【ルポルタージュ】

・変わりゆく弁護士像ー法曹は庶民に近づくか(連載第4回)=3月26日=

フリーランスライター
酒井隼男
 
 4、証言台の青年
 ここで場面を十河の担当した刑事法廷に移そう。読者の皆さんはTVの裁判ドラマでもうご存知かも知れないが、法廷の内部を少々説明してみたい。筆者のいる傍聴席の正面に3人の裁判官が法服をまとって一段と高い段に座る。中央が裁判長、中堅クラスの陪席裁判官が右側に、若手陪席裁判官は左側に位置する。向かって左手机に若手女性とベテラン男性2人の検事が控える。右手が被告人席で、十河ともう一人の若手弁護士が検察と対峙している。その両者の中央に証言台があって、被告人である青年Aが座っている。そして私のちょうど目の前で被告人を連行してきた刑務官が2人、ベンチに座ってAからひとときも目を離さず監視を続ける。裁判官の右斜め下に書記官が座って記録を取り、検察側上手には廷吏が陣取って号令をかける。この日は司法修習生が二人、弁護側上手に置かれた机に座って公判の成り行きを見つめていた。

 十河は主任弁護人として、事前の打ち合わせ通り情状酌量を訴えるような質問を行い、検察は自ら提出した調書の信憑性を上げるべく、曖昧な点を巧みについてくる。時折裁判長が、回答が曖昧だったり納得できなかったりすると、直ちに補足の説明を求めてくる。TVドラマのように目の覚めるような新証拠の開示や、傍聴席を唸らせるような派手なアクションが展開されるわけではない。淡々と質問が続けられ、青年はときに詰まりながら、またある時は聞こえないほど小さい声で当時の行動や心境を証言していく。「誘導です」「それは伝聞に過ぎません」と異議を挟んでくる検察の「けん制」が、唯一ドラマで見たシーンを思い出させる。

 裁判は容赦無く、Aの過去とプライバシーを暴いていく。彼は犯行当時別の傷害事件で保護観察中であったが、たびたび観察中の義務を怠ってきたことを暴露される。保護司との定期的な面接が途絶えがちだった上、禁止されている夜遊びもたびたびのことだったという。さらに事件当時同棲している女性がいたこと、以前に暴力団とつきあいがあったこと、これまで関係を持った女性が20人はいたことといった、あまり知られたくないプライバシーにいたるまで、Aの人生・人格全てが法廷でさらけ出される。

 きれいに整えられた短めの髪に眼鏡をかけ、黒っぽい服を着て、少しうなだれながら証言台で座っている青年に、さらに厳しい質問が飛ぶ。「君はいつ強引にB子さんとセックスしようと思ったのですか」「被告人は相手が合意できないとしたら強引にセックスしようと思って誘い出したんですね」「当時同棲していた女性がいたにも関わらず、どうして別な女性とセックスしようと思ったのですか」と、法廷という「厳粛な場所」におよそ不似合いな「セックス」という言葉が、機関銃のように飛び出してきたのには少々びっくりさせられる。

筆者のプロフィール=1958年岩手県生まれ、40歳。1981年大学卒業後、大学生協職員。1995年家業を手伝うため岩手に戻る。家業のかたわら、1996年から岩手の前沢町、衣川村を発行エリアとする「胆南新報」の記者。その後フリーランスライターを経て現在は業界紙の記者。
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