柳千賀子さんの「シンガポール日記(10)」(97・4・21)

 今回は前回に続き、レースの番外編と題し、ビックリしたことや、 日本との違い、などを書きたいと思います。

まずは、すごくビックリしたサーキットについて。 レースをするコースやパドックは、コンクリートで舗装されていますが、その周りは、 なんとコンクリートがうたれていなくって、朝、雨が降ったためびちゃびちゃで、靴が 汚くなってしまうほど。 やっとのおもいでグランドスタンドに行ってみると、屋根は付いているものの、木造。 木造のスタンドなんて、日本にはまずありません。 レースの様子を見るウルトラビジョンもない。テレビモニターが1m間隔でぶら下がっているだけ。 広大な土地を整備して、サーキットは造ったものの、その周辺に付いては、余裕がなかったのか、気配りをしなかったのか、とりあえず造ってみたという 表現がぴったりのレース会場でした。

 「うっそぉー!」。こんな粗末な造りのサーキットでWGPをやっちゃうなんて、 たいした度胸。日本には、こんなサーキットはないから、お国柄を象徴しているようで、 ビックリしつつも、感心してしまいました。 でも、そこでレースを開催してくれなかったら、私は見ることが出来なかったわけで、 まあ会場はどうあれ、開催してくれたことに感謝。

 それから、日本で野球を見に行ったりすると、スタンドにビールを売りに来たり、お弁当を売りにきたりする人(ほとんど学生)がいますが、そういういわゆる売り子さん が、そのスタンドにも現れたんです。マレー人のおじさん。 使い古しのバケツの中に氷とビールやジュースをいっぱい入れて、かぼそい両腕 (私の腕より細い)に下げて、つらそうな顔をしながら売りにきました。 大きな声を出すでもなく、ただヨタヨタスタンドを歩いて、ちょっと遠い席から声を かけても、耳が遠くて聞こえないんだか、無視しちゃうし、そんなに売れてる形跡も無く、ただただ重い思いをして歩いているだけ。なんとも商売気のないおじさんでした。

 そうかとおもうと、今度は別のおじさんがなんとマンゴを売りにきたのには、笑ってしまいました。食べやすいように切ったものではなく、そのままのマンゴ。皮をむかないと食べられないはずだから、 ナイフを持っている人の為になのか、お土産用なのか。そのおじさんも、とくに大きな声を出すでもなく、透明のビニール袋に入れたマンゴをちょっと上にあげながら、 ヨタヨタ歩くんです。夫いわく、「ただ見せにきたんだよ」。 絶対日本ではありえない事の一つでした。

 レースが終わって、帰るためにゲートに向かって歩いていたら、ジュースや、ビール を売っている屋台があったり、日本の焼きそばのようなものが売られている屋台があったり、そこらへんは、日本と同じでした。が、 なんとほかに、バイキング形式の仮設レストランがありました。もちろん、足場は べちゃべちゃ。パラソル付きのテーブルと椅子が用意されていて、料理は、人が通る道端にあって、一応ロープで仕切ってはいるものの、ひょいと手を伸ばせば、パンや、フルーツはゲット出来ちゃう。そんなことを話しながら歩いていたら、前の おじさん、やらかしてくれました。ひょいとパンを2個ゲット。その場で歩きながら 食べちゃった。ウソォー。私たち意外にもそのおじさんを見ていたはず、でも、 誰も何も言わず見過ごして、お店の人も追いかけてくるでもなく、ラッキーなおじさんでした。

 さすがマレーシアといった感じに、日本との違いを楽しませてもらいました。

 日本やシンガポールでもけっこうハイテクが進んでいますが、あまり進んでいない これからという所を目のあたりにして、私たちは恵まれた環境にいることを実感 しました。でも、彼らの価値観で、それを良しと思っているのだったら、それはそれで、 たまに、あのサーキットでレースを観戦するのも、楽しいものだと思いました。