こちら編集室「パピーという名の小犬」(6月25日・金)

  このところ余裕がないほど毎日が忙しい。取材、原稿書き、そして読者には笑われるかもしれないが小犬の子育てまで加わった。犬を飼ったのである。家に柴犬の娘がいるからいいようなものなのに、大曲市内の動物病院にその娘の薬をもらいに行ったついでに医師と小犬の話をしていたら、「秋田市でパピヨンのとてもいい小犬が生まれてるんですよ」との話を聞いてしまった。柴犬を飼って以来、犬好き一家となってしまった我が家。「パピヨンってこんな犬なんです」。動物病院の先生は犬の写真集を見開いてその犬を見せた。

  可愛い。ごくりとつばを呑み込んでしまいそうなほど可愛い。パピヨン。耳の形が蝶々に似ていることからその名が付いたという。フランスの王侯貴族に愛された犬種だともいう。妻もその美しい姿から目を放せないでいる。「ほしいね」「見に行こうか」。話しは一気に決まって動物病院から秋田市のパピヨンの家へ電話をさせてもらった。渡部さんという家族だった。「どうぞいつでも見に来て下さい」。渡部さんの明るい弾んだ声が響いた。土曜日、早速、秋田市へ小犬を見に行った。それが5月末だった。

  渡部さん宅ではパピヨンの成犬だけで5頭(?)いた。「ワンワンワン」。初めての客を迎えてパピヨンたちの威嚇の洗礼を受けた。しかし、華麗で縫いぐるみ人形のように舞う可愛い洗礼だった。

  小犬を拝見させてもらった。まだねずみのような大きさだった。でも可愛い。それこそ目に入れても痛くないほどの可愛さだ。家で飼っている柴犬の話をしたら、「柴犬が女の子なら、パピヨンは男の子の方がいいかもしれませんね。女の子同士だとケンカの心配もあるから」と男の子を勧めた。すぐにでも家に連れて行きたかったが、まだ乳離れもしていないため、無理だった。渡部さんからパピヨンの飼い方などの話を聞いて、生まれてから50日過ぎたら連絡しますとの承諾を得てその日は帰った。

  帰る刹那、渡部さんから「小犬の名前を考えておいて下さい」と言われた。名前。帰る車中でいろいろ話し合った。娘は秋に生まれたから「アキ」と単純に決めてしまった。実際の子育ての経験がないから、名前を付けるというのは難儀だった。「どうする」「ウーン」。二人とも考えあぐねてしまった。「ええい。面倒だ。パピヨンという犬なんだからパピーはどうだ」。「ええ。それでいいわ」。妻も簡単にうなずいた。夜、渡部さん宅に電話した。「小犬の名前なんですが、麻原ショウコウとか、林マスミとかいろいろ考えたんですが、何しろ有名人だけに遠慮して、パピーと名付けることにしました」。渡部さんは「麻原」や「マスミ」さんの名前を聞いて戸惑っていたようだが、最後には笑いだし「パピーですね。可愛い名前ですよ」。優しく褒めて、「じゃあ、これからはパピーという名で呼んでおきますから、手渡すころには自分はパピーなんだと分かるようになるでしょう」と言って電話を切った。そして19日、パピヨンは我が家の新しい家族として来た。

 そこまでは良かった。日中はだれも家に居ないため、妻と話し合い、少し大きくなるまでは妻の実家に預けるつもりだった。早速、パピヨンを連れて妻の実家に行ったが、あいにく妻の実家ではネコがいる。そのためにパピヨンが実家で日中過ごせるケージも用意したのだが、ネコはパピヨンを見つけると同時に激しい興奮状態に陥った。さえぎようとすると実家の子どもたちにさえ、爪を立てるほどだった。これは無理だなと判断した。「いいよ。おれが記者室でしばらく子育てしてみるから」。

  こんなことから今週月曜日からパピヨンの子を連れての市役所通いとなった。ケージに入れられたパピーは最初の日、車内で小さな声で泣いたが、記者室でケージのふたを開け、自由にさせると上機嫌で遊び出した。タオルを振るとそれにじゃれつき、縫いぐるみを見つけては相撲を取っている。自分が室内を歩き出すと、ピョンピョンと踊るような足取りで追ってくる。1時間ほど遊んでやると疲れたのか、ケージの中で2時間も3時間も眠っている。

  大変な子育てになるかと心配したが意外と楽だ。昼休みに昼食のドッグフードを少し与える。カリカリ。丸い粒のようなドックフードを小さな音を出して噛んでいる。食べては水を飲み、また走り出す。おとなしいと思っていたらおしっこだ。あわてておむつをあてがい、床の汚れを落とす。そうこうするとウンチである。生きている限り汚物は出てくる。そのたびにパピーの後を追っておむつとティッシュペーパーを手に後片付けとなる。
  噂を聞いて市職員が顔を出しては「可愛い」と抱き上げる。パピーは人が来ると余計に喜ぶようだ。だが、役所で犬を飼うということには自分にも抵抗がある。記者室という独立した部屋があるとはいえ、職員にとっては内心、穏やかではないだろう。いつまでも一緒に記者室で暮らす気はない。パピーが少し大人になって家で一人で留守番できるまでだ。それまでは目をつむっておいてもらいたいと心から願っている。

  自宅では自由に遊べるようにしたが、眠る時はパピーのために用意した柵の中だ。最初の晩は寂しがって泣いたようだが、今は朝までぐっすりと眠っているという。午前5時には目覚める妻が、柵の中からパピーを抱き上げ、遊んでいるようだ。そのパピー。ベッドで眠っている自分の布団に抱き下ろされると夢中で顔中をなめ、「起きてよ」と騒ぐ。「ああ。パピー」。思わず抱き上げて朝を迎える。犬とは幸せを運んでくるものだ。

  午後4時半。今もパピーはケージの中でスヤスヤと眠ったままだ。犬という動物は不思議なものだ。そばにいてくれるだけでこちらも気持ちが和む。人間と犬との付き合いは長い。日本でさえも縄文時代から始まっているという。記者室を留守にして取材に出掛ける時は少し不安にもなるが、パピーは自分が帰るまでジッと待っている。そんな新しい仲間がいま記者室にいる。