(本紙から=この原稿は先に酒井隼男さんのコラム「商品券は消貧券」と題して、消費税の引き下げを訴えたのに対して、県庁の木村さんから読者の広場を通じて「消費税には基本的に手を付けるべきでない」とのご意見があったのを契機に、今回の不況と消費税も含めた税のあり方を読者と共に考える機会にしたいと掲載しました。酒井さん、また木村さんに貴重な寄稿、心からお礼を述べます)
2つ目は、バブルの後遺症として企業や金融機関のバランス調整が遅れたこと、これが政府が予想した以上に大きかった。このため、金融機関では貸出態度の著しい慎重化(いわゆる貸し渋り)を招き、中小企業の設備投資が大きく抑制されたこと、さらには、山一や拓銀など大
型金融機関が破綻することによって、消費者が自己防衛に走ったこと、このため家計の消費性向が大きく下がってしまった。つまり、あんな大企業が倒産するのだから、いつ自分の会社が倒産してもおかしくないという雇用者の不安心理が広まって、消費が抑制基調に働き、貯蓄が増えていったということでしょう。消費と投資の国内需要の2本柱が冷え込んでしまったのだからひとたまりもない。
3つ目が、アジア経済の混乱で、97年度後半にかけて、アジア向けの輸出が大幅に減少した。内需ばかりか外需までも落ち込んでしまった・・・というわけです。これが、比較的好調だった輸出産業の製造業にも影響を与えるようになってしまいました。
こうした流れの中で見逃してならないのが、政府の財政構造改革の動きです。バブル崩壊後相次ぐ財政出動で国債残高が500兆円にも達する勢いで大幅に増加していることへの危機感が政府にはあった。500兆円といえば、日本のGDPにほぼ匹敵する額です。国民1人当たりにすると約400万円の借金を抱えていることになります。今後、旧国鉄の債務もかぶってくることを考えれば、このまま放ってはおけないと思うのは無理のないことです。さらに、これから高齢社会に拍車がかかるのは確かですし、一部破綻がささやかれる年金財政や、高齢者医療の問題を考えると、国民負担の増加をいつかは試みなければならなかった。これが、97年4月の公的負担増や、97年11月の財政構造改革法の成立につながったわけです。公共投資は97年度を通して、大幅に減少しました。
今回の不況は政策不況だとよく言われます。そうした一面があることは確かですが、一概に政府を責めてばかりはいられないと思います。景気の流れをみると、日本経済は94年2月を底としてゆるやかながらも回復基調にありました。特に、96年半ばから97年3月にかけては絶好
調ともいえるほど景気は良くなっていたのですが、実はこの大部分が消費税引き上げ前の駆け込み需要であったわけです。そこへ、例の公的負担の増加が起こり、消費が冷え込んだ。でも、これは駆け込み需要に対する反動で数ヶ月で回復すると見られていました。97年の経済白書でも日本経済は民間需要中心の自律的回復傾向へ移行したとの分析を示しています。今から思うと、経済の動きを見誤っていたわけですが、当時(97年7月〜9月期)は、年率3.2%の成長まで回復していましたし、あながち間違った見方でもなかったのではないでしょうか。
私は、今回の不況を長引かせている最大の原因は、大型の金融破綻の影響だと思います。もし、これがなければ、これほどまでひどい不況にはならなかった。今、長銀を救おうと一生懸命金融安定化に向けた政策を実施していますが、これを当時、山一や拓銀のときやっていれば、きっと、いまごろは景気は回復に向かっていたのではと思います。ところが、当時政府は、財政構造改革法の審議をやっていて、山一が破綻したまさにその直後に、この法案を成立させています。
経済的センスのなさに唖然としてしまうのですが、これほどまでに影響が大きくなるとは、誰も考えられなかったのでしょう。家計の消費性向はこれを機に下がりはじめ、半年で3.5%ポイントも低下したのです。
今回の不況は酒井さんご指摘の通り、マインド不況です。マインド不況を回復させるのは、マインドを形成しているもろもろの原因を取り除かなければなりません。それは何か。私はそれが消費税だけではないと思っています。もっと、根本的な、雇用に対する不安だとか、将来の年金や医療費の不安、さらには国が抱えている莫大な借金、これがいつ負担増という形で国民にかえってくるのか。こうした国民負担の将来見通しを明確に国民に示し、漠たる不安を取り除かない限りは、小手先で消費税の税率をいじっても大きな効果は見込めないのではないでしょうか。
また,私は、これまで幾度となく行われている所得税や住民税の戻し減税方式にも反対です。一時的なバラマキ政策でどれほどの効果があるのでしょうか。特に、今回のように家計の消費マインドが冷え込んでいるときは、貯蓄に回されるだけで、効果はほとんど見込めないと思います。
今回、消費税還元セールということで、大手スーパーなどが実施して売上げを大幅に伸ばすなど好評を博しているようですが、これは期間を限って一時的に実施しているからで、これが長期にわたれば、やはり消費マインドの回復が決め手となるでしょう。
もちろん,消費税引き下げが、景気回復にまったく効果がないとは考えていません。ただし、それだけでは不十分だと思うし、前回の消費税引き上げは、時代の要請にかなった出来事として受け止めていますので、今,消費税率を下げて将来に禍根を残したくないというのが本音です。ただし,一時的に引き下げても,また後でもとに戻すのを始めから約束した形での引き下げであれば、現在の未曾有の不況に対する景気対策としては有効な方法かなとは考えています。
私自身、税に長く携わっていた経験もあって、税をあまり軽々しく扱ってほしくないという特別な思い入れもあることを考慮に入れて聞いていただければありがたく思います。もちろん,私の意見が万人に通じる議論ではないことは十分承知しております。
長々と拙文を書き込んでしまいました。ご批評、ご批判お待ちしております。