〈英語力は必要だけど・・・〉
日本インターネット協会の高橋徹氏の講演録は実に示唆に富むものだった。(本紙掲載)現在は大化の改新、応仁の乱に次ぐ「第3のパラダイムシフト」の時代を迎えているという。筆者は3番目とは思わないが、「パラダイムシフトを迎えている」「コンピュータを中心にした情報化社会が進む」という認識には全面的に賛同する。そして氏が指摘するように「第1次産業、第2次産業の効率化」「グローバル化の進展」「ネットワーク型の組織」「自律的組織の連合体」が飛躍的に進むだろうという予想は、現在でも進行中である。特にグローバル化が進行したときに日本人のハードルになるのが、言葉、特に英語のカベである。しかしインターネットの共通言語が「事実上」英語になっていることを思えば、いつまでも「カベ」にしておくわけにもいかないだろう。
高橋氏が、40を過ぎてから慣れない英語にチャレンジしていったくだりを話していたが、並大抵の苦労でなかったことは想像に難くない。英語がうまくなる秘策とは・・・10人中9人以上の日本人は少なくとも中学・高校と6年間は英語を習っているはずであるが、話せる人はまれである。それにはいくつか理由があるだろう。まず第1に日常必要に迫られて英語を使う場面がほとんどない。国境を接するヨーロッパでは、必要があるから少なくない人々が2ヵ国語は話せるようになっているが、島国日本はそんな必要なく暮らすことができる。第2に英語は「受験用」と思っている学生が多い。だから文法や読解は強いが話せない。第3にそういう前提の英語教育、試験制度になっているから、コミュニケーションするという要素が少ない。ただ最近は「英語指導助手」としてネイティブスピーカーの若者が地方にも来るようになったという変化はみられるが・・・。
第4に、「文法的に正しくなければならない」という脅迫観念にとらわれ、口をついて言葉が出てこない。そこで「駅前留学」とかいう唱い文
句の英会話学校に通うことになる。6年間の英語教育はムダなのか?。最も確実な英語の習得方法は、周りに全く日本人がいない英語ネイティブの地域に1年間住むことである、と筆者は思っている。そうすれば先に挙げた「障壁」の第1から第3までは克服できるであろう。ただ日本人特有の性格から生じる「正確文法症候群」はどうか。外国に暮らすと、ネイティブ以外の英語学習者が、結構ブロークンな英語を話していることに気付くはずである。彼らは「3人称単数現在」も「現在完了形」も「過去分詞」もめちゃくちゃに喋っているが、相手はきちんと理解している。
つまり話言葉は文法的な正確さを必ずしも要求しない。ところどころ不正確だとしても、結構伝わるものなのだとわかれば、「正確文法」障壁も克服できるだろう。考えてみれば私たちも、外国人が話すつたない日本語をちゃんと理解できるではないか。そういった「開き直り」「悟り」は経験からしか出てこないように思える。
もう10年以上も前の話、私はイギリスの南部ブライトンという町にある語学学校に「体験的」に入学した事がある。「入学」の際に、レベル分けのペーパーテストがあるのだが、なまじ文法ができる日本人は比較的高いクラスに入れられて、最初はものすごく苦労する事となる。他の国から来た学生がペラペラ喋っているのを横目でみながら、じっと黙りこくる日本人学生。先生が何か話しなさいと促しても、日本人的「意味無しスマイル」でごましてしまう。だがある時フッと気付く、「連中の英語って結構いい加減だな。でもちゃんと理解されているじゃないか。そうか、これでいいんだ」と。そして次の週から日本式ブロークンイングリッシュが炸裂する。「通じる」と分かると、自分でも驚くほどコミュニケーション力が向上するのを実感した。
要は「開き直」れるかどうかであろう。ヨーロッパ人は体験的にブロークンでも通用することを知っている。だから日常やっている事を学校で話しているに過ぎない。そして日本人にはこのようにある「悟り」を必要とする。島国に住むゆえの“ハンディ”なのかもしれない。
さて先に「6年間の英語教育はムダなのか?」と問題提起をしたが、筆者は必ずしもそう思わない。ひとたび話すコツを覚えた日本人は、文法的な基礎ができているだけに、比較的正確な英語を話すという評価があるのだ。ビギナーの足を引っ張っていた文法的素養が、中級以上の学習者にとっては大いに役にたつという、なんとも皮肉な話だ。英語は道具である。ゆえに使わなければサビ付くし、どこにしまったか忘れてしまう。一度は学習したものを、再度引っ張り出して楽しんでみたらいかがだろうか。
酒井隼男=筆者のプロフィール 1958年岩手県生まれ.39歳。大学卒業後生協職員や家業の手伝いを経て、1996年から岩手の前沢町、衣川村を発行エリアとする「胆南新報」の記者。現在はフリーライター。
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