ささやかな庭だが、玄関と裏庭にはモミジやツツジ、イチョウ、ナナカマド、しだれ桜などの樹木がある。木々と暮らしているとそのさわやかな緑にいやされるが、とんでもない騒ぎも巻き起こす。その騒動に「もう樹木なんていらん」と投げ出したくなるが、夏を迎え、開け放った窓から入ってくる風の涼しさに身をさらすと木々のありがたさに感謝したくなる。それにしても今年は騒動が多かった。
その原因はここ数年、手入れをしていなかったためである。枝が伸び放題となって、裏庭はうっそうとしていた。このため、向かいの庭師さんに枝の剪定を依頼した。妻は「どうもあちこちに毛虫がいるようなので、思いっきり枝を切ってもらいたい」と頼んだ。二人の庭師がやってきて剪定作業をしていたが、自分が出勤してから間もなく妻から携帯電話に「あなた。大変。向かいの進藤さんがスズメバチに襲われ、危うく死ぬところだったの」と悲鳴のような声があった。
向かいの庭師さんは一級の免許を持つ設計士だが、同時にお父さんの技術を引き継いで庭師の資格も持っている。その進藤さんがしだれ桜の枝を切るため、ハシゴをかけて上って行ったらスズメバチが一斉に襲い出したという。命綱を取り外し、持っていた枝切りハサミを無我夢中で振り回し、大急ぎで逃げた。幸いというか奇跡的というか、進藤さんはスズメバチに刺されないで済んだ。
妻は血相を変えて逃げてきた進藤さんの報告を受け、市役所の生活環境課に相談の電話を入れた。以前は、同課でも無料でスズメバチ退治を引き受けていたが、作業員が刺されて生命に危険を及ぼす被害に遭ったことから、今では専門業者を紹介するだけになっている。生活環境課からそのような報告を受け、妻は紹介された業者に電話をかけ、スズメバチ退治を依頼した。そして「あなた。今日は家に帰っても絶対に裏庭に行かないように」との注意だった。
「進藤さんは大丈夫か」と聞いたら「ええ。大丈夫だったけど、以前に進藤さんスズメバチに刺されており、それが2度目や3度目になると抵抗力がなくて死ぬ恐れがあるというの。だから本当に心配。とにかく刺されなくて良かった」と一安心の報告だった。
こちらも黙っておられずとにかく家に帰った。進藤さんはわが家の玄関で妻から出された麦茶を飲んで休んでいたが、「イヤー。おかねがった(怖かった)」と目を細め、笑った。そして「巣を見てみるか」と案内した。しだれ桜の側までは行けなかったが、なるほど木のてっぺん当たりにトックリのような巣が下がっていた。
以前に軒下に巣を組まれたことがあって、それを退治した後は、春から秋にかけて折りを見ては家の周りを回って注意していたが、しだれ桜にまで巣を組むとは思ってもいなかった。だが、調べてみるとスズメバチは樹木でも風通しが悪いと、その枝先に巣を組む習性があるという。
わが家のしだれ桜はを仙北市角館町のサクラ祭りで買い求めたもので、植えてからこの方、20年以上も枝切りをしたことがなかった。だから、枝が伸び放題になっていた。このため、内部は風通しも悪く、スズメバチに取っては絶好の住かとなっていたようだ。とにかくスズメバチの巣は業者の手によって取り外された。1万円以上の出費となったが、命には代えられない。
こうしてスズメバチ騒動は一件落着したが、それから2週間ほどしたら、玄関前のモミジの根本にオガクズのようなものが散らばり始めた。最初はモミジの枝払いした木くずと思ってほうきで掃いていたが、その翌日もまたその翌日も木クズが散らばり始めた。どうも様子がおかしい。再び進藤さんに相談したら、木の幹の中に巣くう虫がいて、その虫が木を食べているのだとか。翌朝、進藤さんが来てくれて幹から枝を観察し、針のような穴を見つけては注射器で消毒をしてくれた。そして裏庭にも回って消毒薬を全面的に放水してもらった。
こうして木を巡る騒動も一段落したが、進藤さんによると今年は毛虫が異常発生した年だという。自分も裏庭に回って、毛虫を見つけてはフマキラーを撒いて処分したが、日曜日の朝にはモミジの幹に群がるようにくっついた毛虫を見つけ大騒ぎしたものだった。それも片っ端から見つけてはフマキラーで処分し、妻が割りばしで捕まえてはビニール袋に入れた。
家の庭木の剪定作業中、帽子のつばからブラリと下がってメガネの前に「コンニチワ」とばかりに顔を出したのがあって、何かと目を凝らしたら「毛虫だった」と驚いた進藤さん。先日の消毒薬の散布では「これであの毛虫たちも全滅するはずだ」と意気込み、江戸の敵を長崎で討っていた。木のある生活はこうした騒動も巻き起こす。しかも、秋になると落ち葉が庭中に散らかり、その掃き掃除も大変だ。だが、あの紅葉の美しさは何とも言えない。樹木との付き合いは可能な限り続けたい。