【ルポルタージュ】

・変わりゆく弁護士像ー法曹は庶民に近づくか(連載第8回)=4月23日=

フリーランスライター
酒井隼男
 
 司法制度を研究している東北大の小田中聰樹教授(刑事訴訟法)は、今回の改革をどう見ているのだろうか。「戦後維持されてきた司法の枠組みを変える出発点になるでしょうが、消極的な評価にならざるを得ません」と、まずは厳しい評価を下す。そして合格枠制度には、「法律家に要求される素養は『ロジック(法理論)と価値観の統一』だと思いますが、それが25歳くらいで養われることになるのかどうか。人によって差が出てくるのは当然のことで、若年者を優遇する根拠としてはまちがっています。ですから合格者が増えた時点で、ただちに廃止すべきでしょう」と、日弁連とは違った角度から批判的だ。

 「修習期間の短縮は、そのままレベルダウンになるでしょう。法律実務はその期間でもマスターできるかも知れませんが、より根本的にどんな法律家になるのか、体験的に感じとる期間としては短いと思います。促成栽培的な法律家の量産となりかねません。最高裁、検察庁の狙いとしては、早く修習生を囲い込んで、自分なりの教育を施すところにあるのでしょうが、これは発想そのものがおかしいし、果たして思惑通り高い質を持った裁判官なり検察官が出てくるのかどうか、はなはだ疑問です」。

 小田中教授はかつて司法試験に合格し、1963(昭和38)年から修習生を体験した。その経験からいっても2年間というのは意味があると指摘するとともに、裁判所あるいは検察の思惑通り行かないだろうと予想する。

 小田中教授がそう「予言」するには根拠がある。「・・司法の官僚的統制強化と合理化政策の進行の下で、裁判官の主体的思考力は衰退して最高裁判所判例への追随傾向を深め」(法律時報・70巻12号)と、裁判官が「良心に従ひ独立してその職権を行」(憲法第76条第3項)っていないという認識があるからだ。そんな中では「自立してモノ考えぬ」「最高裁の判例に従うだけ」の裁判官を量産することになってしまう、という。教授の指摘する「官僚的統制強化」の実例が、つい最近問題になった仙台地裁・寺西和史判事補の懲戒問題であるのは、明らかである。

 「研修弁護士制度には二つの見方があります。法曹一元の考え方は理解できる面もありますが、希望先と違う人が半年間弁護士見習いとして業務をする事は必ずしもプラスにならないこともあります。ただ裁判所も検察も早く自分たちの必要とする人員を確保することを優先するでしょうから、合意は難しいと思います」と、法曹一元制度実施は今後も困難との見方をしている。

 そして最も懸念するのは、弁護士が大量進出することによる質の変化だという。「規制緩和で弁護士の仕事が増えるという見方もありますが、むしろ当事者責任原則で、司法外で解決を図ろうとするケースが増えるはずです。しかも司法試験合格者以外にも法曹資格を与えるということになれば、司法制度自体が変質してきます。つまり法や正義による解決よりも、かけひきや力関係が優先する事態が予想されます。そう
なると法と人権を守るという弁護士のあり方に、大きなパラダイム(価値)転換が起きるでしょう。それも急激な勢いでやってきます」。

 「弁護士の世界に弱肉強食の理論が持ち込まれたら、はたして人権は守られるのでしょうか。ビジネス化が進むということになれば、(金にならない)弱者の事件をなかなか扱わない事態が予想されます。冤罪事件を告発してきた弁護士は報酬を求めないでやってきた。また弁護士会全体としてもそれをバックアップする『文化』があったのです。改革によってそれが薄れていく恐れがありますね。例えば企業に勤める弁護士が出てくるわけですが、法に忠誠を誓う法律家ではなくて、企業に忠誠を誓う社員になります。こうなると弁護士自治の範囲外になってしまう。かたや『人権でメシは食えない』という意見があります。その通りですが、少なくとも今までの弁護士は別な業務とのバランスをとりながら人権問題に取り組んできた経緯があるのです。社員弁護士にはそれが期待できるでしょうか」。

 「刑事被告人に弁護士を派遣する当番弁護士は自主登録制で、いわば弁護士のボランティア活動ですが、これをやる人は“特別な人”という風潮を恐れますね。したがってむやみに職域を拡大するといった今回の改革には、反対です」。

 ここで弁護士法第1条第1項を再度思い出していただきたい。「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」との根本が揺らぐという、小田中教授の警告は傾聴に値する。

おことわり;小田中教授は今年4月から専修大学法学部教授として活躍されています。

筆者のプロフィール 1958年岩手県生まれ.40歳。1981年大学卒業後、大学生協職員。1995年家業を手伝うため岩手に戻る。家業の
かたわら、1996年から岩手の前沢町、衣川村を発行エリアとする「胆南新報」の記者。その後フリーランスライターを経て現在は業界紙の記
者。

mailto:Akihiro.Sakai@ma6.seikyou.ne.jp