四川成都紀行
三国志といえば、テレビや小説などで日本人には孫悟空の活躍する西遊記、梁山泊に集う英雄の物語である水滸伝と合せて有名な中国の歴史伝記です。遥か紀元200年前後、劉邦が建てた前漢の時代が滅亡する頃の実話ですが、今の洛陽付近を中心に栄えた魏の曹操、福建付近一帯を治めた呉の孫堅、そして日本人が一番身近に感じている、劉備玄徳が打ち立てた蜀漢というこの三国の興亡に諸葛孔明などの人物がからみ、壮大な歴史絵巻になっている訳です。今回はその劉備が治めた蜀漢の都である「成都」を訪問しましたので、三国志の名残りを
求めてのレポートをお伝えしましょう。
成都
黄土の北京空港から2時間のフライトを経て、飛行機は緑豊かな成都空港へと着陸しました。四川省の省都である成都は、古くは「巴蜀(はしょく)」と呼ばれていました。西暦221年、劉備玄徳はこの成都に入りましたが、入城するに際し、蜀の桟道と呼ばれた長江の断崖に架る木造の桟道をすべて焼き払い、同行の者達がしばらくは故郷に未練を残さぬようにしたというのは有名な話です。そして国内の振興に努め、国力が高まり兵力が以前より増した段階で桟道建設を進め、軍師諸葛孔明の指揮の下、義兄弟である張飛、関羽とともに中原(今の洛陽、西安周辺)を攻略にかかったわけです。
現在の成都は人口360万人、水利に恵まれ、雲南省の省都である昆明とを結ぶ成昆鉄道や国内航空路も発達し、チベット自治区への入境の拠点となっています。ちなみに中国に住む私たちでもチベット自治区だけは気軽に行くことができず、自治区政府の招待を受けて、成都で入境手続きを行わなければいけません。
空港から市内への道路は現在、高架道路への架け替えの真っ最中です。そのため私たちを乗せた車は裏通りを走ります。軒の低い、北京とはまったく違い日本の旧家屋に似た建物が道に沿って続きます。ここでも相変わらずの人、自転車、バイク、車による渋滞が繰り広げられていますが、30分以上立っても大きな町並みが見えてきません。おかしいなと思ったところで眼前に一気に高層建築物の群れが現れました。「大きい田舎」というフレーズが浮かびました。
地図を眺めますと、成都は街の中心を囲むように環状線が2本囲み、その中を沢山の道路が碁盤の目のように走っているという感じです。この中に大小の建物が混在しているせいか、大きいと言われながらも目で見ると中心部以外はそれほど大きな街に感じないのが特徴なのかもしれません。
武侯祠
三国志で有名な蜀の丞相といえば、日本人には有名な諸葛孔明です。劉備玄徳に三顧の礼で迎えられ、蜀の国を建国した後は丞相として国を盛り立て、劉備亡き後も中国統一のために数々の戦を経て、最後は「死せる孔明生ける仲達を走らす」という言葉でも有名な戦術家でした。この祠が武侯祠です。西晋の末代に建てられ1500年以上の歴史を持つ祠ですが、三国時代の遺物は多くないのが現状です。竹林に覆われたいくつかの棟を過ぎ、ゆっくりと歩いて中に入ります。中国における共通したおもしろいモノとしては、大きな極彩色の塑像がこういった展示に必ずあるということですが、ここでもご多分に漏れず、劉備、諸葛孔明、関羽、張飛などの大きな塑像が安置されています。ここに諸葛孔明の墓があるわけではないのですが、一番奥には劉備玄徳の墓である「漢昭烈廟」があります。円丘墓で高さは10メートルもあるでしょうか。周囲を竹林に覆われ、墓にも竹や他の樹木が生い茂っています。ここに劉備が眠っていると思うと、小学生の頃より親しんだ三国志の世界も一層感慨深いものがありました。
杜甫草堂
武侯祠を後にして杜甫草堂へ向かいます。ところが杜甫草堂は非常にわかりにくい所にあり、タクシーは狭い小路を走り抜けます。道路の周囲は食べ物屋が並び活気に溢れていますが、大丈夫かいと不安になった時に、急に目の前が開け到着しました。杜甫草堂は詩聖として名高い唐時代の詩人である杜甫が、4年間住み、240首の詩を創ったところです。中には伝統的な中国建築が並び(もちろん再建です)竹林と相俟っていい雰囲気を醸し出しています。東屋や少し離れたところにある庵などは再建されたにしても詩を読むには絶好のロケーションです。ふと気がつくと来るまであれほど耳にうるさかった雑踏が、ここでは聞こえないほどの静寂さでした。
陳麻婆豆腐店
さて、いつもは観光名所的な話ですが、今回はグルメもご紹介いたしましょう。その名も陳麻婆豆腐店です。マーボ豆腐といえばすっかり日本では家庭の味になりましたが、これは即席の素の影響が大きいですね。この陳麻婆豆腐店はその発祥の地です。陳お婆さんが考案した麻婆豆腐の伝統を受け継いでいるのですが、やはり繁盛しているようで立派な店構えでした。とはいえ、庶民の味ですから入り口も特になく吹きさらしのホールでみんな食べています。私も椅子に座ってビールと麻婆豆腐、そして水煮牛肉を注文しました。出された麻婆豆腐は写真のとおりですが、一口食べるとこれは辛いと言うより痺れるといった味です。実はこのときは体調万全で挑んだのですが、麻婆豆腐を食べ、極めつけの水煮牛肉(これが凄い。ラー油の中で牛肉を煮たものです)を一口食べたとたん、脂汗が滴り落ち、頭痛がしてきました。このとき飲んだビールの味は甘いの一言です。口の中は麻痺状態、頭は痛い、しまいには動悸まで感じるこの味が四川料理の真骨頂であると感じました。日本で食べているマーボ豆腐はさしずめお子様カレーの離乳食版といったところでしょう。四川省に行かれた際はぜひ挑戦してください。
今回の旅はこのあと雲南省まで足を伸ばしているのですが、目的が地方行財政調査ですので、ほとんど有名な名所には行っていません。残念ではありますが、わずかな時間を見つけて、子供の頃からの憧れだった三国志の世界を少し垣間見れたことは、十分な心のお土産になりました。