こちら編集室(97・3・6)

 春3月は卒業の季節である。青春時代の真ん中を高校という舞台で3年間を過ごし、巣立ってゆく生徒たちにとって卒業という厳かな儀式は特別の感慨を抱くものだろう。1日に行われた県立大曲高校の卒業式。旅立つ生徒、それを見送る生徒が「別れの歌」を斉唱するころには、女子生徒の目に真珠色の涙が光っていたのが印象的だった。そして生徒一人ひとりに手渡された生徒会誌「盟友」に書かれた松谷弘市校長の巻頭言もまた爽やかなはなむけの言葉だと思った。

 「正義の人 杉原千畝」と題した松谷校長の巻頭言は最近の「公務員の汚職・不正」を例に挙げたうえで、「秋田県庁では膨大な公費濫用の責めを負い、知事が退陣するという異常事態である」と現状を見据える。さらに「公正・清潔を旨とすべき公僕たちが、国でも県でも不正を働いていたというのはまったくやり切れない思いであり、役人不信に陥るのもやむを得ない」と言い切る。

 「しかし、公務員がみんなこのような不正を働いている人達ばかりではない。大方は一生懸命公正に頑張っている」とし、「そんな代表者を一人紹介しよう」と杉原千畝を登場させる。 杉原千畝(ちうね)──。第2次世界大戦最中のリトアニア領事館員である。ドイツの迫害から逃れようとするユダヤ人の窮状を目にし、本国からの指示に反して第三国への逃亡を助けようとビザを発給、約6000人もの命を救った人としてイスラエルから永く讃えられている人である。まさに日本版の「シンドラーのリスト」である。

 その杉原は長い収容所生活を終え、1947年(昭和22年)に帰国したが、待っていたのは外務省の馘首(かくしゅ)命令だった。

 杉原は本国からの指示より、目の前に死が待っているユダヤ人の命を救おうとした。正義と人道に生きた杉原。松谷校長は「彼も公務員の一人である」と結んだ。

 確かに自腹を肥やすことに汲々とした公務員はごく一部と思う。自分も知っている限りの県職員はいかに秋田県を発展させ、県民生活を良くするかと日夜、努力している。それだけに今度の知事選の行方も気にかかことだろう。

 さて、その知事選である。まさに風雲急を告げてきた。3日に佐々木喜久治知事が食糧費や一連の公費乱用の責任を取って、谷藤昌二県議会議長に「辞職申し出書」を提出、今月末の退職が確定した。そして4日には自民党からの擁立要請を受諾していた前県総務部次長の佐竹敬久=のりひさ=氏(49)が記者会見して県知事選への出馬を正式表明した。さらに5日には新進党県連、社民党県連、連合秋田が統一候補として横手市の寺田典城(すけしろ)市長(56)の擁立を決め、7日にも正式要請する動きとなった。 寺田氏は「個人的には固辞したい」と微妙な言い回しをしている。寺田氏以外にも自民党を離党した大里祐一氏(60)=鹿角市=の出馬がほのめかされているが、目立った動きはない。また革新系市民団体も候補者擁立に向けて人選を進めているようだが、見通しは立っていない。ともあれ悪戦苦闘、紆余曲折した県知事の候補者選びはヤマ場を迎えた。

 佐竹氏は角館町生まれ。先月25日の自民党からの出馬要請を受けた時は、食糧費問題で火だるまとなった県庁内部からの起用に批判の声もあった。しかし、記者会見で公費の不正支出は「まぎれもなく私の責任」と真摯に受け止め、陳謝したその姿勢を評価する声も聞かれ、日を追うごとに佐竹氏への逆風は弱まってきた。

 その弱まった風に再び勢いをつけるか、注目されるのは寺田横手市長の最終判断である。寺田氏は大曲仙北でもトップクラスの建設会社「秋田振興」を経営する小原家の次男として生まれた。会社社長などを経て、1991年横手市長に初当選。現在2期目。 気さくだが、投げやりな言葉づかいで誤解を生みやすい損な一面を持つが、職員の能力を引き出す辣腕家として評価は高い。昨年10月の総選挙では小沢一郎新進党党首の秘書をしている長男・創(はじめ)氏(25)が小選挙区から出馬。心もとない息子の戦いに公務の合間を縫っては行動を共にし、「私は息子を公人として捧げた」と訴え、自民・村岡兼造陣営の強力な壁を打ち破ろうとしたエネルギッシュな行動、そして実りはしなかったものの「父子鷹」として精一杯の情愛を示したのが忘れられない。

 一方の佐竹氏。今朝、初めて秋田市の自宅に電話を入れ、取材の約束を取り付けた。既に分刻みのスケジュールであいさつ回りに歩いているのだろう。「申し訳ないが、夕方のしかも20分位しか時間が取れない」と電話の向こうでしきりに恐縮した。秋田弁丸出しの飾らない人柄を感じさせた。

 固辞はすると言っているものの、寺田氏の出馬の可能性は高いかもれしない。いずれにしても佐々木知事時代、県知事室は敷居が高いといわれたものの両氏の出馬は県知事室の敷居を低くしてくれるものと期待したい。

 佐竹氏の取材のため、今日は地元を留守にする。読者のみな様には新しいニュースを取り込みたかったが、知事選に向けての資料収集もこれからは必要だ。紙面がかわらなかった点は一人で発行しているという事情を察して許されたい。