こちら編集室「トップの入れ替え」(98・2・26)
組織とはトップの入れ替えで変わると実感した。秋田県の事である。県仙北地方部県民生活室がこのほど開いた「第3回中小企業経営安定対策会議」の取材の折り、手渡された商工労働部の「当面の経済対策」の資料を目にして嬉しくなったのだ。県という公的機関が民間企業のため、これほど手厚く救済に向けた予算を組むとは思えなかっただけに、胸が熱くなったのである。
しかもその文面の柔らかさにも県の中小企業への支援策のやる気を表していると思えた。県や市町村役場との文書のやり取りでこれまで感じてきたのは、その言い回しの不明朗さ、つまりイエスかノーかをこちらはハッキリしたいのだが、その核心の部分は遠回しにぼかし、何が何なのか、つまりいいのか悪いのかスッキリしないまま読み終え、深く考え込まなければならないことが多かったからである。
その点、今回、県商工労働部が提出した県内景気への「緊急の対策」と題した実施案には嬉しい言葉の羅列があった。いわく「借り入れ済みの県制度資金の償還期間を1年延長することにより、中小企業者の資金繰りの改善を図ります」。「中小企業者」という名前の言い回しに引っ掛かりはあるものの、(本来なら中小企業経営者のための資金繰りとでも書いたならもっといいのだが)苦しい経営に追い込まれている事業者側にとっては朗報だろう。
そして「短期・小口資金融資円滑化制度の創設」に関しては、取り扱い期間は今年9月30日までだが、「景気低迷を背景として資金調達に支障が生じている中小企業者に当面の資金を融通します。県の特別の財政措置により、低利資金を無担保(家族または役員の保証)で、できるだけ多くの方々に迅速に提供しようとするものです」とまである。
市町村商工担当、商工会議所、商工会の経営指導員らを前に説明に当たった県の担当職員は「この点を多くの中小企業経営者に知ってもらえるよう、皆さんの協力とPRをお願いしたい」と訴えた。
融資額は500万円を限度に、6カ月以内の短期運転資金として支援するものだが、担保は原則 として不要、業歴1年以上で信用保証協会の保証対象業種であればいいという温情のこもった短期融資制度である。
さらにこうだ。中小企業経営改善資金の融資限度額に関しても現行7千万円を、1億円に引き上げ、償還期限も設備投資は現行10年を15年に、運転資金は現行7年を10年に延長し、金利も引き下げたうえで、「これまでは、経営改善や合理化を要する者を融資対象としていましたが、中小企業であればどなたでも対象となるようにしました」と文書表現が極めて柔らかくなっているのである。ここまで文書がていねいになるならせめても「要する者」を「要する方」に書き直して欲しかった。まあ。そこまで注文をつける必要はないと言えばそれまでだが、「中小企業であればどなたでも」といった、これまでのお役所文書からは想像もつかなかい言葉の表現を見ただけに欲も出てくるかもしれない。
さらにこの手厚い支援策が決してお飾りでないことを裏付けるように「これに伴い、経営改善計画書を作成の上、商工会等経由で申し込む仕組みを廃止し、金融機関へ直接申し込む仕組みにしました」とまである。つまり、七面倒くさい書類を作成して、融資の「お許しを得る」制度を廃止して、この急場をなんとかしのぎたいとする経営者のため、手続きの簡素化まで図ったのである。
このためには県の保証力を高めることも必要だ。そこで県は、県信用保証協会への出捐(しゅつえん)金をこれまでの3億円から約6億3千万円に増額したという。この出捐金という聞き慣れぬ言葉だが、広辞苑によると「当事者の一方がその意思に基づいて財産上損失をして他方に利得させること」とあるが、まあ、県が融資を受けたい中小企業の経営者のために6億円の保証金を預けるから、それを基に保証協会は銀行融資の際の保証を引き受けてほしいと考えたらいい。
とにかく今度の「緊急の経済対策」として打ち出された文面にはこれまでのお役所文書から一歩 も二歩も前にでた分かりやすさがある上に、融資を受ける側の立場に立った配慮が随所に見られるということだ。
取材後、再び県地方部県民生活室を訪れ担当の職員と話した。「随分、今度の融資制度はていねいになっているし、文書も分かりやすい書き方になってますね」と水を差し向けた。相手の若い職員は嬉しそうに「そうですか。そう言ってもらえば嬉しい。私たちも寺田知事のなせる技かなと感心してます。とにかくこの不況を何とかしなければならないというトップの考えが伝わってくる思いでした」との答えがあった。
寺田典城知事は横手市長から転身して、昨年春の知事選で初当選した。市長になる前は横手市で建設会社を経営。中小企業の痛みも辛さも身をもって知っているだけに、今度の不況には何としても寺田さんらしいカラーを出して乗り越えようとしたのかもしれない。それはそれとして歓迎したい。
こうした県の98年度予算が発表されたのは18日だった。新聞はこうした経済対策には深く入り込まず、公費不正支出をめぐる職員の返還をどうするかに連日、論陣を張ってきた。それも仕方ない面もあるが、県がなそうとしている経済救済策こそ県民生活に密着した問題だけにもっと分かりやすく取り上げても良かった。ともかく今回の金融支援策にこそトップである寺田知事の意向が含まれていただろうし、それを受けて県幹部職員も知恵を出し、頭をひねり、編み出したかつてない温かみのある救援策であり、文書の書き方だと思った。