こちら編集室「魑魅魍魎の世界」(7月5日・月)

  もう一度、小犬のパピーの事に触れることを許されたい。パピーはその後も、毎日、自分と一緒に市役所記者室に出勤してきている。朝夕、犬のケージを手に市役所の玄関をくぐるのはどこか気恥ずかしい。職員に対しても気重だ。だから二階までだれとも言葉を交わさず、逃げるように駆け抜ける。女子職員の中には「可愛い。抱かせて」と記者室を訪れて、小犬を抱いて喜んでくれる人もいる。中には「少し貸して下さい」と記者室からパピーを抱いて、自分の部屋に連れていった職員もいた。とにかく今のところ平穏無事である。

午前5時に目覚めるパピーはケージから出してもらうと我が家を自由自在に走り、運動を楽しんでいる。時には自分一人で走ることもあるが、大抵はおもちゃを口に「ねえ。遊んでよー」とねだる。おもちゃはクマの顔をした柔らかい縫いぐるみを真ん中に左右に大人の指ほどの太さのロープの輪を付けたものだ。小犬がかじりやすいような構造になっている。

  パピーはその輪を口にくわえ、新聞を手にしている自分の足元に寄ってきては、「ねー。遊んでよー」とばかりに見つめる。きっと読者はその時の我が姿を見たら吹き出してしまうだろうが、こちらは相好を崩して「おー。パピー。遊んでほしいか」とおもちゃを手に「ヨイショ。ヨイショ」と綱引きに興じる。おもちゃをくわえたパピーは必死になって引っ張る。こちらも力加減を調整して引っ張られたり、引っ張ったりを繰り返す。

  時には負けた振りをして綱をパピーに預ける。パピーは大喜びで居間から和室へと走り抜け、綱引きに勝ったことを誇示する。走る姿がピョンピョンとこれまた蝶のようで可愛い。この世にはなんと可愛い動物がいるものかと感心するばかりだ。至福の時間とはこのことだろう。

  パピーとの遊びが終わったら、外でご飯を待っている柴犬の「アキ」とのお付き合いだ。アキは玄関で黙々と食事を済ますと家の中で目を輝かせて「アレッ。なんだ。こいつは」とばかりに居間のドアに立てた垣根ごしにぞき込んでいるパピーをにらみ、「お前こそなんだ。勝手に入り込んで!」とばかりに「ワン」と威嚇する。

  パピーはその声に驚き、ピョンとそれこそ30センチも跳び上がり、妻のいる台所へとすごすごと姿を消す。「アキ。だめだよ。おどしては。お前の新しい弟なんだから」。そんなことを話しかけてもアキには通じないかもしれないが、とにかくなだめるしかない。そして散歩に連れていくことになる。助かるのは玄関でパピーにどこまでも執着することもなく、簡単に外へ出る点だ。いずれパピーも姉(と言っても犬の世界ではもうかなりのおばあさんなのだが)と今後は時々、一緒に外に散歩に連れ出し、お互い慣れてもらおうと思っている。

  パピーのおかげでこのところ市役所記者室への出勤はいつもより20分早くなった。出来れば市の職員の目に触れないうちに記者室へ入りたいためだ。記者室に入ると再び、パピーは元気を取り戻し「遊んでよー」と迫る。仕方がない。今度はタオルを手に再び綱引きとなる。「ヨイショ。ヨイショ」と小さな声で小犬との綱引きだ。そんな姿なんかだれにも見られたくないが、ドアの隙間から見つけられ、再び女子職員がそーと入ってきて可愛いとささやく。パピーはなぜか女の人だとスカートの中に入り込もうとじゃれる。

  犬でも男の子となるとエッチなのかと思わず勘繰りたくさえなる。そんなパピーの様子を見ながら、「パピーはおれがやりたいことを代わりにやってくれるのか」とつい口にしてしまう。抱き上げたくて夢中になっている女子職員はそんなセクハラに近いこちらの口調も耳に入らず、ただひたすら「可愛い」の連続だ。

  とにかく遊んで疲れたら寝る。再び遊んで疲れたら寝るの繰り返しだ。パソコンに向かっている今もパピーは自分の足元でゴロンとお腹を出して眠っている。起きている姿も、眠っている姿もみんな絵になる。パピーは素敵だ。

  昔は暇を見つけては本を読んでいたが、県南日々新聞を始めてからは本さえ読めなくなった。時間がないのである。本を読んでは読めない漢字や意味不明なことわざをノートに記していた。熱心に記録したものだった。いまもそのノートをひもといている。悋気(りんき)を起こさせる。桎梏(しっこく)から放たれた。換骨奪胎(かんこつだったい)。廉直(れんちょく)の士。一世を震駭(しんがい)させる。規矩準縄(きくじゅんじょう)。鞠躬如(きっきょうじょ)とした様。鰥寡孤独(かんかこどく)など読めない漢字、熟語を記してはその意味を調べ、覚えようとしたものだった。

  今夜は飲み会に誘われている。一次会まではいいが、問題は二次会からである。大曲市は飲み屋さんの多いまちだ。あでやかに彩ったママさんたちを見ながら飲む酒は時間を忘れさせてくれる。ママさんだけでない。夜の世界で生きている女の人たちの魅力もまたいい。その人たちの会話に酔い、夢中になったこともある。しかし、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界で揉まれた人たちだ。飲むのもはしゃぐのもほどほどにし、パピーの待っている我が家へ帰るとしよう。

  ここまでは1日に書いた置いた。その後、編集する時間がなく、つい延び延びになっていた。夕べ、パピーの様子を知らせようと秋田市の渡辺さん宅に電話を入れた。インターネットを導入することにしたという話しは以前に聞いていたが、渡辺さんから「新聞見ましたよ。パピーのことを書いてくれたんですね。ありがとう。とても嬉しかった。それにパピーの写真もとっても可愛くて」と喜びの声だった。パピーとインターネットを通じて親しい家族がまた増えた。