酒井隼男さんの「コラム(8)」(98・9・29)

〈電脳社会の疎外を憂う〉

  ○…コンピュータという20世紀最大の発明品を手にいれて以来、趣味と実益をかねてインターネットとパソコン通信に励んでいる。「この世界」に身を置いていると、情報化社会は我々の想像をはるかに超えて進んでいるのを感じる。昨年暮れの某有名映画監督の自殺は、マスコミが報道する以前にパソコンネットで情報が流れていたし、最近では国民的人気を博している若者グループのアイドルKが「入籍した」という未確認情報がBBS(おしゃべり掲示板)上を賑わしていた。さらには少年法上決して公開されることのない酒鬼薔薇¥ュ年の本名と顔写真も、あるホームページに掲載されていた。その家族の住所や父親の仕事先まで明らかにされるにいたっては、もはや人権侵害の恐れさえある。

  ○…ネット上で代金の決裁をする「電子マネー」や、職場に出向かなくても仕事や会議ができる「バーチャルオフィス」、店に出かけなくても買い物ができる「バーチャルショッピング」などが、まもなく実用化されようとしている。いやもう実用化されているものもある。小中高等学校の現場では情報教育に力を入れており、学生全員にパソコンの購入を義務づけている大学も珍しくなくなっている。「国民皆電脳箱」時代がまもなくやってくる。しかし、それについて行けない者たちとの「世代間ギャップ」が、問題になっている。

  ○…いま職場では、中高年が必死になってパソコンスクールに通い、パソコンができない労働者がリストラの憂き目に合い、お年寄りが銀行自動引き出し機の前で右往左往している姿を見かける。就職の応募をインターネットで行う企業が増え、英語とパソコンが学生の「2大必修科目」になっている。これまでの世代間ギャップと決定的に違うのは、その知識がないと生活上不便をこうむり、ときには職を失うという深刻さにある。

 パソコンの世界は、専門家しか判らなかった機械語、MSーDOSという「英語の呪文」を入力しなければ動かすことができなかった時代に比べ、今はアイコンをクリックすれば何とかなるところまで進化≠オてはきたが、まだテレビのリモコンのようにどんな人でもすぐ使えるというところまでには至っていない。ましてやインターネットに接続するにいたっては初心者にとってかなりハードルが高く、誰かの助けを借りなければとてもその世界に足を踏み入れられないのが現実だ。仮に接続できたとしても、ホームページを作成して情報発信してみたい、E−MAILを出したいという人はまだいくつかハードルが飛び越えなければならない。

  ○…理想としてはテレビを扱う感覚で、買ってきて家に設置したらすぐにアクセスできるような機器がほしい。操作もテレビのリモコンのようにボタンを押すだけで済むようにし、それもTV以上にボタンを多くしてはいけない。そしてE−MAILには、キーボードに不慣れな人も使えるようにペン書きした文字が相手に流れるような機能もほしい。いや音声がそのまま文字に変換されればキーボードもいらない。コンピュータへの命令も音声で行えるようになるはずだ。音声認識の技術は今や実用のレベルに達しているからまもなく一般向け商品として登場するはずだ。日本語の音声を英語に通訳してくれる技術も研究途上にある。

 英語が苦手な人にはクリックするだけで英語から日本語へ、日本語から英語へと変化してくれる翻訳ソフトが今でもある。ただ変換精度がイマイチ良くないので、今後の改良が期待される。

 そして21世紀のある時期には、今誰もが使っている電話のようにパソコン、そしてインターネットが全家庭に入り込む。ショッピング、代金の決裁はおろか新聞、仕事、教育、選挙、住民票の交付、ひょっとすると裁判までもがネット上で行われる日がくるかも知れない。そういえば「秋田県南日々」はもうバーチャル新聞を実現していましたね。

  ○…21世紀の社会はまさに、パソコンネット上で情報やお金が流れ、物事が決められる時代になろうとしている。しかしそこにアクセス(接続)できない人間は、否応なく取り残される時代でもある。コンピュータは人間生活を快適に送るために作られたのに、新たな゛疎外゛を生み出すという逆説が現実に起こりつつある予感がしてならない。

酒井隼男=筆者のプロフィール 1958年岩手県生まれ.39歳。大学卒業後生協職員や家業の手伝いを経て、1996年から岩手の前沢町、衣川村を発行エリアとする「胆南新報」の記者。現在はフリーライター。
ご意見、感想は mailto:Akihiro.Sakai@ma6.seikyou.ne.jp まで