こちら編集室「選挙戦」(4月15日)

  県議選は終わったものの、その後も毎日のように選挙取材が続いている。自分が仕事のエリアとしている仙北郡では協和町、中仙町、そして太田町の3町で町長選が行われる。そして大曲市では市議選。4年に一度巡ってくる統一地方選だからやむを得ないが、選挙戦の記事ほど気疲れするものはない。名前に間違いはないか。年齢は大丈夫か。顔写真は。届出順は。文字一つに間違いあっても選挙を戦う当事者には多大な迷惑を与えることになる。それだけに油断はならない。そしてまた、その記事ほど読まれるものはない。従って当然のように取材にも力が入るのだが、読者もまた目を皿のようにして記事を読む。読んではどちらかに偏っていないかと血眼になって記事の内容をチェックする。

  県議選では終盤の情勢報道に対して、読者の一人から「樽川をダークホース」と扱っているが、「ダークホースとは良くも悪くもとられる。読者に誤解を与えないでもらいたい」との指摘があった。ダークホースとは「予想外の力量を持つ競争相手」として新聞では良く使う表現だが、選挙戦に血眼になっているご本人や親類、縁者はそんな言葉にも神経をとがめ、目くじらを立てたくなるのだろう。幸いにしてこちらからの返事のメールで相手は気持ちよく納得してくれたが・・。

  一方ではその記事を読んだ大曲市の読者からは「この記事からは、樽川さん当選の可能性が高いと読み取れる」と千畑町の樽川隆事務所に駆けつけ、励ますことができたとの電話を後でいただいた。そして樽川さんが何とか滑り込んだが・・。

  とにかく選挙戦の記事は5人が立候補したら、その5人分とも記事の行数さえ一致させなければならない。「文字数ではあっちの候補が多かった」とさえ言われかねないからだ。さらには偏り過ぎているとも。随分前だったが、衆院選の時である。大曲市から2人が立候補した。どちらも情勢は厳しい。しかも、記者だって同じ市民である。何とか、二人をもり立てたいと告示前の総決起集会の記事ではどちらも頑張っているんだと市民の同情を高めるためのいわゆる“お涙頂戴”式の記事を書いたつもりだったが、対立候補を夢中で推している支持者が我が家にまで押しかけ、「A候補を随分、同情的に書いた」とねじ込まれた。

  「そんなことはない。じっくり読み比べてもらえば分かる」と再度、目を通してもらった結果、本人も納得し、「伊藤さん。あんたはいい人だ。おれは気に入った」と感泣された上に、連れてきた部下に「おい。酒を買ってこい。酒だ!」と命じ、上がり込んだ我が家でビール、酒をお互いたらふく飲み、それを契機に未だに兄弟以上に目をかけてもらっているご仁もいる。

  これならいい方だが県議選の勝敗を分析した記事で敗者側を「結局、祇園精舎の鐘の声を聞くことになったのは○○さんとなってしまった」と平家物語をもじった表現をしたら、落選した側の支持者から「祇園精舎とはなんだ。大曲に祇園精舎なんてお寺はないぞ!。一体、どこの寺がおれたちのセンセイが負けたと祝いの鐘を突いたんだ」と不思議な抗議を受けたこともある。ウーン。こちらとしては多少、文学的に表現したつもりだったのにと首を傾げた。

  なぜなら、その県議さん。ベテランでもあり、当選はだれの目にも確実だと思っていた。こちらも事前の情勢から見て、優勢だろうと思い込んでいた。だが、実際の選挙戦の取材を通じて感じたのは、その自信から来る本人も含めた陣営の横柄さ、いわゆる「平氏であらずんば人にあらず」と言ったおごりが見えたからだ。一方では挑戦する側の新人はひたすら“苦行僧”のような表情を浮かべ、それこそ雨の日も風の日も“櫛風沐雨”の姿勢で歩き回ってはマイクを握っていた。“おごり”と“韓信匍匐(ほふく)”の忍の一字。有権者はその姿勢から票の行方を判断する。

  その運動の仕方のあまりの違いにいつの間にか平家物語のイメージが高まって「祇園精舎の鐘の声」となってしまったのだが、「どこのお寺だ」とねじ込まれた時は困ってしまった。いずれ「盛者必衰の理(ことわり)」となってしまった。

  それにしても選挙戦は続く。協和町、中仙町と記事を書き終え、太田町こそは無投票だろうとタカをくくっていたら、二人の新人が対立候補として出馬することになり、明日16日の記者会見の設定となってしまった。そんなわけで今朝、大慌てで太田町へと駆けつけた。高貝久遠町長は「いやー。この町はお祭騒ぎが好きですから、どなたかは必ず出てくると思ってました」と余裕の笑顔だった。こちらも情報不足だったが、高貝町長は選挙戦に向けて1月から後援会事務所を役場前に構え、選挙用のポスターからリーフレットまで全部、用意していたと言うからから驚きだ。

  民主主義の世だから住民がその町や村、市の首長を選ぶ選挙があることはいいことだが、むだな争いまではどうかと思うこともある。まあ、高貝さんが町長として既に3期も4期もやってこられて、町民にそろそろ新鮮さが欲しいとの気持ちがあるのならいいが、まだ1期である。もう少し、余裕を持って高貝町長の手腕を見守ってもいいのではないかと案じながら帰ってきた。

  町長選以外に大曲市では18日から市議選が始まる。定数24人を巡って27人の候補者が、百花繚乱の春を「お願いします」の声をボリュームいっぱいに上げ、選挙カーが市内を駆け回る。読者からは「市議選の記事はいつ出すんだ」と興味本位の注文だ。27人を一人で相手にしなければならない。やれるだろうか。そんなことを考えながら、今日を過ごした。

  朝にはデンマークから英文のメールが来た。日本の方のようだが、パソコンが英文しか書けないためとのことだった。翻訳をアメリカの岩間さんにお願いしたが、岩間さんはいま大阪かシドニーにいるはず。岩間さんからの返事が来るまで、デンマークの方が、この「こちら編集室」に目を通して下さっていることを祈りたい。