シルクロード紀行1
現在の日本文化の源となった文化は、その一部がはるかトルコやインドから中国を経て伝わったものといわれています。今年は日中平和友好条約締結20周年に当たりますが、締結当時、テレビでシルクロードを特集した番組が放映され、日本人の間にシルクロード熱が高まったことを覚えている方も多いでしょう。シルクロードという言葉を聞くと、日本人はなぜか言いしれないロマンを感じるのではないかと思います。かくゆう私もシルクロードに憧れたからこそ中国との接点が出来たといっても過言ではありません。
今回、調査でそのシルクロードのはるか西側、トルファンとその所在地である新彊ウイグル自治区の首府であるウルムチへ行ってきましたので、現在のシルクロードの様子をお伝えします。
ウルムチ
北京を飛び立った飛行機は、モンゴルの草原、甘粛省のゴビ砂漠や万里の長城の西端である嘉峪関の上空を飛び、4時間後にウルムチ空港へと到着しました。地図を見ていただければおわかりですが、北京から直線距離で4000キロですから、反対方向の日本をはるかに過ぎてしまうことになります。ウルムチは中国有数の少数民族地区である新彊ウイグル自治区の首府であり、人口120万人という中国西北地区第3の都市です。民族はウイグル族が48%を占め、残りが漢、蒙古、回、ハザク、タジク族などで構成されています。飛行機を降りると、既に空
は晩秋の色に変わり、北京とはまったく違ったすがすがしい空気が体を伝っていきました。
空港から市街までは約10キロですが、道路も整備され、町並みは大変きれいな印象を受けました。タクシーの運転手は女性でしたが、彼女も少数民族のひとつである回族です。回族ははるか昔にトルコ付近から中国に渡来した民族ですが、今ではほとんど漢族と同化し、独自の文字や言葉を持たなくなってしまいました。彼女は運転しながらひたすら「ウルムチは安定している。」ということを繰り返します。そうなのです。実はこの新彊ウイグル自治区は、中国における民族独立問題という火種を抱える地域なのです。
新聞報道でも国際面に「ウイグルで独立を求め暴動」などという記事が出ますが、歴史的経緯からここは新中国によって解放されたという場所です。しかしながらウイグル族はそのルーツが現在のトルコ付近であり、ウイグル語はトルコ語と同系、宗教もイスラム教とくれば独特の民族感情が表れて来るわけです。そのため、中国政府はウイグルや同じくチベットについても「中国の不可分の領土である」という立場のもと、手厚い財政措置、社会資本の整備など優遇政策を実施しています。そういうわけで、高速道路をはじめ、町には北京と比較しても遜色ない高層ビルが林立するなど発展した都市になっているわけです。ただ北京と異なる点は明らかに全然違う民族が路上の大部分を占めているというか、ここはイスタンブールではないかと思うほど、トルコ系の顔をしたウイグル人が大手を振って歩いていることなのです。
さて、ウルムチはシルクロードのオアシスとしての歴史はありませんから、それほど市内に遺跡はありません。ここはやはりウイグル自治区博物館が見物です。なぜならばシルクロードの遺跡で発掘された数々の文物やミイラが展示されているからです。楼蘭という地名を聞いたことはあるでしょうか?さまよえる湖ロプノールの河畔に栄えたオアシスですが、名前のとおりロプノールが移動し姿を消してしまったため、町そのものが砂漠に埋もれてしまったのです。
ここから発掘された多くのミイラは現在、この博物館に展示されています。中学生の頃、テレビでみた「楼蘭の美女」を現実に目の前にして感慨深いものがありました。姿はたしかにミイラ化していますが、まさに眠れる美女です。何千年もの間、砂漠の中でひたすら眠りつづけてきた彼女やその他のミイラを前にすれば、我々が生きている数十年は砂漠の砂のごとしです。静かな博物館の中でこれからも眠りつづけるであろう彼らを背にして博物館を出ました。
それからウルムチで足を運んでいただきたいもう一つの場所は、民族市場と呼ばれるバザールです。ウイグル人がそれぞれ市場の中でブース毎に、民族用品、例えばウイグル族の刀、衣装等を売っています。これらは多分に観光要素が強いのですが、反面、市場というからには市民に密着した食べ物、絨毯、野菜や干し葡萄を売っています。食べ物について言えばここは羊がメインですから、その肉はもとよりインドではナンと呼ばれるパンも多数売っています。私はここでガーリック風味のナンを食べ歩きしました。また絨毯は非常に細かい模様が編まれた、製作時間にして2年以上は必要なものが北京よりも安い値段で(これも交渉次第ではさらに安くなる)売られています。干し葡萄はこの地区の特産品ですから言うまでもありません。日本の干し葡萄とは一味違ったというか一層甘いものが1キロ300円ほどで売られています。
活気のあふれるバザールを後にすれば、夜7時半頃から街の歩道にはあふれんばかりの屋台が並びます。ここは日本から5000キロ離れていることもあり、夏は日没が10時以降というところです。仕事の帰りは屋台とでもいうのしょうか、普通のレストランはあまり見当たりません。ここでは羊の肉を串に刺して様々な香辛料をふりかけ炭火で焼く「羊肉串(シシカバブー)」がお勧めです。1本15円から30円で10本も食べ
ればお腹はいっぱいになります。ジューシーな肉汁が口に広がり、羊がだめな人も結構いけると思います。
独立問題という不安定な要素を抱えながらも、庶民は独特の文化を維持しながら、辺境といわれる地で一応共存している姿に接し、たとえ将来何か起ころうとも、あのミイラ達の眠りだけは妨げて欲しくないと思いながら、いよいよシルクロードの中国側最終地点一つ手前のオアシスであるトルファンへと向かいました。