしなかった。

  しかし、幼いころはそうした言うことも聞かず、リードを離すと草むらを走り、さらに杉林へと隠れ、呼んでも戻って来なかった。追いかけると勢いを付けて逃げた。それに腹を立て、「もう知らん」と一人で家に帰ったこともあった。

  日曜日。アキを連れて帰らない自分の姿を見て妻がいの一番に聞いたのは「アキは?」だった。「アキはもう知らん。あんな呼んでも戻って来ないイヌなんてもう知らない」と八つ当たりすると、「あなた。何を言うの。アキは私たちの大事な家族よ」と本当に怒り出し、「私が迎えに行く」と夢中で堤防へ走った日もあった。

  秋の虫が鳴き出した夕方、ふと柴犬のアキが思い出された。冬の寒い朝に亡くなってもう1年と半年過ぎた。アキを思い出して「今ごろどうしているのだろう」と、夕陽に染まった空を見上げた。足元では小犬のパピーが相変わらずチョロチョロと右へ行ったり、左へ行ったりとせわしなく歩いている。だが、パピーももう6歳になった。随分、落ち着いた大人の犬になったと思う。

  花火大会が終わってからは衆院選の取材や市議選に備えての準備もあって、家に帰るのはいつも暗くなってからだった。このため、夕方の散歩は妻に頼んだ。暗くなって帰宅してもワンワンと何よりも喜んで迎える小犬のパピーの姿を見ると疲れも吹っ飛ぶ。

  30日公示された衆院選以来、毎日、候補者の選挙カーを追う取材も今日2日でやっと終えた。連日、車の走行距離は100キロから130キロを記録した。候補者も大変だろうが、取材でその選挙カーを追い、戦い振りを取材し、帰って原稿を仕上げる側もヘトヘトに疲れる。

  本来なら3人の候補者が大仙市・仙北郡入りしたのを取材すべきだが、候補者は3人であり、それを追うこちらは一人である。こちらの都合に合わせて大仙市・仙北郡入りしてくれと望むのは無理であり、相手の選挙カーの日程を事前に調べて、その時間に合わせて朝、家を出る。

  1日の取材は東成瀬村からスタートした。自宅からの同村役場までの距離は40キロだった。朝7時半に家を出た。役場前で演説するという候補者の選挙カーと出会わないと、後で見つけるのは大変なことになる。無事、間に合うことを祈って走った。取材に出かけて印象に残ったのは村岡敏英さんも、御法川信英さんも、そして京野公子さんもみな、人物的にも魅力のある候補者だということだ。そして快く自分の同行取材を受け入れ、「大変ですね」とねぎらった。

  大森町では70歳を過ぎた元町長が自分の顔を覚えていて「伊藤さん。あなたのやっているインターネット新聞はどうやってみれるんだ。おれの近所の人が、伊藤さんの新聞はとても参考になると言っていたので、昨日から夢中になって探しても分からないんだ」と言った。このような読者との出会いもあるのかと感激した。その方に名刺を渡したが、アドレスを見て「ウーン。これか?」と首をひねっていた。

  ならばと「ヤフーのページ開けますか」と聞いたら「ああ。おれのは最初にその画面が出る」と言うので「なら新聞を探し、その新聞を選ぶと『地方紙』とあるから、そこから秋田県を選んで下さい。そうするとその中に秋田県南日々新聞は乗ってます」と教えた。元町長さんは「そうか。そうか。早速、探してみる」と喜んでいた。70歳を過ぎた高齢でもパソコンに触れるというその知的な意欲と若さに感動した。

  選挙戦の取材もあってこちら編集室は思索もないまま駄文を書いた。思いつくままキーボードを打った。今週は休もうと思ったが、とにかく衆院選のレポートも無事に終え、ホッとしたことを報告したいと思った。