こちら編集室「秋田もっきり会」(12月21日)

 不思議なものだ。取材を通じておおよそのことは知っている角館町も新幹線「こまち」で乗り降りると旅人のような哀愁を感じさせる。夜のせいもあったかもしれない。見知らぬ町に降り立ったような心もとなさを抱かせる。電子メールを通じてもらった一通の手紙を手にとにかく歩いた。夜の闇を−。「土曜日のもっきり会の件ですが、会場は源八と決まりました。駅から歩いても10分たらずの道のりです」。角館町役場職員の冨木弘一さんからの案内だった。秋田もっきり会事業第4条=おいしい、又は珍しい酒が入ったら飲み会を開催する。会員資格第5条=酒が好きで、当日会費を納められるもの。飲んでも乱れず、他人に迷惑をかけない自信のある者。

  冷え込みが厳しい。肩をしぼませながら源八を目指した。木の肌がまだ新しい、オープン間もないこぎれいな小料理屋だった。中に入ると奥の座敷で紅一点を含む8人の男女がプラスチック製のぐい飲みに入った5種類の酒を手に、黙々と飲んでいた。「オッ。いらっしゃい」。声を掛けてくれたのは浅利重富美さんだった。西木村の「秋田直送地酒や浅利酒店」のホームページを運営する久美子さんのご主人である。「まず、こちらへ」。浅利さんは席を立ってカウンターに案内した。「あの場でのビールは御法度なんです」と浅利さんはこっそりと言いながら、ママさんにビールを注文した。

  秋田もっきり会の案内を受けた時、「飲み会では、まずビールからでないと」と言うこちらのわがままに浅利さんは「ンだしべな。喉を潤さないと酒も通らないしべ」。あっさりと受け入れてくれた。黙々と酒を飲んでいるグループをしりめに二人でビールを乾杯した。飲みながら「秋田もっきり会」の話を聞いた。「とにかく酒が好きで、珍しいおいしい酒が手に入ったら飲もうと単なる酒好きの兵(つわもの)たちの集まりです」と浅利さん。会が結成されたのは昨年12月で、月一回の日程で開くことにしているが気分任せということもあって、集まりはこの日で10回目とか。  「5種類の酒をとにかく飲みながら、べろんべろんに酔ってから最後にその酒の銘柄を当てるという利き酒がこの会の特色と言えば特色でしょう。銘柄を当てた人は酒のチャンピオン。メリットはその日の会費がタダと言うことです」。目の前のビールはあっさりと空になった。「サッ。行くしべ。戦場さ」。「戦場ですか?」。「ンだし。戦場です」。浅利さんはおもむろに立ち上がって座敷へ向かった。

  「それでは1分30秒で今日のみなさんを簡単に紹介します。エーと向かって右端は○○さん。カッコ、石屋さんです。その隣は○○さん。カッコ、樺細工職人です。そして今夜の紅一点、○○子さん。40年間、生きてきた私を振ったたった一人の女性です」。浅利さんのユニークな司会と紹介が続く。さまざまな職業の人たちが目の前の酒を味わい、酒を楽しんでいる。隣には本紙「読者の広場」でお馴染みとなった角館町役場職員の冨木弘一さん、その隣には「みやもどのB級ホームページ」を主宰する樺細工職人の宮本貴久さん。「伊藤さん。飲んでるか」。宮本さんは一升瓶を手にしきりと酒を注ぎ込む。

  テーブルの上に並べられた酒は福乃友(神岡町)、高清水(秋田市)、爛漫(湯沢市)、出羽鶴(南外村)、秀よし(中仙町)の5種類である。いずれも各メーカーが醸造に最も力を入れ、店の顔として市場に出した「初しぼり」の原酒である。「そりゃあ、酔いますよ。何しろ原酒なんですから」。名刺を手にあいさつに来られた福乃友酒造営業の戸堀耕喜さんは顔をほころばす。「伊藤さん。飲め!」。隣の浅利さんの声も高まる。5本の一升瓶が豪快にテーブルの上を行き交う。手から手へと。飲むほどに次第に「背骨の骨」がとろけていくようだ。自分で自分の体を支えきれないような頼りなさに陥る。

  とにかく何かを食べなければ。そう思っているうちに隣の冨木さんが親切にもグズグズと煮え立っている鍋から肉や豆腐、野菜などを器に盛り込んでくれた。「伊藤さん。県南日々、あれはいいですよ。朝、職場に出勤して最初に目を通すのがケンニチです。そして仙南東小の子どもたちが欽ちゃんの仮装コンテストに登場といったいい話題があると直ぐにコピーを取って職場の女の子に渡します。日々のおかげで話題は尽きません。先日の武家屋敷の冬景色、あれも良かった。皆さん、伊藤さんの新聞は本当に世界の人たちが目を通してくれてるんですよ」。冨木さんのおほめの言葉が夢のように耳をくすぐる。そして浅利さん。「いや。日々に紹介されるたびに家のホームページもアクセス数が伸びて、酒の売り上げにつながるんです。本当です」。ありがとう。ありがとう。心の中で感謝しながら酒を口に運ぶ。「伊藤さん、飲んでるか」。宮本さんのはにかんだような笑顔がこぼれ、また目の前に一升瓶が飛び込んでくる。背骨の骨がまた一本、とろけてしまう。

  浅利さんはいう。「伊藤さん。いい考えがあるんだ。西木村の紙風船上げ。あれに長谷川さんや静子さんを呼ぼうよ。それだけじゃなく日々を通じて全国の読者に呼びかけて、紙風船上げツアーをやってみようよ。多分、すごいことになると思うよ。おれが『読者の広場』を通じて呼びかけるから」。「アッ。それいいねー。長谷川さんなら来るかもしれないよ。それに宿泊先と交通の足が確保されていたら、これまで知らない読者だって来てくれるかもしれないね」。「ウン。そうだ。伊藤さん、やるべ!」。来年2月10日。西木村の紙風船上げ。夢はまた広がった。