秋田市の高杉静子さんからのお便り

「こちら編集室・戦艦大和」を読んでの感想文(97・12・28)

 「そうそう、とにかく大きい船だと思ったんだよ。昭和19年の11月頃だったかな、お父さんたちがね、呉に入港したときに「大和」がドックに入っていたんだよ。船首近くに大きな穴、そう10mぐらいだったかな、大きな穴があいていてそれを直していたんだな。上陸する兵隊さんが整列していてね。お父さんたちが見ていたら上官が『おいおい、あんまりジロジロ見るなよ』って言うんだ」電話の向こうの父の声は遠い日を思い出しながらゆっくり続いた。

 「こちら編集室・戦艦大和」を読んで図書館へ行ってみた。開架にあった「戦艦大和ノ最期」は編集室に書かれていた北洋社刊ではなく、その後(昭和56年)出版された講談社のものだった。旧字体は当用漢字に変わっていたが、片仮名混じりの漢字で書かれた文体は格調高く、漢文を読むようなリズム感もそのままだった。読み始めた当初に感じたなれない文体へのとまどいもページを重ねるごとに薄らぎ、内容へと引き込まれていった。

 そうだ、父も海軍兵だった。この本を読んだかもしれない。そう思って、半分ほど読み進んだところで実家の父に電話をした。冒頭の会話はそのときのものだ。電話は続く。 「お父さんはね、掃海艇に乗っていて海の上で敵機の来襲を受けたんだ。船はもちろん沈んだよ。2時間も泳いだかな。いや、島に泳ぎ着いたんじゃない。近くの島から、掃海艇がやられているのを味方が見ていて船を出して助けに来てくれたんだよ。その島に引き上げらもらってそこで終戦。翌年の春までそこで捕虜になってたんだ」まだ話は続く。 「呉で見た大和はね、本当に大きかったよ。砲塔も本当に大きくてね、それを前後左右にぐるぐる動かしていたよ。すごいなぁと思ったよ」 「ああ、その本ね。読んだよ。漢字と片仮名で書かれたきれいな文章の本だろ?作者はね・・・」作者の経歴、亡くなったときの新聞報道と話は終わらない。

 私の先の大戦に関する知識は、両親から聞いた話がベースになっている。視力が足りなくて戦闘機には乗れなかった海軍兵の父の話と、終戦の日、教員として学童疎開を引率していて、滋賀県のお寺の境内で子供たちと玉音放送を聞いた母の話は、私と兄に繰り返し繰り返し語られた。両親のアルバムにはセピア色の兵隊さんたちの写真がたくさんあった。「この人は慰問袋を送った人。この人は出征を見送りに行ったの。この人はいとこの○○さん」一枚づつ説明をしてくれた母は、片思いの彼を戦場に送った。父の見る映画はいつも戦争のもの。小説もそう。巻末に「トラ・トラ・トラ」が載っていたリーダーズダイジェストも、大岡昇平の「俘虜記」も、細菌部隊のことが書かれた本も、みんな父の本箱から引っぱり出して読んだ。そしてその後、私は澤地久枝によって、あるいは他の作家によって戦争の裏側の敵も味方もないたくさんの市井の人々の悲しみを知った。

 父はいつも、少しも悲しげでなくむしろ快活とさえいえる口調で戦争を語った。本当のことを言えば私はそのことにこだわっていた。自分は生きて帰れたからいいけどさ、と思っていた。そのこだわりをうち砕かれたのは兄の結婚式での父のスピーチを聞いた時だった。父は静かにスピーチをはじめた。「ここにお集まりの息子のお友達を見て本当にうらやましい。私の友達はほとんどが戦争で亡くなりました・・・」。私が見る父の涙はおそらくあれが最初で最後。

 この本のあとがきに、この本が戦争肯定の文学であり、軍人精神鼓吹の小説であると批判されることについて、こんなことが書かれている。  「戦争を否定すると言うことは、現実に、どのような行為を意味するのかを教えていただきたい。単なる戦争憎悪は無力であり、むしろ当然すぎて無意味である。誰が、この作品に描かれたような世界を、愛好し得よう」  そう、父は淡々と語ることで自分の中の「戦争」を何とか意義あるものにしようとしていたのだろう。この本を読んで、この本のあとがきを読んで父の心の奥をのぞいたような気がした。

 この本を読み始めたクリスマスイブ、朝日新聞に「サンタ村へ『お願い』70万通」という題のコラムが載っていた。世界中から届くフィンランドのサンタクロース郵便局に届いた手紙が紹介されている。ボスニアの女の子からサンタ宛にプレゼントが届いた。青いガラスの破片とそれに添えられた手紙。「私の周りで一番きれいなものを贈ります。だから、平和をください」。

 伊藤さん「戦艦大和ノ最期」の紹介ありがとうございました。久々に父とゆっくり話ができました。そしてまた平和について考える時間を持つことが出来ました。

 編集部から=高杉さんは縁があって、千葉県から秋田市に移り住み、ホームページ「あきたNEWS」を通じて、秋田の良さ、秋田の暮らしなどを主婦の視点から見た秋田県のニュースとして情報発信しておられます。秋田県南日々としても読者へのお勧めのホームページです(http://www.hana.or.jp/hana/neko/heba/shizuko)。