こちら編集室「いい日、腹立ち」(97・12・14)

 「小説を書くというのは、日本橋のまんなかで、素っ裸で仰向けに寝るようなもんだ」と語った のは太宰治だった。含羞(がんしゅう)の人とも言われた太宰である。はにかみやらしい太宰の言 葉で好きだ。秋田県南日々新聞の「こちら編集室」に自分が向かうとき、「さて何を書こうか」と 思案に苦しむが、書き終えて再読すると震えるような気恥ずかさに駆られる時もある。ましてや自 分の幼いころや若かったころの思い出に触れると、なぜこうも自分をさらけ出してしまったのかと まさに「日本橋のまんなかで、素っ裸で寝る」ような気恥ずかしさを覚える。

 しかし、その恥も自らさらした恥だからいいが、昨日(12月13日)の新聞を見たときに沸いた思いは憤りを超えて、「秋田県人として情けなくなるような恥ずかしさ」としか言いようがなか った。県の公費不正支出問題である。再々調査の結果、94年度分だけでも31億円を超し、さらに95、6年度分も含めると約42億7000万円を超える「県費」が職員同士や県議との飲み食 い、さらには机やソファ、知事公舎のコイの餌代などに化けていたというから、すさまじいばかりの公費乱用である。県職員には県民から集めた「税金」という感覚が失われていたのか、としか言 いようがない。新聞に県費の乱脈を訴える大見出しが踊った1997年12月13日の朝は、私たち県民が忘れてはならない「いい日、旅立ち」ではなく「いい日、腹立ち」の日として長く記憶に とどめよう。

 折しも12月1日から開かれている大曲市議会での一般質問で高橋司市長は国の財政構造改革法の影響で来年度予算編成は「9億円の歳入不足が生じる。あらゆる事務的経費、事業の節減を図り たい」とあわてさせている。地方はわずか9億円の歳出不足でこの騒ぎである。県職員が、単なる飲み食いに使った金額はわずか3年間で42億円を超える。それ以前からの不正支出まで逆上ることになったら、空恐ろしいことになるだろう。

 県議選で仙北郡選挙区から初当選した社会党のKさんは、県議になった感想をしばらくしてからこう語った事がある。「いや。あまりにも県職員たちのていねいな応対、接待は自分のよ うな一介の労働者上がりにとっては戸惑うばかりだ。それが当たり前となってしまいそうな自分の感覚が怖い」と。県職員による公費による接待をKさんは図らずも吐露したのである。残念ながら Kさんは次の選挙では落選したが、おそらく当時の県職員の間には「県議先生」を公費でもてなし喜んでもらう事は、当時の佐々木知事の安寧(あんねい)のためであり、県庁内に波風をたてない ためであり、ひいてはそれが自分たちの出世のためであると言った県民お座なりの身内意識が強かったはずである。

 それが「みんなで渡れば怖くない」と言った集団心理の亡霊に取り憑(つ)かれ、悪しき慣習、 悪しき慣例として長く尾を引き、ブラックホールのように公費を飲み食いの資金として吸い込んできたものと思える。

 いま、その県職員の間に公費乱用によるツケが被さり、当然の「返還」と「責任問題」という報いが重い負担としてのしかかっている。県庁職員約6000人がその責任を負うとすれば、一人当 たり約55万円の金額という。当然、立場によって返還額は違ってくるだろう。中には「返還に備 えてボーナスはそっくり手付かずの状態にしている」と漏らす県主席課長補佐の弁が新聞で報道されている。

 責任の軽重によっては50万円はおろか100万円を超す金額の返還を求められる職員も出ざるを得ないだろう。しかし、この際は潔くこの返還に応じてもらいたい。私たち、民間の中小、零細 企業に勤務している多くの労働者の賃金実態は40代にしても20万円前後という泣きたくなるような金額で暮らしている人が多い。それでも自動車税をはじめとする県税を真面目に納めてきているのだから。この貧しさに甘んじ、それでもなお我慢して不平を漏らさず、秋田で生きようとして 来た県民の暮らしにあぐらをかいて、飲み食いの浪費を重ねてきたあなたたちは今こそ潔く返還に応じ、県民のための県政に向けて、立ち直ってもらいたい。

 同時にこの返還を私たち県民は、現職ばかりに求めるのではあまりにも酷だと言いたい。なぜなら、そうした慣例を作ってきたのは退職した多くの幹部職員だったからである。後輩たちは、悪い事と知っていながら、そのレールに乗って走ってきたからである。かつての県庁OBはこの問題を座して見守るべきではない。後輩たちの苦悩のため、積極的に救済の手を差し伸べるべきだと訴えたい。一番のおいしい所を味わってきたのはあなたたち一部OBだからである。

 最後になるが、県南日々がこれまで、接してきた職員はこの問題を真摯に受け止め、苦悩している人たちが実に多い事を書き留めたい。「あってはならない事だ」と反省し、眉間(みけん)にし わを寄せている。中には直接関与した事ではないが、身内の恥として受け止め、改善に向かって声を出そうとしている。こうした職員が多い事は、まだまだ秋田県も捨てたものじゃないと期待される。 県政出直しを訴えて初当選した寺田典城知事も大変な重荷を背負ったものと同情するが、多くの 職員は今度の問題を自らの恥、自らの痛みとして受け止め、立ち直ろうとしている。私たちはそれに期待し、温かい目で見守りたい。「いい日、旅立ち」は「いい日、腹立ち」に終わったが。