宝くじ1等1億5000万円の当選者が大曲市の売り場から出たという。駅前にある「ジョイフルシティ大曲」の店頭に売り場を構える「大曲チャンスセンター」がその幸運を呼んだ所だ。店頭には「大当たり1億5000万円
これで3回目」の張り紙が出されているから間違いはない。売り場担当の矢野美貴子さん(43)も「間違いありません」と保証する。市内の銀行でも「当選した人は○○○町の男性のようだ」とすでに情報を手にしていた。
1億5000万円。学校を一つ造るにも今は7億から10数億、大きな橋を造るとすれば70億とか100億とか取材では良く耳にする億単位の数字だが、個人が手にするとなると「1億円」はやはり大金だし、気の遠くなるような金額だ。
今朝、いつものように大曲警察署に顔を出した。「おい。大曲の売り場から宝くじの一等を手にしたやつが出たらしいぜ」と署員が言う。「えっ。本当かい」「ああ。本当の話だ」「それはすごい」。
警察官だって人間だ。もちろん自分だって。「そんな金額を宝くじで当てたらどうする」。問われて戸惑った。「どうすると言われたって、とっさには使い道が浮かんで来ないよ」「そうだろうナー。おれだってそんな金額をいきなり手にすることになったら、自分をコントロールできるかどうか自信がない」と警察官は言う。「まあ。人生が狂うな。コツコツと働いて終えるのが一番かもしれないな」。お互い1億5000万円という金額を頭に描いて、ため息をついた。
宝くじ。自分には縁のないものと思ってこれまで購入した記憶はない。どうも実態のないものに夢をかける気にならないのだ。競馬、パチンコ。こうしたギャンブルも苦手だ。若いころは暇を持て余してパチンコに通ったことはあるが、いつの間にかあの喧騒が嫌になってしまった。競馬には多少、興味はあるが、やはり大群衆の中に揉まれるのが嫌で行ったこともない。また、仮に競馬で50万円とか100万円とかを当てたとしても、自分は慌てふためくばかりだろう。いや。それどころか「夢よもう一度」と夢中になって、今度は競馬狂に陥るのが怖い。臆病なのだ。
宝くじ売り場では1等の当選者が出たということもあって、「新しい夢」を求めて買い手が次々と訪れていた。売り子さんのその忙しそうな様子にゆっくり話を聞けず、取材は簡単に済ませて帰った。そして市内の銀行に寄ってなぜ当選者が出たのが分かるのかを尋ねた。簡単な事だった。第一勧銀から送られて来る宝くじの番号の控えがあるから、当選発表の数字と照らし合わせるだけで分かるんだという。なるほど納得した。
銀行からの帰り際、自転車を踏みながら考えた。果たして自分は当選しても胸のうちに閉まっておけるか。「妻に報告しただけで後は黙って現金を下ろして来よう」。自問自答したが無理だと分かった。だって、嬉しいと顔に出し、行動に移ってしまう自分である。きっと大いに自慢してしまうだろう。いや。見栄っ張りな自分は「宝くじで家を建てたなんて言われたくない」と悩むかもしれない。やはり人生が狂ってしまいそうだ。なら、宝くじなんて最初から買わなきゃいいのだ。結論を急げば宝くじもまた、1億5000万円などというお金も我が人生には縁がない。
それにしても破たんしそうな「日本長期信用銀行」の元会長への退職金が9億7000万円というのには驚く。なぜそんな金額を倒産しそうな銀行が払わなければならないのか。どんな功績があったというのか。しかも、政府はその長銀へ「公的資金」を投じて援助したいという。これも不思議だし、分からない。大体、退職金を10億円近くも出せるという銀行に政府が援助の手を差し伸べる事態がどこかおかしい。もしかしたら政府・自民党と銀行との間には今流行りの「援助交際があったのかしら」と勘繰りたくさえなる。
いや。その前に1億5000万円の使い道を考えよう。さて、欲しいものは−。車、衣類、カメラ、新しいパソコン。それから、それから。えーとえーと。浮かばない。えーい面倒だ。なら、ここに1億5000万円を運んで来い、と啖呵(たんか)を切っても見たくなるが、ただでくれるバカはいまい。それにしてもなんと発想の狭いことよ。車はまあまあにしても衣類やカメラ、パソコンだなんて。やっぱりお金には縁がない。
自転車。今年の花火大会の取材の足にと購入した。2万8000円ぐらいだった。これさえも購入するまでしばらく考えた。買おうかどうしようかと。買って良かったと今では思っている。取材の足はほとんど車だが、自転車もたまに乗ると爽快な気分になる。自転車を踏みながら1億5000万円から自転車代の2万8000円を引いてみた。なんと1億4997万2000円が残る。毎日のざるそば代350円。いや、1億50000万円当たったら、昼食は奮発して500円にあげよう。なら一年で18万円。いくら残る。もう考えるのさえ面倒だ。
昔、好きだった飲み屋のママさんがいた。気位が高く、気っぷも良かった。「伊藤さん。経済は1流でも、人間は3流といえるお客さんが良くいますよ。お金は確かにある方がいいけど、お金でモノを言う人間は嫌い」と良く言っていた。負け惜しみではないが、お金なんて働けば何とかなるさ。宝くじの1 億5000万円がちょっとしたさざ波を呼んだ。自分には縁がないと思いながらもあれこれ使い道を考えた。浮かんで来るのは小さな品々ばかりだった。まあいいか。しょせん、そんなものだろう。
そんな金額よりもお天気さんよ。この秋田の空を何とかしてほしい。もういい加減、雨はうんざりだ。明日からは9月。からっとした秋の空が欲しい。本当にほしい。