酒井隼男さんの「コラム(15)商品券は消貧券?」(98・11・16)
 

商品券は消貧券?
 大手スーパーがあいつで「消費税5%還元セール」を行い、消費者に大好評を博している。今度はコンビニまで5%引きセールを打った。筆者の住む仙台ではこの7月からいち早く、みやぎ生協が毎月第1土曜日を「くらし応援コープの日」として消費税5%分の値引きセールを実施している。そのセール日にあたる今月7日、我が女房殿と「現場視察」がてら買い物に出かけた。夕方頃だったが、まず車を駐車場に入れるまでが一苦労だった。ふだんは余裕で入れられる駐車場がビッチリ埋まっている。ようやく空きスペースを見つけて車を滑り込ませ、店内に入ると久々に見る生協ぶり、いや盛況ぶり。こんなに買い物にくる人がいたんだ、と感動すると共に、5%引きの威力を思い知らされる。そこでふっと思う。「日本の経済って、こんな消費行動があって成り立っていたんだな」と。消費不況とはいえ、衣食に関しては、1億2500万人の欲求を完全に満たすくらいのモノは依然として売れているのだ。しかるにこの大不況は「みんなが物を買わなくなったから」という。つまり「生活に密着度が薄い商品が以前のように売れなくなった」ということなのだろう。

 さて我が女房殿であるが、なぜか買い物カートにふだん買わないようなものまで入れていることに気づく。この時とばかりにケーキを焼く材料だの、めったに使わない香辛料だの、1年に1回食べるかどうかの珍しい果物などを次々と買い求めていく。これか、これが日本経済を膨らませていた要因は。米や味噌、砂糖といった毎日使う商品だけでは日本経済は膨らんでいかない。子どもの誕生日には○○屋のおいしいケー
キを注文しよう、結婚記念日には妻にアクセサリーの一つでも買っていってやろう、たまには一家揃って高級前沢牛でも食ってみるか、今年のボーナスでTVの買い替えだ、そんな消費マインドがあったのだ。しかし、今はそれが極端にしぼんでいる。

 そしてカゴいっぱいになったカートを押してレジに並ぶが、これまた長蛇の列。ようやく会計が終了しレジ係から「5%を引きまして○○円です」といわれると、ちょっと得したようななんともうれしいという風情の小市民の姿があった。

 みやぎ生協の発表によると、客数は前年対比40%前後の増加、供給高(生協では売上高をこう呼ぶ)ではなんと60〜70%の増加だという。セールの前後が多少落ち込むが、全体としてはやはり供給増になっているとのこと。

 そして家内とは「毎日こうだといいね」と話しながら車に乗り込むのであった。そうだ、毎日が5%引きだったら、すなわち消費税が0だったらかつてのような消費行動に立ち返る可能性は十分にある。いや仮に2年前のように3%だとしても今よりは売上増が見込めるはずだ。景気もうまくいけば回復するかもしれない。ところが今自民党政府が考えていることはかなりピントがずれている。

 先の参議院選で、公明は商品券構想をぶち上げた。その言い分を取り入れて子どもとお年寄りに2万円ずつ配る計画で合意したという。確かに発想はユニークだが、実現可能性は薄いと思われていた。なぜなら数々の問題があるからだ。誰を対象にするか、誰がどうやって配るか、偽造防止はどうするのか、有効期限は、印刷コストは、財源は、2重配布防止策は、期限まで使えなかったら…そんなゴマンとあるようなハードルをクリアーしなければならない。それでも突っ走る理由は一つ。自民党の公明取り込み策である。すなわち商品券構想(「ふるさとクーポン」と呼ばれている)は、公明からの協力を得るための「エサ」にしか過ぎない。総額7000億円程度で協力が得られるならば安いものだ。その財源だって赤字国債を発行すればいいから、自分のフトコロは痛まない。

 ではこれほどまでにこだわる商品券の効果はいかようなものか。日本商工会議所や百貨店協会の幹部は、揃って疑問を呈する発言をしている。すなわち「消費の冷え込みは将来に対する不安が根底にあり、これを払拭するには程遠い」と。モノを売る現場からこんな発言が出るようでは、早くもお先が見えたというものであろう。

 かたや党内からは「消費税は下げない」と早くも釘を刺す動きが目立っている。表向きの理由は「税収が減るから」「税政策の一貫性」などともっともらしいことをのたまうが、5%に引き上げて景気を悪化させた政策ミスを認めたくないというのが本音であろう。昨年4月の引き上げ以来消費が冷え込んでしまったのは、もはや誰の目にも明らかなのにである。メンツ維持のために景気を更に悪化させる原因を作り出している。いや景気を回復させる有効な手段をとるまいと抵抗している。これを党利党略といわずに何と呼ぼう。

 もはや対策ははっきりとしている。消費税を下げることは、商品券を発行するよりはるかにコストがかからず、効果的で即効性がある。手間だってレジの設定を直すだけの簡単なものだ。自由党と共産党はすでに参院選から「3%に戻せ」と主張しているし、最近になって自民党内でもあの中曽根「大勲位」元首相でさえ、消費税の期限付き引き下げを発言しているほどだ。

 自民党はあの参院選大惨敗で示された世論を、またも無視しようとしている。

酒井隼男=筆者のプロフィール 1958年岩手県生まれ.39歳。大学卒業後生協職員や家業の手伝いを経て、1996年から岩手の前沢町、衣川村を発行エリアとする「胆南新>報」の記者。現在はフリーライター。
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