こちら編集室「小犬と暮らして」(3月10日)

  夕べも月がきれいだった。陽が落ちたばかりの空は濃い紫色に染まり、そこにポッカリと半月が浮かんでいた。月がきれいな夜は心が和む。まだ冬の星座・オリオンが見られるかと思い空を見上げ続けたが、星たちはかすかにしか見えず確認できなかった。思い返せば今年は冬の星座を眺める余裕もなかった。毎晩の雪空で星たちが顔を出した夜はなかったような気がする。

  犬を家族にしてからもう17年になる。最初は柴犬の「アキ」を飼い、7年前からはパピヨンこと「パピー」を家族にした。柴犬のアキは2年前の1月に15歳で亡くなった。とても寒い朝だったと記憶している。アキの寝床には電気の床暖房をしていたが、老化と共に心臓も弱り、旅立ったのだろう。女の子らしい優しい犬だったなと思い出す。そして走ることが大好きで、山に連れていくと〃疾風〃のように雑木林を駆けめぐった姿も目に焼きついている。

  犬と生活をしていると寂しさを紛らせてくれるが、心配することも多い。アキの場合も亡くなるまでに2度から3度、重い病気を患い、心配をかけさせた。全身が麻痺状態に陥り、お医者さんに連れて行き、入院治療したこともある。その日は妻は出張中で留守だった。電話でアキの様子を報告すると「マア。頼むよ。アキのこと頼むよ」と涙声でアキの回復を祈った。飼ってしまうと家族同然であり、どんなに治療費が掛かっても、「アキ。ガンバレよ。死んじゃだめだよ」と祈ったものだった。

  アキは小犬のパピーが新しい家族として加わった時、最初は嫉妬心を見せたが、相手が小犬でしかも男の子のせいか、自然に打ち解けた。そして朝夕、一緒に散歩もした。そのアキが亡くなって、今は小犬のパピーだけがわが家の家族となった。しかし、このやんちゃな小犬も膀胱結石や尿管結石でこれまで3回、手術した。2回目は先月の10日だったし、3回目は今月4日だった。先月の手術で結石を取ってもらったのだが、隠れていたのを見落としてしまったようで今月になって再び、おしっこを出せなくなってお医者さんに連れて行った。

  当初は膀胱炎かとも疑われたが、レントゲンを撮ってもらったら尿管にコメ粒ほどの石が詰まっているのが確認された。このため再びの手術となって、パピーは麻酔を受けた。パピーの主治医は大曲動物病院でご主人も奥さまも本当に親身になって診察し、心配してくれるからありがたい。奥さまは心から動物好きなのだろう。診察台に上げられ、不安そうな鳴き声をあげるパピーを前に「ゴメンね。痛くしないからね」と優しく声をかけ、少しでも痛がると夫である先生に「あなた。痛がっているよ」と小犬の立場になって注意する。先生も優しい。「ウン。分かってる」と困ったような顔で、「とにかくもう少しだ。もう少しすると溜まっているおしっこを吸い出せるから」と尿管に差した管を通じておしっこを吸い取ろうと懸命だった。

  こうして溜まっているおしっこを抜き取り、それから麻酔をかけ手術となった。土曜日の午後。パピーの手術の無事を祈り、まんじりとしない時間を夕方まで妻とブラブラ過ごした。6時過ぎ、病院に迎えに行くとパピーは病室でボウーッとした顔で座っていた。妻共々、「パピー。元気か。パピー。頑張ったね」と呼びかけるとかすかだが瞳に生気がみなぎった。短期間に2度も手術を受けただけにパピーも辛かったろう。

  同時に手術した先生も辛かったと思う。2度目の手術に関しては治療費は取らず、薬代など材料費だけでいいと先生はおっしゃった。とにかく手術は無事に終え、ホッとしたもののパピーはその翌日も、またその次の日も元気がなく、おしっこも出せない状態が続いた。妻はその間、3日続けて病院に連れていき、先生からおしっこを抜き取ってもらったり、痛め止めの注射をしてもらたった。

  こちらも不安で自宅にいる妻に何度も電話し、「パピーはどうしてる。具合、悪かったら早めに病院に連れて行ってくれよ」と様子を尋ねた。「ウン。分かってる」と妻。そして仕事を終えて家に帰ると「あなた。今日はね。先生も本当に良く頑張って、顔中汗だらけになってパピーの体からおしっこを抜き取ってくれたのよ」と感激し、興奮しながら報告した。

  そして「やっぱり治療するって真剣で疲れるのよね。パピーのおしっこを抜き取ったらホッとした顔でイスに座ってタバコを美味しそうに吸うのよ」とその仕草を細々と語り、「あなた。先生に感謝しきゃ」と声を高めた。「ウン。本当にそうだ。とにかくパピーが元気になってもらわないと」と相づちを打った。

  手術してから今日で6日目。パピーは一時、おしっこを垂れ流しの状態で妻を困らせたが、次第に元の場所で足を上げ、男の子らしい仕草でするようになった。そして夕方、仕事から帰ると居間のドアの前にチョコンと座って自分を待ち、しっぽを大きく振って歓迎するようになった。犬と暮らしていると心配することも多いが、大きな幸せと喜びも与えてくれる。パピーよありがとう。そして柳田先生、ありがとう。