今年もまた、アカシアの花が咲く季節となった。夕方、小犬のパピーを連れて横手川の堤防や川港親水公園を歩くと、アカシアの木が乳白色の花の色に染まり、遠くから見ると木全体が霞んでいるかのようだ。近づくだけでほのかに甘い香りを漂わせ、「もうアカシアの季節なんだナ」と思った。
アカシアといえば思い出すのが西田佐知子さんの「アカシアの雨が止む時」だ。自分が中学生か高校生のころ、テレビでこの歌を聴いてすっかり好きになった。悲しい透き通った声で歌い、清楚で美しい人だったなと思う。ただ大人になった今、その歌詞をひもといてみると悲しい恋の結末とはいえ、頽廃的で希望もなく、好きになれない。
このごろ少しの時間があれば大曲図書館で目的もなく、本の背表紙を目で追って過ごしている。背表紙から得られるのは本の題名だけというわずかな情報だが、作家や出版社の人たちは文章を書くだけでなく、題名を付けるのもプロだなと思う。題名で興味がそそられ、つい本を取り出して読んでみたくなるからだ。
古典で言えば志賀直哉の「暗夜行路」が題名としてもすごいし、伊藤左千夫の「野菊の墓」なんかは綺麗だ。島崎藤村の「夜明け前」、司馬遼太郎の「峠」なんかもやっぱり心引かれ、読みたいと思わせる。とにかく図書館の本棚と本棚の間の通路を行き来しているだけで様々な題名が目に飛び込んで興味津々とさせる。「虹は消えた」「幸福の里」「終わりからの旅」「風の生涯」「夜の悲しみ」「山河ありき」。どうだろう。この題名の見事さは・・・。
時間があったら、その本の一つひとつを読んでみたいと思うし、そういう心境にさせる活字の力はすごいと思う。足を別室に向け、児童図書コーナーに入った。そこで見つけたのは「こまったときの神さま大図鑑」(PHP研究所・那須正幹著)である。困った時の神頼みとは良く言うが、「困った」時は大人も子どももない。神さまに助けてもらえるなら、読んでみようと思った。
その1「とにかく美しくなりたい。世界中の男の子をふりむかせたい」。その2「美男子になって、女の子を夢中にさせたい」。その3「いつまでも健康でいたい。病気になりたくない」など美と健康をつかさどる神さまの紹介から、「学校もおもしろくない。家にいるのも退屈。家出したいけど、決心できない」、「意地悪した人に仕返しがしたい」など人間関係を解決する神さまも紹介している。
男と女、いくつになっても恋をしたいものだ。取りあえずお願いしたいのは女なら「その1」を、男なら「その2」であり、そしてそれを達成するには何より健康であり、そのためにも「その3」は男女共通の願いだ。
本ではその希望を叶えさせてくれるインドやギリシャ、オーストラリア、アフリカ、中国、そして日本など世界中のありがたい神さまを紹介し、おまじないの方法も書いて親切に教えてくれる。
ここで「美しくなりたい」人と、「美男子になって、女の子を夢中にさせたい」人に本から学んだ「おまじない」の秘伝をソッと教えよう。
世界で最高の美人はインドの天女ティロッタマーだという。この女性は余りにも美しくシヴァ神は、彼女の歩く姿を見るために、頭の四方に顔ができ、インドラ神は彼女をよく見ようとして千の眼ができたほどという。そしてスンダとウパスンダという魔神の兄弟がそのティロッタマーという美女を我がものにしようとけんかを始め、二人とも血を流して死んだとか。
このティローッタマーのように美しくなるには食後3時間たったとき床の上に座禅をやるように座り、お腹に空気をためるような気持ちで呼吸しながら心の中で「わたしは天女ティローッタマーである」と強く念じ、それを毎日、繰り返すうちに顔も体もやがてティローッタマーのように変身するとか。
その2。美男子になって、女の子を夢中にさせる神さまはギリシャのアドニスという美少年が良いようだ。この少年は木から生まれ、気品に満ちた顔で美の女神・アプロディテ(ヴィーナス)を一目惚れさせたとか。しかし、狩りに出かけたら二人の恋に嫉妬する軍神・アレスがけしかけたイノシシの牙で突き殺された。
おまじないはマトン500グラムを焼き肉にして、グラス一杯の赤ワインといっしょに備え、「アドニスさまのような絶世の美少年になりますように」とお祈りするだけで良いとか。しかし、誰もがうらやむほどの美男子になって他の男の子たちの嫉妬には気をつけるようにとアドバイスする。
アドニスほどの美男子になりたいとは思わないが、せめて今度、美しい人との出会いがあったら、「また会える機会を神さまが与えてくれるよう祈りたい」と言ってみよう。そう夢想しながらアカシアの似合う雨の日の午後を過ごした。