岩間郁夫さんの「モントリオール」の旅から(99・6・7) 

 カナダへの旅は数え切れないほどになる。けれど、アメリカからカナダに入国しても度量衡がメートル法に変わること以外、カナダと云う国を外国と意識したことはあまりない。

 英語圏であること。オーストラリアやイギリスとは違って俗に云うアメリカ英語を話すこと。自国の貨幣が存在するにも関わらず、観光地でも無いところで米ドルを受け付けてくれる。米ドルの価値がカナダドルの1.3倍ぐらいあるので、隣町にある買い物天国と感じるアメリカ人も多いのではないか。

 国際線で空港に着いても、アメリカ生まれの英語を話す人間であれば、アメリカ人と見なされ、正規のパスポートで無く運転免許証の提示で容易に入国を認めてくれる。空港施設にアメリカの入国審査場や税関検査場があり、カナダ国内でアメリカ入国手続きも出来る。アメリカ人にとっては便利ではあるけれど、カナダ人にとっては主権を犯されいるような感じがしないのか?不思議なぐらいである。

 唯一、カナダを感じさせるのは赤の楓の葉をデザインした大きな国旗が何処でも目立つことぐらいであろう。

 

 モントリオールはカナダ東部の経済の中心地であり、周辺都市を合わせると人口400万人ほどの町だと聞いていた。カナダ入国に必要な税関申告書は表が英語、裏はフランス語のフォームになっている。ここまではカナダの何処の空港も同じ。ただ、周りから聞こえてくる空港関係者の会話はまさしくフランス語。案内板の表記のほとんどもフランス語だけ。カナダでは公的な場所では英語とフランス語の表記が求められているのだけれど、ここでは英語の看板を見ることは少ない。

 無論、モントリオールのあるケベック州はフランス語圏であり、過去何回かカナダからの独立を求めて、住民投票などが行われカナダ連邦政府の神経を逆なでしている州である。

 この5月、始めてこの町を訪れる機会があった。空港からタクシーで20分ほどの距離にあるモントリオールのダウンタウンはもっと高層ビルが林立する大きな町だろうと思っていたが、実際はそれよりずっと小さかった。とにかくフランス語の案内が目立つ。ビルのサインや歩道沿いの店の名前、安売り広告の案内、道路標示等々、フランス語表記一色の状態には驚ろかされた。

 北米のパリと自称するだけあって、幅の広い歩道に椅子とテーブルを並べたコーヒーショップや洒落たレストラン。パリの街灯のデザインをそのまま持ち込んだ町。歩道を歩く女性もファッションにはこだわっているようだ。あちこちから聞こえてくるフランス語とフランス語のアクセントが強い英語は何故か魅力的だ。

 

 ケベック州はもともとフランス人入植者が開拓したところ。そこへ、イギリスが先住インデイアンを見方に加え、戦争によって勝ったイギリスが植民地として吸収してしまった。この戦争に巻き込まれたフランス人入植者の悲劇は地元の歴史に深く刻まれている。ともすれば経済で勝るアメリカに容易に呑み込まれてしまう環境の中で、この土地の人達が依然としてフランス語やフランス文化にこだわる背景はやはり民族のほこりのように思う。

 歴史的な怨念とフランス語の持つ独特の響き。モントリオールに来て感じたのは、ここは外国であること云うことだった。冬はマイナス40度に達することがある極寒の町の5月の新緑は妙に新鮮で美しく見えた。

岩間@サンノゼ