こちら編集室「笑顔のサービス」(97・6・17)

 青空。風。風に裏返った木の葉が銀色に輝く。17日、同級生らに誘われ、久しぶりのゴルフとなった。行った先は岩手県湯田町の「湯田高原ゴルフカントリー倶楽部」。横手市から車で20分足らずの距離。午前10時のスタートだが、ゴルフ場に着いて驚いたのはキャディたちの笑顔とあいさつだった。

 何年経っても上手にならない自分のゴルフはいつもゴルフ場に着くと同時に気重にさせ、豪華なクラブハウスに入っただけで気後れさえ感じる。この日も小心者そのもので、ハウス内に入ると同時に受け付けはどうしたら良いのか、ロッカーはどこにあるのか、堂々と身構える同級生を尻目におろおろする始末だった。「パターの練習しようよ」と声をかけられたが、車から下ろしてもらった自分のキャディバックはどこへ行ってしまったのか、それさえ分からない。仕方なく同級生の後を着いていったらキャディたちが懸命になってゴルフバックを手分けして、スタート準備の最中だった。

 そのキャディさんたちは顔を合わすたびに「おはようございます」とだれかれなく声をかけてくる。自分のバックを見つけ、パターを手にして次第に心も落ちついて、人並みのゴルファーの気分になってきたが、心の動揺をいち早く沈めてくれたのは多分、キャディたちの笑顔とあいさつだったと感謝したい。

 いつやってもスコアーは105から110台の自分のゴルフである。これ以上、上手くなろうとは思わない。100を切るゴルファーになりたいとの願望は持っても、経済的に許せない自分の懐具合だからである。ともかくプレーはスタート準備に入った。同行することになったキャディさんは研修中という見習いさんと2人である。20代後半か30代前半と思えた。お人形さんのような美しい目をした2人であった。

 同行者4人がそれぞれ一通りのあいさつを交わしてからプレーはスタート。それからがキャディたちの仕事開始である。しかし、仕事とはいえ、プレイヤーのクラブを手に懸命にゴルフ場を走るその姿、そして笑顔、言葉づかいの優しさ、仕草の気持ちのよさには驚きの連続だった。2人とも見ていて気の毒なほど懸命に走っては客にクラブを届ける。下手な自分たちの打球が、雑木林に転がり込んでも草をかき分けるように夢中で探す。

 その動作を見ていたら2人とも背の高さ、声、顔までも瓜二つである。「ご姉妹(きょうだい)ですか」。つい興味が沸いて、研修生を育成する役目のキャディに尋ねたら、「いいえ。私たち双子なんですよ」と答えが返ってきた。初めての会話らしい会話となったが、その時の笑顔がまた良かった。息を切らし、汗を流して登った山道で出会ったユリの花を見るような思いだった。「お客さまは遠慮なさらず、私たちにクラブを運ばせて下さい」。お姉さんの方がさらに答えた。

 ボールの着地点からカートの傍に居るキャディに大声で叫んで、クラブの番号を言い、走って運ばせる同級生の真似ができず、いちいちこちらで取りにゆく自分の仕草が可笑しかったのか自然の笑顔を見せたまま、優しいアドバイスがあった。そう言われてもとうとう最後までクラブは自分で取りに行ってしまったが、お蔭で何度もキャディと会話を楽しむことができた。横手市から通っていること、「お客さまを楽しく、気持ち良くプレーしてもらうようにするのが私たちの当然の勤めですから」とまで言い、常に「ありがとうございます」「ごめんなさい」の礼は欠かさない。その上、疲れたころを見はからかっては冷たい麦茶のサービスも。

 先月、千葉県からのお客さんを誘って県内のゴルフ場に案内した時は「今日のキャディは何か怒っているみたいだね」と不思議そうな顔で聞かれてしまった。「いや、秋田の女の人は無口なんですよ」と何とかカバーした。そう言えば最後までキャディの笑顔は見ることのないまま、プレーは終わってしまった。横手市から峠を越えただけで、同じゴルフ場でもこうも笑顔のサービスが違うものかと唖然としてしまった。

 秋田県もまた大曲市も新幹線開業に合わせ、接客業の人たちを対象に心から客をもてなす「観光ホスピタリティ事業」を行っている。その結果、秋田の人の笑顔は変わったろうか。多分、変わっていないだろう。千葉からのお客さんに「キャディは怒ってるみたいだね」と言われるようでは、秋田のイメージは新幹線開業によって近くなったとしても、良くはならないだろう。

 笑顔のサービス。言葉の気遣い。お隣、岩手県のゴルフ場に入っただけでこころから客をもてなすといった「観光ホスピタリティ」精神がいかに大事かということが分かった。

 こうしたわけで、17日のニュースの入れ替えは休んでしまった。青空と緑の高原の爽やかな空気。そしてキャディのすてきな笑顔と仕草が晴々とした気分にさせた。スコアは105。下手なゴルファーは高原でも悲鳴の連続だった。