〈「お自動さん」「ムジンくん」は破産者生産機〉
10月某日、仙台市内にあるマンションの一室。中年夫婦が神妙な顔をして席に座っている。向かい合わせにいる女性相談員がメモを取りながら2人の話を聞いていた。借金で、にっちもさっちも行かなくなったという。聞けば競馬のノミ行為に手を出し大損、その胴元がヤクザで180万円の支払を強要されて「車を買った」ことにして借金して払ったという。そのほかにサラ金業者から45万円、自己の車のローン残高45万円など合計280万円ほどにふくれあがってしまった。女性相談員は、刑事問題が絡んでいるうえ暴力団の影があるため自分の手には負えないと判断、「この活動」を支援している弁護士事務所を教え、さっそくこの夫婦を向かわせた。
さらに別の日、20代の茶髪の夫婦が小さな女の子を連れてここを訪れた。せっぱ詰まって、東京の通称「整理屋」と呼ばれる多重債務者を食い物にする貸金斡旋業者を訪れたが、「もう破産しかない」と言われ、びっくりして来たという。この日の相談員は60代の男性。二人から提出された債務一覧表を見ながら計算を始めた。なんと、合計700万円!相談員はこれを返すためには利息だけでも年間190万円払わなければならないこと、元金を毎月1万円ずつかえしたとしても60年もかかること、この子の将来を考えたとき今とるべき道は破産しかありえないと、冷静に説明した。夫婦はちょっとびっくりした様子だったが、腹を決めたのか弁護士への依頼の方法や手続き料のことなどを質問してこの日は引き上げた。何も知らないで遊んでいた女の子に待ち受ける運命は、吉なのか凶なのか。
「宮城青葉の会」というのがこのボランティア団体の正式名称である。サラ金やクレジットの多重債務に悩んでいる人々の相談に無料で乗っている、東北唯一の窓口である。メンバーには市民活動家、弁護士、行政書司などが名を連ね、会員からのカンパと手弁当で毎週月、水、金に相談会を開いている。会の副代表を務める豊岡あさ子さんは「私たちは多重債務に苦しんでいる人たちを、『被害者』と呼んでいます。なぜ被害者なのか。つまり貸す側が借りる側の経済状況や返済能力を無視して貸し付けてくるからです。20万で済むところを50万まで借りられますといってギリギリ貸し付ける。無職の主婦にまで貸す。そして一度足を踏み入れると底なし沼のようになってしまう今の高金利。法律では年利40%が上限とされていますから、仮に50万借りたら、利息だけで年間20万になってしまいます。そして返すためにまた借金をするという悪循環が始まるともう止まりません。」
若夫婦の最初の借金は、指輪を買った12、3万だった。その後車の借金も加わり、返すために借りるという繰り返しで雪だるま式に増え、結局700万という破滅的な状態にいたった典型的な例である。さらに悪いことに夫の母親が70万ほどの連帯保証人になっており、破産手続きになった場合ここまで被害が及ぶ。一人の破産がまた別な破産を呼ぶ。
「整理屋」と呼ばれる業者が存在する。「借金を一本化します」という唱い文句で他業者を紹介して手数料をせしめ、多重債務者をさらに食い物にしようとする悪徳商売である。しかもこういった業者に名義貸しをして手数料をさらに巻き上げる悪徳弁護士も相当数いるという。世に悪の種は尽きない。
豊岡さんはさらに「街を歩けばどこでも無人でお金を借りられるような仕組みになっていることが、このような事態を招いています。町中に『破産製造機』が置いてあるようなものです」と語る。不況のどん底の日本で数少ない好況を謳歌している業界が、消費者金融、いわゆるサラ金業者である。だがその利益は、不況に苦しむ庶民のなけなしの生活費を搾り取るところから生まれている。かくしてサラ金経営者は毎年長者番付の上位にランクされることになる。かたや年間破産申し立て件数は5万6千件を突破(平成8年)、9年度は不況のあおりで過去最高の更新は確実な情勢になっている。そして数字に現れない破産予備軍は100万人とも150万人とも言われている。
宇宙人が出てきて「地球に寄ってかない」とムジン君で借金したり、お地蔵さんが送別会を開くため「お自動さん」に入ったり、といったCMがひっきりなしに流されている。つまり生活のいたるところで「借金の誘惑」が待ちかまえていることになる。
若夫婦の相談に乗っていた60代の男性は、自身も10年前破産を経験した。彼も想像を絶するような取立ぶりに一度は死を考えたが、この会の存在を知って九死に一生を得た。その後生活を一変し、この10年間で800万円をため、今は自営業を営んで家も建てた。自身の失敗をさせないよう、相談員を引き受けたという。痛切な経験を踏まえて諭すように話すこの男性に、若夫婦はすっかり信頼を寄せた様子だっ
た。「私も破産したあと実直な生活を送ってきましたが、ある時一度だけ金の工面がつかなかくてカードで引き出そうとしたことがありました。しかしこの相談所で話したことと今やろうとしていることの矛盾に気付き、その場でカードにハサミを入れ借金は絶対しないと心に誓ったのです」と自戒を込めて、筆者に応えてくれた。
世の中、少し長く生活している人ならば、金をめぐって1度や2度はトラブルを経験しているはずである。借りたものを返すのは幼稚園児でも知っている当たり前のことである。だが、サラ金の高金利はあまりに理不尽であるがゆえに返せなくなる「被害」が続出し、破産件数は減る見通しすらない。一方的に借りた者だけを批判することは正しいのだろうか。
酒井隼男=筆者のプロフィール 1958年岩手県生まれ.39歳。大学卒業後生協職員や家業の手伝いを経て、1996年から岩手の前沢町、衣川村を発行エリアとする「胆南新報」の記者。現在はフリーライター。
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